私が殺した筈の女

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彼女はいなくなった

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役目が終わったのか、カリーナの姿の男は居なくなった。だけど、だからといって悩みの種がなくなったとはいえない。

彼がいなくなる間際に、カリーナに籠絡され、人生を変えた男が一人、ローガンではなく、プリシラに会いに来た。

彼はカリーナに婚約を潰され、婚約破棄の慰謝料にて退学を余儀なくされた伯爵家の元嫡男だ。彼は平民となり、今は借金返済の為働いているらしいが、プリシラとは正直話したことはないし、何の用事があるのか分からなかった。

久しぶりに二人きりのデートの予定だったのに、とローガンは席を立とうとはせずに、恨めしそうにこちらを見ている。

男は、カリーナがローガンの屋敷で働いていたことを聞きつけ、彼女がどうしているか聞きに来たようだ。

「もう、ローガンの屋敷にはいないけれど。」
「ああ、そうなんですね。今更何の用か聞かれても困るのですけど、実は彼女に返さなければならない物がありまして。」

彼の取り出したものは、プリシラが以前無くした髪留めだった。


「これはどこで?」

「学園に居た時に一度しか訪れなかった場所なんですが、西階段の奥に小さな庭があったでしょう?

あの入り口の扉の前に落ちていたんです。僕はずっと彼女の動向を振られても尚諦めなくてただ見ていたんですよ。

まあまあ遠目だったので、そこにご令嬢が二人向かうところしか見ていないんですけどね。

結構あの頃は、寝ても覚めても彼女のことばかり考えていたもので、彼女が出て来るのを待っていた訳です。ところが、待っても待っても出てこない。

あの場所は出入り口が一箇所しかありませんからあそこで張っている限り見失うことは無いわけです。」

プリシラは話の方向がわからなくて、首を傾げる。

「いつまで待っても出てこないから会いに行くと、不思議なことに彼女はいませんでした。あったのは、この髪留めだけ。それも落ちていたという感じではなく、置いて行ったようなそんな感じです。」


「一介の男爵令嬢が買える代物ではないことは見てわかります。僕はあの頃これを身につけていた彼女をよく見ているのですが、これは貴女が与えたのですか。」

「いえ、盗まれたのよ。いつのまにか、知らないうちに。」

ローガンに貰った大切な大切な髪飾り。まさか持っていたのが、カリーナだったなんて。

「まさかカリーナが。」
「いえ、それでですね。ローガン様のプリシラ様に対する溺愛加減は、あの頃学園に居た者は皆知っています。どういう状況にあろうと、あのローガン様がプリシラ様にあげたアクセサリーを、プリシラ様以外につけられるのは耐えられないわけです。そうなると、どうなると思います?」

「彼なら何とか取り返そうとするでしょうね。」

ええ。ローガンはそういう人です。だから、何だと言うのか。話の方向が尚わからなくて、プリシラは混乱する。

「僕、わかってしまったんです。」

彼は目をキラキラと輝かせて、プリシラに衝撃の一言を発した。

「カリーナ嬢は、一度殺されています。今のカリーナ嬢は偽物です。」

だから、何。プリシラはそう言いたいのを我慢して、彼に続きを促した。




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