親が決めた婚約者ですから

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当事者⑤

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気がついたのは、倒れる前にいた図書室。咄嗟に周りを見渡すと近くにアーサー殿の姿が見える。

あれ?ここはベッドの上ではない。先程倒れて運ばれた部屋ではなく、図書室にいたリチャードは夢を見ていたのかと理解した。

倒れた時にぶつけたところを触っても何も痛くはない。やっぱり夢か。ふと笑いそうになったところをアーサー殿が気づいて声をかけて来た。

「ここにいたんですね。」
アレが夢でなければ体調を気遣う文言が彼から出てくるはずだが、そんなことはなく、アーサー殿からは読んでいた本の内容のことやら、よりわかりやすい本のアドバイスなど。

ああ、完全に夢だ。

リチャードの意識はアレは夢だったと結論付けた。普段夢など見ないのに、夢とはあんなに鮮明に現れるものなのか。

その後も特に体調不良を訴えることもなく、図書室を後にする。アルマ嬢に会ってもいつもと違う感じはしなかった。アルマ嬢はリチャードと話しても取り乱した様子はなく、寧ろ淡々と話をして、更にリチャードを困惑させた。

変な夢だったなぁ。

リチャードはあの渋い声の持ち主に心当たりはなかったが、アーサーの身内かもしれないと、ふと閃いた。辺境に来てはいてもリチャードはアーサー以外に会う機会がなかった。辺境ではどこでもそうかはわからないが食事のタイミングはバラバラで皆で集まることはないと言う。

だから、ちゃっかりお世話になっていると言うのに、いまだにアーサーの父や兄に挨拶ができていない。一度会えるか確認したら、外出していて難しいと言われたので手紙だけは出しておいた。だから、全く挨拶していないかと言うと、そうではなく。アーサーがその辺りは大丈夫と言ってくれているので、気にしていなかった。

リチャードの父はよく辺境伯について、「顔が怖い」と言っていた。中身は男らしく、小さなものには優しい人物らしいのだが、とにかく「顔が怖い」と。悪さをした罪人を連れていて、どちらが罪人かわからないぐらいには「顔が怖い」らしいから、見ればわかるとは言われている。アーサー殿が生まれた折、自分に似ていない綺麗な顔に大層喜んだと言うから、本人としては怖い顔を気にしていたのだろう、と父は笑っていた。


宰相をしている父も、リチャードとは異なり少し怖い顔をしている。元は綺麗な顔だが、宰相としての仕事の重みからか顔に凄みが出ている。父が辺境伯について話をするたびに、幼いリチャードは、「父上だって顔が怖いのになぁ。」と思っていた。

リチャードはそんなことを考えていたから、周りの雰囲気にまるで気がついていなかった。とはいえそれはいつものことだ。

リチャードはとても察しが悪い。

彼の背を見送るアーサーが、ホッとした表情を浮かべていたことに気づくはずもない。

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