私は聖女なんかじゃありません

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本編 表側

強引な王子

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聖教会の本部に行くために乗合馬車を利用する。人が多くて危ないからと、アーリオに抱きしめられながら、待っていると、漸く一台の馬車が到着した。

いつもの馬車と違い、ピカピカと磨き上げられていて、明らかな貴族仕様の馬車に見える。

戸惑っていると、御者が扉を開け、中から王子が現れた。

「やあ、偶然ですね。そちらの方は貴方の護衛騎士ですか?未婚の男女がそんなに近づきすぎると、心無い中傷を受けることになりますよ。」

笑いながら、アーリオに敵意剥き出しの失礼な発言を浴びせるが、エミリアは今までの王子に対するストレスに怒っていたので、不敬のことも忘れて言い返していた。

「失礼ですが、私の大切な人に失礼なことを言うのはやめて下さい。アーリオは護衛騎士ではありませんし、私のために私の用事についてきてくれた優しい人です。急に現れて、失礼な発言で人を傷つけるなんて、王子だからって、許されるのですか?」

王子はニッコリ笑って、こう言った。
「ああ、失礼。怒らせてしまったのですね。では、こうしませんか?貴方の用事には私が付き添います。彼はお忙しいのでしょうから、ここで私と交代しましょう。」

王子の態度に不信感がいっぱいになる。アーリオはエミリアを抱きしめる力を強くして、ニッコリと王子に笑いかけた。

「いえいえ、そちらこそ、王子殿下の手を煩わせるようなことではございません。お気になさらず、王都にお帰りください。」

二人とも笑顔なのだが、緊張感が凄い。
何秒間か、見つめあったのち、意外にも王子が退いた。

ほっとすると同時に恐ろしくなる。
アーリオがこれで目をつけられてしまった。

アーリオは、その後来た乗合馬車に乗り込んでからもずっと、エミリアを抱きしめていて、少し恥ずかしかったが、不謹慎だと思いつつも、嬉しい気持ちでいっぱいだった。

アーリオの大きな体に抱きしめられていると、まるで自分がか弱い女の子になったような錯覚に陥る。アーリオはエミリアに友人以外の気持ちは持っていなくても、エミリアは違う。

告白すらできないけれど、長い間アーリオはエミリアにとって、一番身近にいて、一番愛しい存在の幼馴染だった。

いつかアーリオが振り向いてくれれば良いが、そうでなくても、せめて、好きな人と結婚したい。

平民は平民同士。大それたことは望まない。王子なんて、生まれた時から選択肢にはない。しかもアーリオに噛み付くなんて。王子の評価がさらに下がる。
エミリアは王子を許す気はなかった。

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