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噂⑦婚約者への暴力
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暴力を振るってしまったのは自分とはいえ、人気のない場所でのことに、噂が広まるのが早すぎたことで、漸く第二王子も気がついた。
誰かが悪意を持って噂を広めていることに。ただ気がついたところで、自分に自信しかない彼には、自分を貶めようとしている人物に心当たりなどなく、悶々としていた。
唯一思い当たる相手といえば、あの日自分が殴った男。下位貴族、という噂だったが、あれは一体誰だったんだ?
アレクセイの暴力のせいで、酷い傷を負っていた男はある時期から、学園を休んでいるのかその姿を見なくなった。
あの日以前は何度かレイナの側に姿を見せていたのに。
アレクセイの知り合いではないから、レイナ側の知り合いだろう。ならば確実に下位貴族だから、アレクセイは知りようがない。
レイナのことを考えて、胸が痛むのは、彼女は相変わらず自分は悪くないから、と平然としているが、多分今のままでは彼女は有罪となる。支払い能力のない彼女を、助けたくともアレクセイにも支払い能力がない限り助けてやることはできない。
それこそ、シモン公爵家のような莫大な財がないことには。
ふと、アレクセイの頭の中に、ある考えが思い浮かぶ。
「ああ、その手がある。」
アレクセイの顔が醜く歪み、自分に酔っているのか笑いが抑えきれない様子に、彼を見張る面々は、「きっしょ」と言ったとか言わなかったとか。
アレクセイは一目散に、クラリスを探す。アレクセイの中では近々適当な冤罪をかけて、婚約を破棄してやろうと思っていた女だが、彼女にはレイナを助けるための役目をくれてやる。自分とレイナの為に働けば、お情けをもらえるのだから、嬉しいだろ?という認識なのだが。
クラリスとしては迷惑な話だ。
とはいえこのまま逃げていても話は進まない為、奴との直接対決に向かう。クラリスの側にはたくさんの協力者。それと、アレクセイがクラリスにしたことをありのままに噂にして流してくださる野次馬の方々。
彼らとは、今は共同戦線を張ってはいるが、味方になるのは今回だけ。公爵家と王家を天秤にかけ、公爵家を選んだだけのこと。それで全然構わないとクラリスは思っている。
未来永劫味方だなんて、そんな気味の悪いことは言わない。それは家族やら友人やら特別な関係に限られる。クラリスはそこに有象無象を入れることを望まない。
アレクセイ側は、今の身分から護衛を引き連れてはいるが、護衛の彼は、あの日クラリスを冤罪に、という話を聞く前から、とっくにクラリス陣営である。彼らは王子に仕えているが、実際の雇用主は王子ではなく陛下であり、国に忠誠を誓っている。
王命で決められた婚約者を貶めようとした時点で、彼は王命に背く罪人として、彼らには認識された。
そればかりではなく、彼自身がクラリスとアレクセイを間近で見て、思うことがあったのだろう。
グラントという名の護衛は、その名をアレクセイに呼ばれたことはない。ただ「おい、そこの」と呼ばれて、使われるだけ。
そのことに不満はない。王族とは、高貴な人達は、そんなものだと、理解していた。だが。
グラントはアレクセイの下卑た笑いを見て、クラリスと王子との間に身を置く。何かあれば、すぐにアレクセイを止められる位置にいることで、これ以上アレクセイが堕ちるのを防がなければならない。
彼に伝えられたある噂は、彼には真実に思えた。アレクセイの側にずっとついていたグラントだからこそ信じた噂。
「アレクセイは婚約者に日常的に暴力を振るっている」というものは、思い返してみると、思い当たる節があったのである。
彼は自分が気がついていたにもかかわらず、何の手も打てなかったことを後悔した。だから、クラリスを守る為に、尽力しようと思い立った。
誰かが悪意を持って噂を広めていることに。ただ気がついたところで、自分に自信しかない彼には、自分を貶めようとしている人物に心当たりなどなく、悶々としていた。
唯一思い当たる相手といえば、あの日自分が殴った男。下位貴族、という噂だったが、あれは一体誰だったんだ?
アレクセイの暴力のせいで、酷い傷を負っていた男はある時期から、学園を休んでいるのかその姿を見なくなった。
あの日以前は何度かレイナの側に姿を見せていたのに。
アレクセイの知り合いではないから、レイナ側の知り合いだろう。ならば確実に下位貴族だから、アレクセイは知りようがない。
レイナのことを考えて、胸が痛むのは、彼女は相変わらず自分は悪くないから、と平然としているが、多分今のままでは彼女は有罪となる。支払い能力のない彼女を、助けたくともアレクセイにも支払い能力がない限り助けてやることはできない。
それこそ、シモン公爵家のような莫大な財がないことには。
ふと、アレクセイの頭の中に、ある考えが思い浮かぶ。
「ああ、その手がある。」
アレクセイの顔が醜く歪み、自分に酔っているのか笑いが抑えきれない様子に、彼を見張る面々は、「きっしょ」と言ったとか言わなかったとか。
アレクセイは一目散に、クラリスを探す。アレクセイの中では近々適当な冤罪をかけて、婚約を破棄してやろうと思っていた女だが、彼女にはレイナを助けるための役目をくれてやる。自分とレイナの為に働けば、お情けをもらえるのだから、嬉しいだろ?という認識なのだが。
クラリスとしては迷惑な話だ。
とはいえこのまま逃げていても話は進まない為、奴との直接対決に向かう。クラリスの側にはたくさんの協力者。それと、アレクセイがクラリスにしたことをありのままに噂にして流してくださる野次馬の方々。
彼らとは、今は共同戦線を張ってはいるが、味方になるのは今回だけ。公爵家と王家を天秤にかけ、公爵家を選んだだけのこと。それで全然構わないとクラリスは思っている。
未来永劫味方だなんて、そんな気味の悪いことは言わない。それは家族やら友人やら特別な関係に限られる。クラリスはそこに有象無象を入れることを望まない。
アレクセイ側は、今の身分から護衛を引き連れてはいるが、護衛の彼は、あの日クラリスを冤罪に、という話を聞く前から、とっくにクラリス陣営である。彼らは王子に仕えているが、実際の雇用主は王子ではなく陛下であり、国に忠誠を誓っている。
王命で決められた婚約者を貶めようとした時点で、彼は王命に背く罪人として、彼らには認識された。
そればかりではなく、彼自身がクラリスとアレクセイを間近で見て、思うことがあったのだろう。
グラントという名の護衛は、その名をアレクセイに呼ばれたことはない。ただ「おい、そこの」と呼ばれて、使われるだけ。
そのことに不満はない。王族とは、高貴な人達は、そんなものだと、理解していた。だが。
グラントはアレクセイの下卑た笑いを見て、クラリスと王子との間に身を置く。何かあれば、すぐにアレクセイを止められる位置にいることで、これ以上アレクセイが堕ちるのを防がなければならない。
彼に伝えられたある噂は、彼には真実に思えた。アレクセイの側にずっとついていたグラントだからこそ信じた噂。
「アレクセイは婚約者に日常的に暴力を振るっている」というものは、思い返してみると、思い当たる節があったのである。
彼は自分が気がついていたにもかかわらず、何の手も打てなかったことを後悔した。だから、クラリスを守る為に、尽力しようと思い立った。
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