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敵①
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王宮には、比較的和やかな雰囲気が流れていた。前王家に理不尽に虐げられていた出来る人達の環境は大幅に変わり、これ以上ない程の責任と新しい仕事に埋もれる日々。余計な仕事ばかりさせられて忙しい状態とは違い、身のある仕事で忙しいのだから、同じ多忙でも些か許されるはずだ。
一番に異変に気がついたのは、さすがと言っていいのか、フリードだった。
一旦、エリオットに許しをもらうと、颯爽と扉を開き出て行く。エリオットは大きく伸びをして、だらしなく椅子の背もたれに寄りかかると、何かを呟いた。
「あの人だけで、大丈夫?」
マルタの問いかけにも、全く動じない。
「すぐわかる。」
しばらくすると、フリードがお茶の準備をして、帰ってきた。あまりのいつも通りに笑ってしまう。
「お客様の対応は終わったのか?」
「ええ、ちゃんと客間にお通ししました。」
「ご苦労。」
「誰か来たのか?」
何も知らないジェイムズが話に入ってくる。
「ええ。地下の客間にお通ししました。帝国時代の知り合いでして。少し変わった奴でして、地下が大好きな奴なのです。」
ここまで話せば、脳筋のジェイムズでも話が理解できたようだ。
「全員捕まえたのか?」
「いえ、実体のあるものだけです。霊体は自然に消滅しますので、対処は不要です。」
「先程、ライモンドから、連絡が届いてな。それによると、彼らはフリードとライモンドの区別がついていないらしい。」
周りの人達からは、失笑が溢れた。
「お粗末にも程があるが、全員そうなのか?初代から続く団体なのだろう。ちゃんと頭を使える奴がいるのか?」
「身内の恥を晒すのは心苦しいのですが、お恥ずかしい話、彼らを取り仕切る筆頭というのは現皇帝の弟で、兄を殺害し、その地位にとどまったイヴァンという元第三皇子です。
彼は、自身のおかげで、血が薄まったと知らず、初代皇帝のように立ち回るつもりでいます。きっと今頃はライモンドに命乞いでもしているのではないでしょうか。」
「ライモンドは断るだろうな?」
「はい。既に彼に権限はありません。第二皇子を殺し、新たにまたその命が現れた時に、輪廻に影響する力は失われています。そのことにようやく気づけたのです。気付いた時には既に手遅れですが。」
「彼は、自分が永久の命を持つ、と思ってはいなかっただろう?」
「ええ、勿論。はじめは、ですが。しかし、第二皇子を殺した後に、誰かに吹き込まれたのか、勘違いで、自分は永遠の命を与えられたと思い込んだのでしょう。全く、自分に都合の良い言葉しか信じないから、あの方は。」
フリードは心底呆れながら、頭を振って、気分を落ち着かせようとしていた。
「きっと、キャサリン妃が亡くなり、真実にたどり着いた、ってところだと思います。彼女と、自身の兄の共通点を。」
スカーレット・ヘイワーズのように、前世と全く別の人間に生まれ変わるのなら、ある意味、輪廻の輪に入れていると、言えるが、第二皇子のように同じ人生を繰り返すのは、やはり呪いの一種なのでは?と勘繰らずにはいられない。
厳密に言うと、キャサリン妃はスカーレット嬢と、第二皇子の合わせ技で、転生後、同じキャサリン嬢の人生をやり直している。
例えば、今回の人生が失敗だった場合、こちらとは別の世界線でまたキャサリンの命が生まれるか、少し経ってから、全員問答無用で、キャサリン妃に過去に連れ去られることになる、らしい。
キャサリン妃は、初代皇帝の呪いを受けた第二皇子を頂点とする家系に育った御令嬢だ。元々初代皇帝になる予定だった、男の血筋で、ある意味では、彼女達からすれば、正統な血筋だと主張されても、認められるかもしれない。
成人後、ちゃんと生きながらえるのが、第一、第二皇子だけなのだとしたら、家族を迎えられるのも、二人だけに許された特権だ。とは言え、第二皇子に至っては、万が一に皇帝の代わりになったとしても、その子どもが家を継ぐことはないため、皇帝の血を引いているとはとても伝えられずに、家族にも素性を伝えることすらできない。
何度となく、身分を偽った結果、貴族でいるのも煩わしく、平民と身分を偽ることもあったらしい。
第二皇子からの、リリア嬢への宿題は、ライフィーと言う貴族の歴史だが、フリードは少し経ってから気が付いた。
フリードも同じだったからだ。例え、フリードがヴィオラとして再び女性としての生き方に戻るのなら、不幸になることを考えて、子供はつくらないだろうな、とか。それでも、何度も人生をやり直しているうちに、一人は寂しくて、不幸になることがあっても、自分が解決するぐらいの気概で、家族を作りたいと思うのだろうか。
フリードは目の前の主人のエリオットとマルタを見て、微笑みを浮かべる。自分がこのような幸せを手に入れることはないかもしれない。だけど、それはそれで良い。
自分には、もう男性の人生しか残ってはいない。女性としての人生を、送りたいとはもう微塵も思っていない。それは、マルタやリリアを見て感じた素直な気持ちだ。
一番に異変に気がついたのは、さすがと言っていいのか、フリードだった。
一旦、エリオットに許しをもらうと、颯爽と扉を開き出て行く。エリオットは大きく伸びをして、だらしなく椅子の背もたれに寄りかかると、何かを呟いた。
「あの人だけで、大丈夫?」
マルタの問いかけにも、全く動じない。
「すぐわかる。」
しばらくすると、フリードがお茶の準備をして、帰ってきた。あまりのいつも通りに笑ってしまう。
「お客様の対応は終わったのか?」
「ええ、ちゃんと客間にお通ししました。」
「ご苦労。」
「誰か来たのか?」
何も知らないジェイムズが話に入ってくる。
「ええ。地下の客間にお通ししました。帝国時代の知り合いでして。少し変わった奴でして、地下が大好きな奴なのです。」
ここまで話せば、脳筋のジェイムズでも話が理解できたようだ。
「全員捕まえたのか?」
「いえ、実体のあるものだけです。霊体は自然に消滅しますので、対処は不要です。」
「先程、ライモンドから、連絡が届いてな。それによると、彼らはフリードとライモンドの区別がついていないらしい。」
周りの人達からは、失笑が溢れた。
「お粗末にも程があるが、全員そうなのか?初代から続く団体なのだろう。ちゃんと頭を使える奴がいるのか?」
「身内の恥を晒すのは心苦しいのですが、お恥ずかしい話、彼らを取り仕切る筆頭というのは現皇帝の弟で、兄を殺害し、その地位にとどまったイヴァンという元第三皇子です。
彼は、自身のおかげで、血が薄まったと知らず、初代皇帝のように立ち回るつもりでいます。きっと今頃はライモンドに命乞いでもしているのではないでしょうか。」
「ライモンドは断るだろうな?」
「はい。既に彼に権限はありません。第二皇子を殺し、新たにまたその命が現れた時に、輪廻に影響する力は失われています。そのことにようやく気づけたのです。気付いた時には既に手遅れですが。」
「彼は、自分が永久の命を持つ、と思ってはいなかっただろう?」
「ええ、勿論。はじめは、ですが。しかし、第二皇子を殺した後に、誰かに吹き込まれたのか、勘違いで、自分は永遠の命を与えられたと思い込んだのでしょう。全く、自分に都合の良い言葉しか信じないから、あの方は。」
フリードは心底呆れながら、頭を振って、気分を落ち着かせようとしていた。
「きっと、キャサリン妃が亡くなり、真実にたどり着いた、ってところだと思います。彼女と、自身の兄の共通点を。」
スカーレット・ヘイワーズのように、前世と全く別の人間に生まれ変わるのなら、ある意味、輪廻の輪に入れていると、言えるが、第二皇子のように同じ人生を繰り返すのは、やはり呪いの一種なのでは?と勘繰らずにはいられない。
厳密に言うと、キャサリン妃はスカーレット嬢と、第二皇子の合わせ技で、転生後、同じキャサリン嬢の人生をやり直している。
例えば、今回の人生が失敗だった場合、こちらとは別の世界線でまたキャサリンの命が生まれるか、少し経ってから、全員問答無用で、キャサリン妃に過去に連れ去られることになる、らしい。
キャサリン妃は、初代皇帝の呪いを受けた第二皇子を頂点とする家系に育った御令嬢だ。元々初代皇帝になる予定だった、男の血筋で、ある意味では、彼女達からすれば、正統な血筋だと主張されても、認められるかもしれない。
成人後、ちゃんと生きながらえるのが、第一、第二皇子だけなのだとしたら、家族を迎えられるのも、二人だけに許された特権だ。とは言え、第二皇子に至っては、万が一に皇帝の代わりになったとしても、その子どもが家を継ぐことはないため、皇帝の血を引いているとはとても伝えられずに、家族にも素性を伝えることすらできない。
何度となく、身分を偽った結果、貴族でいるのも煩わしく、平民と身分を偽ることもあったらしい。
第二皇子からの、リリア嬢への宿題は、ライフィーと言う貴族の歴史だが、フリードは少し経ってから気が付いた。
フリードも同じだったからだ。例え、フリードがヴィオラとして再び女性としての生き方に戻るのなら、不幸になることを考えて、子供はつくらないだろうな、とか。それでも、何度も人生をやり直しているうちに、一人は寂しくて、不幸になることがあっても、自分が解決するぐらいの気概で、家族を作りたいと思うのだろうか。
フリードは目の前の主人のエリオットとマルタを見て、微笑みを浮かべる。自分がこのような幸せを手に入れることはないかもしれない。だけど、それはそれで良い。
自分には、もう男性の人生しか残ってはいない。女性としての人生を、送りたいとはもう微塵も思っていない。それは、マルタやリリアを見て感じた素直な気持ちだ。
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