私が殺した筈の女

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同じ匂い

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「あれはまた変わった男だな。」

ローガンは自分のことは棚に置きそんな感想を口にする。自分だってプリシラの殺した女に嫉妬するような思考を持ち合わせている。周りから見ればどっちもどっちだろう。

彼は落ちぶれた彼女を自らの手で殺す夢ばかり見ていたと言う。その夢を糧に生きる力を奮い立たせてきたのに。早いうちに彼女は死んでいた。

「彼女の仇を取りたい、とは思わないところが狂っていると思うのだけど。」

「でも抗う術がないなら、諦める、もしくは発想の転換を行うのは共感ができるよ。」

プリシラは最初から今まで、ローガンがプリシラに対していつも味方で、それこそが正しい行為のように振る舞っていることに、少し違和感を覚えていた。

彼はどうやら正しいことには興味がないらしい。ローガンの行動指標は、全てプリシラがどう動くかにかかっている。

全力でプリシラを守ろうとしてくれる彼をプリシラは愛しているが、世間一般からすると、多分間違っている。

「ねえ、もしも、あの時カリーナを私が殺さなくて、貴方と別れる方を選んでいたら、どうしていた?」

「そうだな。そうならなくてよかったと全力で思うけれど、それならプリシラがそう思った元凶を全て取り除いた上でもう一度好きになって貰えるように頑張ったかな。プリシラの周りの男性を全て排除したら、とりあえずの時間稼ぎにはなるだろう?

それか手を汚さない方法なら、プリシラと一緒に逃げる手もあるね。互いしかいない場所で過ごすというのも、きっと楽しいよ。」

ローガンの笑顔はいつもと同じ。貼り付けたような笑顔は、その昔プリシラが自分以外の人にも笑顔を向けてほしいと頼んだ胡散臭い笑顔である。

彼の胡散臭い笑顔を好むご令嬢もいたが、本物の彼の笑顔を見ているプリシラからすれば、うまく笑えているだけの張りぼてだ。

「私の前でその笑顔はしないで。」

ローガンの良さをわからない女に、笑いかける必要なんてない。今ならそう思えるも、昔は人と違うこの男がプリシラは苦手だった。

伯爵家の影の男はあれから姿を見ていない。プリシラは彼を探そうとはしない。何となくそこに目を向けるのは悪手な気がするからだ。

ローガンは勘の良いプリシラを愛している、という。プリシラも今更他の相手など愛せないと思うが、ローガンについて深く知ろうとすることは、ある意味命取りな気がして、目を背けた。

「プリシラ、もう二度と、私と別れるなんて冗談でも口にしないでね。」

ローガンの口調に先程別れた頭のおかしい男のような匂いを感じ取り、プリシラは小さく震えたのだった。
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