私が殺した筈の女

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唯一無二

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三年前の出来事はよく覚えている。ローガンは周りに飛び回る羽虫には一切関心はなく、ただいつものように自分の婚約者の様子を見に行こうとして足をとめた。

ローガンの愛情表現は、少し普通の人とは違うみたいで、周りには中々理解して貰えない。

自分の周りのことはよくわからないのに、プリシラの周りにいる者のことはよくわかる。それは彼が注意を払って彼女をよく見ているから。

学園に入ってからプリシラの周りを彷徨いているある女を見かけることがよくあった。女はやけに好戦的で、プリシラの表情は見えなくても、彼女が苛ついていることはわかっていた。

プリシラは身分を弁えず生意気な態度を取られて耐え忍ぶタイプではない。どちらかと言うと、ローガンと同じ。容赦なく消してしまうタイプだ。

ローガンがプリシラを好きなのは、そういう些か物騒な思考をする自分を何の躊躇いもなく受け入れてくれるところだ。所謂似た者同士と言うやつだが、後先を考えないところもやや似ている。

今回のことは、自分にも多分に責任がある。プリシラがあの女を完璧に殺していたことを知りつつも、プリシラに殺されたと言う栄誉を与えられた女に嫉妬し、いや、あの女はまだ生きている、と思い込もうとした結果、ある人の計画に加担してしまったのだ。

ある人は、これまでのプリシラにもローガンにも全く関わりはない。その昔、カリーナとか言う男爵令嬢に籠絡されたうちの一人で、彼自身の人生の尻拭いをさせる為に男爵令嬢が生きていることにしたかったようだ。

実際には、殺された為に学園の在学中に消えた男爵令嬢を留学した体で世間の目を眩ませ、彼の愚かな行動の責任を押し付けられるのだから、死者を貶めたとして、地獄に落ちるかもしれない。

彼自身はすでにカリーナには愛情はなく、ただ我が身可愛さに取り繕っただけで、誰が彼女を始末したかについては興味はないらしい。

迷惑な人間といえども、人を一人殺しておいて、良心の呵責もないのだから、彼を含めてプリシラもローガンもどこか壊れているのだと思う。

ローガンは、プリシラが影を使い、彼女を埋めた場所に花の種を植えた。随分と奥深くに埋められた遺体は、花の養分に有効活用されている。

そういう意味では迷惑だった人間が、死んでから色々な人の役に立つなんて、良かったとしか言いようがない。

ローガンはプリシラの殺しに意味を持たせたくなかった。意味を持たせるならば、愛する人に殺されたい自分自身に意味があると思いたい。

だから、何でもないように、過ごした。彼女は始末できなかったことに怯えたが、殺したことに怯えは感じていなかった。

プリシラには迷いがない。

きっと彼女は何度でもローガンとの仲を邪魔する者は消していくだろう。

それは彼女が殺人鬼なのではなく、ローガンを愛しているから。ローガンにはそれがわかっている。

だから、単なる茶番は早く終わらせて、二人の心の安寧を取り戻したい。

カリーナの出番はもう直ぐ終わる。ならば後は二人の為の肥やしになってくれるはずだ。

ローガンはプリシラとの結婚生活を夢見る。周りがどうあれ、二人が幸せなら、どうとでもなるのだから。
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