私は聖女なんかじゃありません

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「エミリアは、終わったら、どうしたい。」
現実逃避だろうか。今周りで起こっていることはまるで、夢みたいだ。受け入れがたい夢。

頭を撫でて、尋ねると腕の中でエミリアははっきりと口にする。
「私は家に帰りたい。皆と仲良く平和に暮らしたい。アーリオは?どうしたい?」

俺は、と言いかけて止まる。
エミリアにただ心配で、ついて来てただけの俺が。あれよあれよ、と言う間に流されて来て、エミリアを見ると、こちらを不安そうに見つめている。

「俺は、エミリアがいるところに一緒にいたい。」答えになっているような、なっていないような。

エミリアは、ぼうっとした顔で、アーリオを見つめている。アーリオは、一世一代の告白に返事のないエミリアに、笑いかけると、真っ赤な顔でエミリアは俯いた。

今更な感じだが、もう一度抱きしめ直す。
さっきまで正常な動きだった心臓が急に早く動きだして、頭中そのことばかり考えてしまう。

入り口から咳払いが聞こえ、二人は体を離す。

「仲良くて何よりです。」

護衛の人の揶揄うような口振りに、二人は真っ赤になった。

「邪魔して申し訳ないのですが、これからのことを話しますね。」

体が近くなったからなのかワントーン落とした声で、話し出す護衛の様子にただならぬ雰囲気を感じて、緊張が張り詰める。

「聖女様が戻られたら、またお話はあるのですが、一応。あなた方が、自国に戻りたい、と思っているかはわかりませんが、自国に戻って落ち着かれたら、一度わが国にお越しいただきたいのです。勿論、無理にとは言いません。聖女になれ、ともいいません。ただの観光でいいのです。お考えいただけないでしょうか。」

「あの、私魔力も持っていなければ、聖女でもないし、いいのですか?」

「はい。勿論、費用もこちら持ちで、他15人ぐらいまでなら一緒にお越し頂いても結構です。」

「15人…私達に何をさせたいのですか?」

「観光です。」


アーリオが割って入る。

「落ち着いてからでいいと仰いましたけれど、具体的にはどれぐらいに行けばいいのですか。」

「できましたら、3か月後には。半年後、わが国の王太子がご成婚されます。あなた方に会っていただきたいのは、王太子妃になられる御方です。」

アーリオのおかげで、ただの観光ではなく、王太子妃に会うことが判明した。

続きを促すと、小さく息を吐き、囁く。
「ここから先は、国家機密になりますので、くれぐれも他言無用に願います。」



「王太子妃には、友人がおりません。」

は?


「王太子が粘着系の執着男でして。自国に友人が作れなくて困っているのです。他国ですと、政治的なしがらみがあって中々難しいでしょう?

王太子も、叔父のお客様として来られた方なら、失礼なこともできないと、許してもらえるのではないか、と。お二方は平民ですし、貴族間の付き合いなんかも関係ないですし。どうでしょうか?」


エミリアとアーリオは顔を見合わせて、考えこんだ。どうやら、本当のことはまだおしえてくれないらしい。王太子妃の友人が平民なんて、もう少しマシな嘘はなかったのだろうか。

できれば面倒事には巻き込まれたくはない。けれど、巻き込まれた彼らが、私達にしてくれたことの恩返し程度なら手伝ってあげたい。

「考えてみます。」
まだこれだけしか言えないが、護衛は心底嬉しそうな顔をした。



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