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第四章 二人の聖女(アラン視点 前半)
懸想
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あの光景を見てから私はユミを気にせずにいることが出来なくなった。気がつけば、じっと眺めてしまう。私の様子がおかしいと気がついている者は、何も言わずにいてくれたが、それが聖女候補の一人に王子が懸想していると思われていたからだと言うのは流石にわかっていなかった。
「すっかり虜ですね。」
「ん?何がだ。」
「自覚、ないのですか?さっきからずっとユミ様のことばかり、チラチラ見てますよね。あまり見すぎると嫌われますよ。」
言われて初めて気がついた。
「見てない!」
そう言い張る私の周りの人間が微笑ましい雰囲気になる。
いや、そんなことはありえない。だって、彼女は……
「彼女は私に興味がない。だから、私も見ない。」
私の発した声に一抹の寂しさが、予期せぬ形で含まれていて、護衛がしたり顔で私の肩に手を乗せる。
慰められているような形になってしまった。
「アンネリーゼ様が居なくなられて、今の殿下を誰が責められましょう。少なくとも私達、貴方の為に命をかける者達は、殿下の味方です。安心して玉砕されることをお勧めいたします。」
私が振られる前提で話す護衛に腹は立つが、結果はわかりきっている。
彼女は何かを、手元の巾着袋から、取り出している。
躊躇いがちにこちらに来て、それを渡される。
「殿下、体調がお悪いのでしたら、無理はなさらないでください。こちら、使われますか?」
ユミが渡して来たのは、最近開発されたシート状の魔道具で、頭に貼ると、冷たくて熱をとってくれると言うものだ。試供品として、商会から、ユミに渡されたものだ。
火照った部分に貼ると冷たくて気持ち良いことから頭をクリアにしたい時にも貼ったりしている。
先ほどまで、隠れてヒソヒソ話していた内容は聞かれていないよな、と今更ながらソワソワしていると、ユミは用が済んだのでさっさと仕事に戻ってしまう。
私は受け取ったものの、使うこともせずに、それを眺めた。
「殿下、重症ですね。」
護衛はよくわからないことを言ったが、無視した。
ユミを監視していてわかったことは、あの従者に会うのは、そう多くはないことだ。
あの男は、あくまでもアリスの側を離れないで、サポートに徹している。アリサはやはり人格が変わってしまったようだ。
前の彼女を知っている身としてはこのまま大人しくいてくれたらありがたい。ただ、今でも突然前に戻ってくれたら、と思う。
そうなれば、問答無用で、ユミをこの世界に繋ぎ止めていられる。ユミのことを考えるたびに、あんなに大切だったアンネリーゼに対する情が薄くなっていくような気がする。
今、もしも、アンネリーゼが戻ってきたなら、ユミを元の世界に返すことはできるのだろうか。
私ではなく、あの男でも良いから、ユミを返さないように働きかけてもらえないだろうか。
それとも、アンネリーゼを望まなければいいのだろうか。
私の自分勝手な考えに、呆然とする。
リーゼが居なくなったのは事故で、彼女は帰りたいと、思っているかもしれないのに、私の勝手な思いのせいで、婚約者を切り捨てるなんて。私は随分と驕った人間になったと反省した。
「すっかり虜ですね。」
「ん?何がだ。」
「自覚、ないのですか?さっきからずっとユミ様のことばかり、チラチラ見てますよね。あまり見すぎると嫌われますよ。」
言われて初めて気がついた。
「見てない!」
そう言い張る私の周りの人間が微笑ましい雰囲気になる。
いや、そんなことはありえない。だって、彼女は……
「彼女は私に興味がない。だから、私も見ない。」
私の発した声に一抹の寂しさが、予期せぬ形で含まれていて、護衛がしたり顔で私の肩に手を乗せる。
慰められているような形になってしまった。
「アンネリーゼ様が居なくなられて、今の殿下を誰が責められましょう。少なくとも私達、貴方の為に命をかける者達は、殿下の味方です。安心して玉砕されることをお勧めいたします。」
私が振られる前提で話す護衛に腹は立つが、結果はわかりきっている。
彼女は何かを、手元の巾着袋から、取り出している。
躊躇いがちにこちらに来て、それを渡される。
「殿下、体調がお悪いのでしたら、無理はなさらないでください。こちら、使われますか?」
ユミが渡して来たのは、最近開発されたシート状の魔道具で、頭に貼ると、冷たくて熱をとってくれると言うものだ。試供品として、商会から、ユミに渡されたものだ。
火照った部分に貼ると冷たくて気持ち良いことから頭をクリアにしたい時にも貼ったりしている。
先ほどまで、隠れてヒソヒソ話していた内容は聞かれていないよな、と今更ながらソワソワしていると、ユミは用が済んだのでさっさと仕事に戻ってしまう。
私は受け取ったものの、使うこともせずに、それを眺めた。
「殿下、重症ですね。」
護衛はよくわからないことを言ったが、無視した。
ユミを監視していてわかったことは、あの従者に会うのは、そう多くはないことだ。
あの男は、あくまでもアリスの側を離れないで、サポートに徹している。アリサはやはり人格が変わってしまったようだ。
前の彼女を知っている身としてはこのまま大人しくいてくれたらありがたい。ただ、今でも突然前に戻ってくれたら、と思う。
そうなれば、問答無用で、ユミをこの世界に繋ぎ止めていられる。ユミのことを考えるたびに、あんなに大切だったアンネリーゼに対する情が薄くなっていくような気がする。
今、もしも、アンネリーゼが戻ってきたなら、ユミを元の世界に返すことはできるのだろうか。
私ではなく、あの男でも良いから、ユミを返さないように働きかけてもらえないだろうか。
それとも、アンネリーゼを望まなければいいのだろうか。
私の自分勝手な考えに、呆然とする。
リーゼが居なくなったのは事故で、彼女は帰りたいと、思っているかもしれないのに、私の勝手な思いのせいで、婚約者を切り捨てるなんて。私は随分と驕った人間になったと反省した。
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