公爵令嬢に当て馬は役不足です

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男爵夫人の苦悩

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ルモア男爵夫人は事実確認に奔走していた。出先で出会ったご婦人に、とんでもない話を聞いたのである。

どこかの下位貴族の庶子が、あのハリエ公爵令嬢に虐められていると訴えているというのだ。

勿論そんな事実は微塵もなく、勝手に彼女の婚約者を名乗った男と共に処分されるというのだが。

「まさか、うちの、あの娘じゃないでしょうね。」

男爵夫人の頭の中に浮かんだのは、夫が数年前に連れて来た少女の顔。以前働いていたメイドとの間に生まれたと言う娘だが、どう頑張って教育を施そうとも全く覚えないどころか、「私は可愛いから頭が良くなくても大丈夫だ。」と言い放ち、「おばさんにはわからないでしょうけれど。」と此方を見て嘲笑ったのだ。

娘の母親は顔は綺麗だったが腰が低い謙虚な人間だったのに、娘は傍若無人な失礼な子だった。

何度か、アレは貴族としてやっていくのは無理だと夫に進言したのに、夫は全く忠告を無視して、あの娘が身分の高い婿を連れて来てくれる、だの話していたのだった。

「絶対にそれまでに何かやらかすと思っていたわ。」

夫人は娘を引き取ってからは、ここぞと言う時には離婚できるように人しれず準備を進めていたので、事実確認の間に、実家にも連絡を入れておいた。

実家は既に代替わりが済んでいて今は兄が当主だから、妹に甘い兄ならば、離婚後もほとぼりが冷めるまで匿ってくれることになっていた。

「奥様、残念ながらやはり、該当の人物は、クロエお嬢様で間違いないそうです。」
「夫には連絡した?」
「はい。しかし……」
「何?何て言っているの?」
「子供達の些細な行き違いではないのかと。虐めの被害者である娘を信じないのは可哀想ではないかと。」

男爵夫人は、自分の夫がここまで馬鹿だとは信じたくはなかった。だが、そうは言っていられない。

「今すぐハリエ公爵夫人に先触れを出して。夫とあの娘を連れて行くのは危険だわ。まずは謝罪をしなければ、私達は終わるわ。」

ここで重要なのは、娘と夫の保身は望まないと言うことだ。夫は何故か娘の言うことを信じているようだけど、あの娘とそもそもハリエ公爵令嬢が接触する訳がないのだ。全てがあの娘の狂言でしかないのだから、此方ができることは謝罪のみ。話し合いの要素があるとしたら、何故こんなことをしたかの供述のみ。

互いに話し合えると思っていることが間違いなのだ。

夫人は実家にいる時から小さいがずっと続けている商会がある。とても小さな商会だが、自分がまだ伯爵令嬢だった頃から細々と続けて来たのだ。

公爵家に謝罪を受け取られず、彼らを敵に回すことになれば、言わずもがな廃業になり、従業員を路頭に迷わせることになる。

夫人の頭から、夫と義娘は既にない。夫人は馬車の中で、頭を抱えていた。
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