公爵令嬢は被害者です

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第八皇子

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第八皇子は、帝国から離れた国に住んでいた。第一皇子の影として、ライモンドが育つまで、その地位に座っていたが、特に何をするわけでもない。ただ兄上からは、大好きな本をずっと読んでいれば良いから、と言い含められその甘言に惑わされてしまった。

兄様からは、隠れて過ごすように言われているが、どの間隠れていたら良いのかわからない。

第八皇子には、ライモンドとの交流は一切ない。可愛い弟の為、とは言っても自身が兄らしいことをする気もあまりない。兄様に、可愛い弟に会わせてほしい、と願ってみたのだが、多分こちら側が信じられないのか、会わせては貰えなかった。弟を害するタイプの兄だと思われたらしく、心外だ。噂によると、彼の方が強そうじゃないか。強い弟と、弱い兄。第八皇子は、本ばかり読んでいる存在で、薬にも毒にもならない存在だ。だからこそ、殺されなかったのだから。


ライモンドの方が強いのなら、会えなくて正解だと思うことにした。帝国から離れて思うことは、あの国はおかしい、と言うこと。何故毎日訳もなく、命を脅かされねばならないのか。頭のおかしな連中に付き合うのは、非常に疲れる。

このコモと言う国は小さく、自然が多い。国土は狭いが、リスルみたいに腐敗はしていなくて、そもそも王家が存在しない。貴族もなく、貧富の差がない。

この国に兄様が自分を連れてきたのには、訳がある。多分、こう言う世界を彼が望んでいるのだろう。

「マヌエル、お前は考えられる男だ。ただ考えるだけでいい。考えて、考え抜いてくれ。どうすれば帝国がより良くなるかを。」

今の帝国では、差し障りのある者がいる。それは特に自分が一番理解している。帝国に生まれる皇子の多くは殺されてしまう。仕組みはよく知らないが、自分達の命、特に皇帝の血を誰かが欲し、それを逃れる術が今のところはない、と言うこと。またこれまではやられっぱなしだったのが、イヴァン叔父様がやらかしたことによって、瓦解のきっかけが掴めたと言うこと。叔父様の印象はあまりない。どちらかと言えば、臆病なイメージで、そんな大それたことは出来なさそうなんだけど。

第八皇子マヌエルは、皇帝の父と、元侯爵令嬢の母を持つ。自分は母似で、三度の飯より本が好き。もうすでに事故で亡くなった第七皇子には、よく本ばかり読めるな、と呆れられていたけれど。何のことはない。喧嘩では勝てないが、口喧嘩では勝てる。自分の勝てる方法を模索した結果だ。第七皇子は、母は違うが、同じ歳と言うこともあり、下の第九皇子とよく一緒に遊んだ。皇子同士の交流は本来あまり褒められたものではないらしいが、兄様曰く、どんどん交流し、新しい価値観を持て、とのことだったので、たくさん遊び、たくさん会った。楽しい日々だった。



第九皇子が事故で還らぬ者となるまでは。

「約束が違います。早すぎませんか。まだ、十にもなっていないのですよ。」

第九皇子の母であるアイリーン妃が、声を荒げ、皇帝に詰め寄る。皇帝はすまない、と呟くのみで、まるで、事故の原因が皇帝にあるような言い分に酷く怒りを覚えた。

最初は腹が立っていたマヌエルも、だんだん周りの人が亡くなっていくにつれ、状況を理解していく。今はまだ自分に価値があるから殺されていないらしい。

誰が殺すかどうかを決めているんだ?

以前見たやりとりから見るに皇帝かもしくは彼が反対できない人が、指示をしている筈だ。

マヌエルは、帝国の歴史を隅から隅まで読み尽くし、調べ尽くした。結果、帝国の皇室はよからぬ勢力に縛られている。

何か方法があるはずだ。私達、皇族が自由になる方法が何か。私が生かされているのは、兄様が言う通り、知識があり、考えられるから。あと、これは自論だが、強くないからいつでも殺せると思って見逃されているのかも。

ライモンドが見逃されているのは、ひとえに兄様と兄上が守っているせいだ。

私達兄弟は父が同じだから、ある程度似るのはわかるのだが、それにしても、兄上とライモンドは似過ぎだと聞く。もしかして、ライモンドは皇太子と間違われて、殺されなかったのかな?


コツコツと、音がして、外を見やると、小さなお客様が来たようだ。

「こんにちは。」
「こんにちは。どうぞ、ごゆっくり見てください。」

ぱあっと瞳を輝かせて、入ってくる小さな女の子と母親らしい女性。マヌエルはコモではただの平民だ。平民しかいないのだから当然働かなくてはいけない。子ども達の為の本を売るのは、識字率が高いコモの豊かな教育の賜物で、これからの帝国に必要なものでもある。何よりもまずは教育だ。

新しい帝国になる際に、自分が例え生きていなくとも、次代に教育の重要性をわかって貰わなくては。

小さなお客様の溢れる笑顔を見て、帝国の未来にこの笑顔を溢れさせたいと願う。理想は理想で、単なる夢物語にならないように。

とは言え、帝国の一大事に、兄様は自分を呼んでくれるのだろうか、と一抹の不安が、よぎる。大丈夫だよね?呼んでくれるよね?

やっぱりライモンドには何が何でもあっておくべきだったか。

兄様をいまいち信用できない。あの人、意外にうっかりしているからな。そう独りごちた。

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