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本編 表側
聖女の発見
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「聖女、ぜひ私と結婚してください。」
出会ったばかりの平民に婚姻を申し込む王子を、誰も止めず、王子と同じように跪く臣下を一望し、顔色をなくしている。何でこんなことになっているかと言うと、王子達ご一行は今、奇跡を見たからに相違ない。
雨が降りそうな空に、彼女が手を伸ばした途端、晴れ間が広がった。そして、先ほどまで、こちらを威嚇していた魔獣が、彼女の前ではただの犬のように大人しくなった。そして、極め付けは、彼女の魔法によって、負傷していた兵士の傷が一瞬で治ったのだ。これは聖女に違いない。満場一致の聖女の認定だった。
彼女は平民だが、可愛らしい容貌をしていて、愛嬌がある方だった。だが、普段見ることさえ許されない王子を目の当たりにし、恐ろしくて堪らなかった。
実際彼女は魔法が使えない。雨が降りそうだから、もう降っているのか確認しようとしたら、偶然晴れてきただけだし、魔獣のような犬と言うのは、家のペットだし、一瞬で治したというのは、兵士が働きたくないから嘘をついていたにすぎない。
彼女は青ざめ続けるが、彼女の味方をしてくれたのは、魔獣のような犬のチロだけだった。
「急に申し訳ありません。感動してしまい、咄嗟に口に出してしまいました。」
王子が立ち上がり、非礼を詫びる。
助かったと思ったのも束の間、王子は彼女の手を取ると、軽くくちづけて、そのまま、まっすぐ見つめる。
「返事は、まだ待ちます。良い返事をお聞かせください。」
と、やたらと顔の周りをキラキラさせながら、宣った。
踵を返し、王都へ帰るご一行を見送り、彼女は途方にくれた。
何だこれ。
彼女の周りに徐々に人だかりができていく。「エミリア、大丈夫か?」放心した彼女に最初に声をかけてくれたのは、幼馴染でエミリアの想い人である、アーリオだった。
「わからない。何があったのか。」
未だに放心するエミリアは今の状況を理解できるはずもなく、これからの将来について、不安が押し寄せていた。
アーリオはエミリアを安心させるように強く抱きしめる。いつもなら、ドキドキして、多少のことなど、どうでも良くなるエミリアだが、今日に限ってはなかなか不安は去ってくれなかった。
気づけば、ギュッとアーリオを抱きしめ返すエミリアに、羞恥心はなく、顔色は青いままだった。
そして、その不安が、早くも現実のこととなる。翌日から、王子のお忍びが始まったのだ。
仕事もあるのに、王子の気まぐれに付き合わなくてはならず、不敬を気をつけなければならず、口説かれるのを躱さなければならず、ストレスは徐々に溜まる一方だ。
王子が帰ったあと、アーリオや、家族と話し合う。聖女ではない、と誤解を解かなければならない。
聖教会の力を借りるため、お願いしに行くことになった。勿論、私は聖女なんかじゃない、と証明して貰うためだ。
アーリオも同行してくれると言う。それだけで頼もしく嬉しく感じるなんて。
両親は王子への対応に残して、アーリオとエミリアは旅立った。
出会ったばかりの平民に婚姻を申し込む王子を、誰も止めず、王子と同じように跪く臣下を一望し、顔色をなくしている。何でこんなことになっているかと言うと、王子達ご一行は今、奇跡を見たからに相違ない。
雨が降りそうな空に、彼女が手を伸ばした途端、晴れ間が広がった。そして、先ほどまで、こちらを威嚇していた魔獣が、彼女の前ではただの犬のように大人しくなった。そして、極め付けは、彼女の魔法によって、負傷していた兵士の傷が一瞬で治ったのだ。これは聖女に違いない。満場一致の聖女の認定だった。
彼女は平民だが、可愛らしい容貌をしていて、愛嬌がある方だった。だが、普段見ることさえ許されない王子を目の当たりにし、恐ろしくて堪らなかった。
実際彼女は魔法が使えない。雨が降りそうだから、もう降っているのか確認しようとしたら、偶然晴れてきただけだし、魔獣のような犬と言うのは、家のペットだし、一瞬で治したというのは、兵士が働きたくないから嘘をついていたにすぎない。
彼女は青ざめ続けるが、彼女の味方をしてくれたのは、魔獣のような犬のチロだけだった。
「急に申し訳ありません。感動してしまい、咄嗟に口に出してしまいました。」
王子が立ち上がり、非礼を詫びる。
助かったと思ったのも束の間、王子は彼女の手を取ると、軽くくちづけて、そのまま、まっすぐ見つめる。
「返事は、まだ待ちます。良い返事をお聞かせください。」
と、やたらと顔の周りをキラキラさせながら、宣った。
踵を返し、王都へ帰るご一行を見送り、彼女は途方にくれた。
何だこれ。
彼女の周りに徐々に人だかりができていく。「エミリア、大丈夫か?」放心した彼女に最初に声をかけてくれたのは、幼馴染でエミリアの想い人である、アーリオだった。
「わからない。何があったのか。」
未だに放心するエミリアは今の状況を理解できるはずもなく、これからの将来について、不安が押し寄せていた。
アーリオはエミリアを安心させるように強く抱きしめる。いつもなら、ドキドキして、多少のことなど、どうでも良くなるエミリアだが、今日に限ってはなかなか不安は去ってくれなかった。
気づけば、ギュッとアーリオを抱きしめ返すエミリアに、羞恥心はなく、顔色は青いままだった。
そして、その不安が、早くも現実のこととなる。翌日から、王子のお忍びが始まったのだ。
仕事もあるのに、王子の気まぐれに付き合わなくてはならず、不敬を気をつけなければならず、口説かれるのを躱さなければならず、ストレスは徐々に溜まる一方だ。
王子が帰ったあと、アーリオや、家族と話し合う。聖女ではない、と誤解を解かなければならない。
聖教会の力を借りるため、お願いしに行くことになった。勿論、私は聖女なんかじゃない、と証明して貰うためだ。
アーリオも同行してくれると言う。それだけで頼もしく嬉しく感じるなんて。
両親は王子への対応に残して、アーリオとエミリアは旅立った。
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