後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりを受けて我が家が没落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜

さくたろう

文字の大きさ
91 / 108
第4章 陰謀、逆襲、リバイバル

ハッピーエンドはまだ遠いのですわ!

しおりを挟む
 レオンとミーアが連れ立って城の前の広場に姿を現すと、集まった人々の歓声が一際大きくなった。

 ミーアは絹の白いドレスを、レオンもまた絹の、王家を表す深紅の正装に身を包む。夢のような二人の美しさに、婚約に反対していた者たちでさえ、ほう、と感嘆のため息を漏らした。

 大勢の市民たちに見守られながら、若い二人は城から広場まで続く兵士の垣根を左右に見ながらゆっくりと壇上まで歩いて行く。壇上の上には誰も座っていない一際大きく金色のやたらと派手な椅子が置いてある。そこに座るのは、A国全土を統べる者だ。

 広場には兵士達が数多くおり、人々が王族に近づくのを防いでいた。それを見たミーアは優越感に満たされた。
 かつてはあちら側にいたのに、今では平民から羨望のまなざしを向けられている。遂にここまで成り上がった。

 壇上には有力貴族たちが鎮座している。皆王族に近しい者たちだ。彼らは一筋縄ではいかない。祝福、羨望、憎悪、嫉妬。ミーアへ抱く感情は様々だ。しかし、自分に向けられる全てが快感だった。

(まるで物語の主人公みたい……)

 きらめくおとぎ話の中に、ミーアはいた。今だけは手を引くレオンのことも認めてやれる気になった。

 しかし一歩壇上に昇り、貴族たちの中にいるはずのない人物を見た瞬間、ミーアの顔から血の気が引く。
 
「なぜ……! シドニア様が」

 一転、心が戦慄く。
 あり得ない! 彼はここにいてはいけない。

(なんのために昨日、あたしが!)

 立ち止まったミーアをレオンが不思議そうに見る。名を呟かれたことをシドニアに聞かれたのか、不敵な笑みを返された。

「ミーア嬢。私がいてはまずいのかい? なにか不都合でも?」

 平然とシドニアは言う。
 困ることだらけであるのは彼も承知のはずだ。だがその声色にも表情にも、後ろめたいものなど何一つないかのようだ。焦る気持ちを押さえてミーアは首を横に振る。

「いいえ、いらしてくださって嬉しいですわ」

 にこりと笑ったつもりだったが頬が引きつるのが自分でも分かった。
 レオンにエスコートされ、国民からの拍手を浴びてもミーアの背には冷たい汗が流れた。



 二人が位置についたところで国王が現れた。眼光鋭く威厳たっぷりに、ふてぶてしく……いかにも王たる態度で国民の前に現れる。やはり割れんばかりの拍手と歓声が上がった。
 王はそのままにこりともせずに誰も座っていなかった豪華な椅子にゆっくりと座る。

 レオンとミーアは式の初めから終わりまで、ほとんどこの王の前に立つことになる。鋭いにらみから逃れられるのは、式の最後、二人が挨拶する時だけだ。

 波乱だらけの予想に反して、婚約式は滞りなく進んでいく。

 立会人代表としてなんちゃらとかいう貴族の男が開会を宣言し、格式張った挨拶をする。この式はあくまで貴族たちの前で行われ、集まった民衆はただの見物人に過ぎない。だから男の挨拶も貴族に向けられていた。
 ちらりとシドニアに目を向けるが、涼しい顔をしてそれを聞いているだけだ。

 その後レオンが二人を代表して婚約の宣言をした。声高らかなその宣言にも、続いて行われた宣誓書の朗読にも、ミーアの意識は向けられない。気持ちは始終シドニアに向いていたため、ほとんど何を言っていたのか分からなかった。

「ミーア」

 突然名前を呼ばれて顔を上げる。
 目の前にレオンが困ったような顔をしてこちらを見つめていた。周囲の貴族たちの注目もミーアに集まる。

 しまった、なにかまずいことを起こしたか。

 動けずにいるとレオンが咳払いをした。

「婚約の誓いだ。名前を書けばいい」

 立会人の持つ宣誓書を指してそっと伝えられる。既にレオンの名は書いてあった。

「え、ええ……」

 ペンを渡され一文字書いたところでミーアはまたもや固まってしまった。

 『J』

 国王がひどく冷たい目でミーアを見る。貴族たちもこの娘はどうかしたのかとざわめき始める。誰かに見られる前に慌ててその文字を黒く塗りつぶすと、「Mia Gruenyah」と正しい名前を記載した。
 動揺を周囲に悟られただろうか。

(だめだ、しっかりしろ)

 こんなんでどうする。
 これから先はきっともっと過酷な道になる。

(これは、ほんの始まりに過ぎないんだから)

 ミーアはサインをするとレオンに笑いかけた。

「ふふ、緊張してしまって。だってやっと愛する人と一緒になれるんですもの」

 そうだな、とレオンも頷く。
 よかった、疑いはない。

 婚約の誓いは終わった。あとは二人が片方ずつ挨拶をすれば、この長く感じた式も終わる。レオンと共だって王の目前からようやく解放され、貴族達の目の前まで歩いて行く。

 その時だった。
 貴族の中で、予定になく立ち上がった者がいた。

(ああ……)

 ミーアは目がくらむほどの絶望を覚える。
 立ち上がったのは、やはり、というべきか……シドニア・アルフォルトだった。
 
 王の前で障壁となっていた二人が退く、このタイミングをずっと待っていたに違いない。

 周囲がどよめき悲鳴を上げたのは彼が立ち上がったためではない。彼が手に持っていたからだ――黒く光る、その拳銃を。

「ようやくこの時が来た」

 シドニアは拳銃を迷うことなく王に向ける。顔には、未だかつて見たこともないほどの怒りが浮かぶ。

 貴族達が逃げ出す。式を見ていた民衆も、ある者は悲鳴を上げ、またある者はよく見ようと身を乗り出した。兵士達は貴族に当たるのではと銃を構えることをためらっている。また王に銃を向けている相手も貴族だ。撃てるわけがない。王に次ぐ権力者である公爵となればなおさらだ。兵士達は迷い、動けない。

 シドニアの銃は真っ直ぐに王に向けられる。彼と王を結ぶ軌道には障害物はなにもない。やや外れてミーアとレオンがいるだけだ。

「シドニア様! だめよ!」

 ミーアは叫んだ。彼が王に恨みを持っていたのはもちろん知っていた。しかし直接手にかける暴挙に出るなど考えてもみなかった。

 昨日彼を逃がしたのは、計り知れない恩があり、どうかどこかで生きていて欲しいと思ったからだ。こんな場所でこんなことをして欲しかったわけではない。
 
 気がつけばシドニアに向けて駆けだしていた。
 彼の銃から火花が散り、弾が発射されたのはその瞬間だった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との
恋愛
「彼が亡くなった?」 突然の悲報に青褪めたライラは婚約者の葬儀の直後、彼の弟と婚約させられてしまった。 「あり得ないわ⋯⋯あんな粗野で自分勝手な奴と婚約だなんて! 家の為だからと言われても、優しかった婚約者の面影が消えないうちに決めるなんて耐えられない」 次々に変わる恋人を腕に抱いて暴言を吐く新婚約者に苛立ちが募っていく。 家と会社の不正、生徒会での横領事件。 「わたくしは⋯⋯完全なる婚約破棄を準備致します!」 『彼』がいるから、そして『彼』がいたから⋯⋯ずっと前を向いていられる。 人が亡くなるシーンの描写がちょっとあります。グロくはないと思います⋯⋯。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」 「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」 「……え?」  あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。 「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」 「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」  そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。

才能が開花した瞬間、婚約を破棄されました。ついでに実家も追放されました。

キョウキョウ
恋愛
ヴァーレンティア子爵家の令嬢エリアナは、一般人の半分以下という致命的な魔力不足に悩んでいた。伯爵家の跡取りである婚約者ヴィクターからは日々厳しく責められ、自分の価値を見出せずにいた。 そんな彼女が、厳しい指導を乗り越えて伝説の「古代魔法」の習得に成功した。100年以上前から使い手が現れていない、全ての魔法の根源とされる究極の力。喜び勇んで婚約者に報告しようとしたその瞬間―― 「君との婚約を破棄することが決まった」 皮肉にも、人生最高の瞬間が人生最悪の瞬間と重なってしまう。さらに実家からは除籍処分を言い渡され、身一つで屋敷から追い出される。すべてを失ったエリアナ。 だけど、彼女には頼れる師匠がいた。世界最高峰の魔法使いソリウスと共に旅立つことにしたエリアナは、古代魔法の力で次々と困難を解決し、やがて大きな名声を獲得していく。 一方、エリアナを捨てた元婚約者ヴィクターと実家は、不運が重なる厳しい現実に直面する。エリアナの大活躍を知った時には、すべてが手遅れだった。 真の実力と愛を手に入れたエリアナは、もう振り返る理由はない。 これは、自分の価値を理解してくれない者たちを結果的に見返し、厳しい時期に寄り添ってくれた人と幸せを掴む物語。

老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。 婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。 そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。 新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。 しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。 全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。 信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。 ******** 展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!

処理中です...