怖い人だと知っていました

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第一部 ダリアとリュード

記憶の中の人

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ダリアの一度目の人生は、多分すぐに終わったわけではない。すぐに死ねば、伯爵家が潰れたことも知らないわけだから。誰だか知らないけれど、ダリアが動けなくなって死ぬまで誰かが、伯爵家が潰されていくのを教えてくれていた。

ダリアはそれがリュードだと思っていた。でも今になって、それは自分の願望だったのではないか、と思った。

婚約者だったダリアが寝起きをしていた部屋は、今の部屋とは違う。だけど、記憶の中の風景と、その部屋から見える風景を見ても記憶と重なる部分がない。

寧ろ、違うからこそ、ダリアは今ショックを受けている。あの時は夫が伯爵家を潰してくれたと思い込んでいたが、違うかもしれないことに気がついたからだ。


ダリアに優しげに話しかけていたのは、一体誰だったのか。それがソフィーを唆し、伯爵家を潰そうと企んだ人と同じだったら?

ダリアは勝手に自分が救われたと思いこんだけれど、それは利用された記憶だとしたら?

リュードの寝息を聞いているとホッとする。生きているのを知るのと同時に自分の生も確実なものだと認識できるから。

一度目の記憶の中の人は、今どうしているのだろう。毒やら絶望感で生きる気力のなかったダリアに優しく寄り添ってくれた人に悪い印象は抱けない。

頭を撫でてもらって、ぐっすり眠れたあの日々は、地獄の中にあった天国だった。今世のダリアには夫という頼もしい、愛する人がいる。だけど、その人には誰か寄り添ってくれる人はいるのだろうか。



夫曰く、ソフィーを操っていた黒幕は、伯爵家に恨みを持っている人だろうということだった。

そんなのたくさんいるのでは?と思ったダリアは正しい。はみ出しものを地で行く彼らには敵がたくさんいる。

どうしても気になって、ヒラリーのもう一人の庶子について聞いてみたが、特に有益な情報は得られなかった。

ヒラリー自身は勿論伯爵を恨んでいる。浮気男の典型的な伯爵は、それこそ母の間にも後妻の間にも愛はないと言いくるめてヒラリーを愛人にした。だけど、自分の産んだ子と、同じぐらいの歳の子がいれば、それは裏切られたと気づくだろう。

誰もに同じことを告げて口説いていたのだ。ダリアの母には「義務」という便利な言葉で縛り付け、後妻には「真実の愛」で縛り付け、ヒラリーには何と言って手を出したのだろう。

「ヒラリーはどうしてソフィーを置いていったのかしら。」
「嫌がらせ、ではないのか。」
「確かに伯爵には嫌がらせだけど、ソフィーには過酷な環境だったでしょう?後妻にとっては邪魔な存在だもの。ソフィーのことを考えたら、連れて行くのが普通じゃない?」
「公爵家の庶子はソフィーが生まれた後一年してから産んでいる。伯爵の次に公爵家の男と縁ができたから、子供は育てられなかったんじゃないか?

それにあのヒラリーとかいう女は伯爵の口車に乗せられた、とずっと喚いていたという。伯爵家の血筋なのに、どうして、と。伯爵家の、例えばダリアの母君に何か特別な力がある、とかは聞いたことがないか。」


リュードは非常にふわっとした言い回しで伯爵家の血筋に何か秘密があると言った。

何故かその話に聞き覚えのあるダリアだが、特別な能力が何かがわからなくて、口を噤んだ。

「伯爵の血を引き継いだ者だけにある能力が現れる、とそう言う眉唾物の話があるんだ。」

リュードの話は、どこかで聞いたような気もするが思い出すことはできなかった。ダリアは自分が人生をやり直しているこのことが能力の恩恵なのではないかと思い始めていた。
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