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先輩と後輩
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お昼、昼食を済ませた秋は九美の自宅前に来ていた。
「あ~、緊張するな~」
無理もない、九美の家に行くのは2年ぶりなのだ。
それでも行動しなければ始まらないとインターホンを鳴らし、
「はい」
「あ、あの~木村 秋です」
そう名のると九美のお母さんは歓迎してくれて、秋は事情を説明する。
「――ということで、九美はいますか?」
「呼んでみるわね、九美~」
秋は会えるか不安だったが九美のお母さんが戻って来て、
「ごめんね、やっぱり出てこないわ」
「いえ、また来ます」
「ごめんね、秋ちゃん」
秋は仕方なく明日また来ることにした······。
日曜日午後、秋は九美の家の前で待ってみることに、また訪ねても出てこないかもしれないから。
――30分、1時間、水分を補給しながらひたすら待つ、時折スマホも見て過ごしてまた30分、ついにその時がやって来た。
玄関から音がして、
「九美っ!」
「っ、先っ輩!」
九美は、玄関を出ていきなり現れた秋に驚いてつい先輩と声が出てしまう。
「······なに?」
「どっか、行くね」
「はぁ? どこだっていいじゃん、要件は?」
「今週さ、学校通らなかったね」
「ロボ先がうるさいから嫌気が差したの」
「本当にそれだけ?」
「何が言いたいわけ?」
秋は軽く息を吐き、
「また、学校来て」
「ありえないし、じゃねっ」
九美は間髪入れず言い返し去ろうとすると、
「待ってっ!」
秋は九美の左手を掴む。
「待って、お願い、来てほしいの······」
「離してよっ!」
手を離すと九美は突然走って逃げ出した。
「ちょちょっ、急になんなのっ!」
驚きつつ走る彼女を追いかける秋。
信号が赤なら右に行き、知ってる角を左に曲がり、逃げて追いかけ10分間駆け回る。
「······はぁっはぁっ、もう無理、はぁっはぁっ」
秋は彼女の左肩に右手を置き、
「タッチ、はぁはぁ······」
振り向いた九美を見て、
「はぁはぁ、どうしてサングラスしてるの?」
「はぁはぁ······この方が、楽だから」
「楽? はぁはぁ」
二人は呼吸を落ち着かせ、
「この方があたしに恐がって近づいてこない、この方があたしはなめられない、だから楽だって言ってんのっ!」
九美はホコリを払い話し始める。
「知ってるでしょ、あたしは中学の頃からいじめられてたの」
「うん」
「先輩が卒業して、あたしに対してのいじめは更に酷くなって、あたしはケンカした······。だからこれがあたしなのっ、分かったでしょっ、だからもう近づかないでっ!」
九美は下を向きそう語る。でも秋には彼女が昔の自分を全て捨てているとは感じず、
「でも、先輩って言ってくれるんだね」
「······なによ」
「勉強、してるの?」
「し、してるわけないでしょ」
「じゃあ、やっぱり来て!」
「はあ? だから無理だって」
「中学の時さあ、メッチャ勉強出来たよね九美」
「だから何、昔の話しよ」
「ロボット先生も言ってたけど、九美いつも帰りの下校の時に通りかかるのって······本当は、学校に来たいからじゃない?」思いきって訊いてみた。
「それは······」
「やっぱり~」
「違うっ!」
「せっかくお互いに会えたんだし、あたしは九美と、もっとちゃんと話をしたい」
その言葉に一瞬沈黙するが、
「······無理よ」
「無理じゃないよ一緒に頑張れば。ロボット先生もいるし」
九美は、
彼女は考えてしまう自分と戦っていた。『もう遅い』と自分に言い聞かせていた。そのため言葉が出ない。
「はぁ―っ、走ったら喉乾くね、飲みかけだけど、飲む?」
九美は答えず黙って手にとり飲んだ。それを見て秋は、
「じゃあ帰ろう、家まで送るわ」
「······うん」
伝えることは伝えた、あとは彼女次第と思い九美を家まで送る。
「じゃあね」
返しの言葉はなかったが彼女が来てくれることを信じて自宅へと帰った······。
――次の日、秋はロボット先生に九美を説得したことを伝えて放課後を待つ事にする。
「先生、九美は」
「まだ姿が見えません」
「来てくれますよね」
「分かりませんが、信じましょう」
10分、15分、見回していると何故か雨が降っていないのに傘をさしている子が、まるで人から見られるのを避けるように顔を隠しながらよそよそしく歩いている。一応同じ制服の子なので話しかけてみた。
「あの~」
秋が傘を覗くと、
「······先、輩」
金髪でサングラスを掛けていたが、学校の制服を着た九美だった。
「九美―!」
制服はしばらくタンスに閉まっていたのか少ししわくちゃ、でも、
「しーっ、静かにしてよ」
「ごめんごめん、先生!」
「九美さん遂に来てくれましたか」
「はい······先輩に説得······されて」
サングラスをしていても、その顔は何となく嬉しそう。
「来てくれて良かったです。では、学校に」
「はい」
「それと、サングラスは外してください」
「えっ、そうですよねやっぱり······」
九美は渋々サングラスを外す、
「はずした方が素敵ですよ」
そこには思わず声が出てしまいそうになるような大きな瞳だった。だがそれが周りからは弱そうに見え、いじめの対象になってしまったのだ。
ロボット先生についていく九美と秋が着いた先は、
「ロボット先生ここは?」
案内された教室の中に他の生徒もいる。
「ここは学校に来るのが苦手な人に私が教える教室です。ここで九美さんも勉強してみるのはどうですか?」
「えっ······」
ついこの間まで不良だった自分が、のうのうと勉強などしてよいものかと悩むと、
「ほーらっ」
秋は九美と目を合わせて頭を縦に降ると、
「やって、みます」
「そうですか」
「本当に良かった。来てくれてありがとね九美、ううっ」
「せ、先輩泣かないでよ」
自分が九美を独りぼっちにしてしまった事で不良になった彼女に罪の意識を持っていた。だからこそ今目の前で足を一歩進んでくれたことが本当に嬉しかったのだ。
「ごめん、嬉しくて」
その二人を見たロボット先生は、気持ちの中でお互い別々の橋のない河川敷のように手の届かない場所に居ても誰かが心の橋を作ることによってこうして再び思いあった二人が出会うことが出来た。なんとも暖かく清らかな気持ちになった先生だった――。
「あ~、緊張するな~」
無理もない、九美の家に行くのは2年ぶりなのだ。
それでも行動しなければ始まらないとインターホンを鳴らし、
「はい」
「あ、あの~木村 秋です」
そう名のると九美のお母さんは歓迎してくれて、秋は事情を説明する。
「――ということで、九美はいますか?」
「呼んでみるわね、九美~」
秋は会えるか不安だったが九美のお母さんが戻って来て、
「ごめんね、やっぱり出てこないわ」
「いえ、また来ます」
「ごめんね、秋ちゃん」
秋は仕方なく明日また来ることにした······。
日曜日午後、秋は九美の家の前で待ってみることに、また訪ねても出てこないかもしれないから。
――30分、1時間、水分を補給しながらひたすら待つ、時折スマホも見て過ごしてまた30分、ついにその時がやって来た。
玄関から音がして、
「九美っ!」
「っ、先っ輩!」
九美は、玄関を出ていきなり現れた秋に驚いてつい先輩と声が出てしまう。
「······なに?」
「どっか、行くね」
「はぁ? どこだっていいじゃん、要件は?」
「今週さ、学校通らなかったね」
「ロボ先がうるさいから嫌気が差したの」
「本当にそれだけ?」
「何が言いたいわけ?」
秋は軽く息を吐き、
「また、学校来て」
「ありえないし、じゃねっ」
九美は間髪入れず言い返し去ろうとすると、
「待ってっ!」
秋は九美の左手を掴む。
「待って、お願い、来てほしいの······」
「離してよっ!」
手を離すと九美は突然走って逃げ出した。
「ちょちょっ、急になんなのっ!」
驚きつつ走る彼女を追いかける秋。
信号が赤なら右に行き、知ってる角を左に曲がり、逃げて追いかけ10分間駆け回る。
「······はぁっはぁっ、もう無理、はぁっはぁっ」
秋は彼女の左肩に右手を置き、
「タッチ、はぁはぁ······」
振り向いた九美を見て、
「はぁはぁ、どうしてサングラスしてるの?」
「はぁはぁ······この方が、楽だから」
「楽? はぁはぁ」
二人は呼吸を落ち着かせ、
「この方があたしに恐がって近づいてこない、この方があたしはなめられない、だから楽だって言ってんのっ!」
九美はホコリを払い話し始める。
「知ってるでしょ、あたしは中学の頃からいじめられてたの」
「うん」
「先輩が卒業して、あたしに対してのいじめは更に酷くなって、あたしはケンカした······。だからこれがあたしなのっ、分かったでしょっ、だからもう近づかないでっ!」
九美は下を向きそう語る。でも秋には彼女が昔の自分を全て捨てているとは感じず、
「でも、先輩って言ってくれるんだね」
「······なによ」
「勉強、してるの?」
「し、してるわけないでしょ」
「じゃあ、やっぱり来て!」
「はあ? だから無理だって」
「中学の時さあ、メッチャ勉強出来たよね九美」
「だから何、昔の話しよ」
「ロボット先生も言ってたけど、九美いつも帰りの下校の時に通りかかるのって······本当は、学校に来たいからじゃない?」思いきって訊いてみた。
「それは······」
「やっぱり~」
「違うっ!」
「せっかくお互いに会えたんだし、あたしは九美と、もっとちゃんと話をしたい」
その言葉に一瞬沈黙するが、
「······無理よ」
「無理じゃないよ一緒に頑張れば。ロボット先生もいるし」
九美は、
彼女は考えてしまう自分と戦っていた。『もう遅い』と自分に言い聞かせていた。そのため言葉が出ない。
「はぁ―っ、走ったら喉乾くね、飲みかけだけど、飲む?」
九美は答えず黙って手にとり飲んだ。それを見て秋は、
「じゃあ帰ろう、家まで送るわ」
「······うん」
伝えることは伝えた、あとは彼女次第と思い九美を家まで送る。
「じゃあね」
返しの言葉はなかったが彼女が来てくれることを信じて自宅へと帰った······。
――次の日、秋はロボット先生に九美を説得したことを伝えて放課後を待つ事にする。
「先生、九美は」
「まだ姿が見えません」
「来てくれますよね」
「分かりませんが、信じましょう」
10分、15分、見回していると何故か雨が降っていないのに傘をさしている子が、まるで人から見られるのを避けるように顔を隠しながらよそよそしく歩いている。一応同じ制服の子なので話しかけてみた。
「あの~」
秋が傘を覗くと、
「······先、輩」
金髪でサングラスを掛けていたが、学校の制服を着た九美だった。
「九美―!」
制服はしばらくタンスに閉まっていたのか少ししわくちゃ、でも、
「しーっ、静かにしてよ」
「ごめんごめん、先生!」
「九美さん遂に来てくれましたか」
「はい······先輩に説得······されて」
サングラスをしていても、その顔は何となく嬉しそう。
「来てくれて良かったです。では、学校に」
「はい」
「それと、サングラスは外してください」
「えっ、そうですよねやっぱり······」
九美は渋々サングラスを外す、
「はずした方が素敵ですよ」
そこには思わず声が出てしまいそうになるような大きな瞳だった。だがそれが周りからは弱そうに見え、いじめの対象になってしまったのだ。
ロボット先生についていく九美と秋が着いた先は、
「ロボット先生ここは?」
案内された教室の中に他の生徒もいる。
「ここは学校に来るのが苦手な人に私が教える教室です。ここで九美さんも勉強してみるのはどうですか?」
「えっ······」
ついこの間まで不良だった自分が、のうのうと勉強などしてよいものかと悩むと、
「ほーらっ」
秋は九美と目を合わせて頭を縦に降ると、
「やって、みます」
「そうですか」
「本当に良かった。来てくれてありがとね九美、ううっ」
「せ、先輩泣かないでよ」
自分が九美を独りぼっちにしてしまった事で不良になった彼女に罪の意識を持っていた。だからこそ今目の前で足を一歩進んでくれたことが本当に嬉しかったのだ。
「ごめん、嬉しくて」
その二人を見たロボット先生は、気持ちの中でお互い別々の橋のない河川敷のように手の届かない場所に居ても誰かが心の橋を作ることによってこうして再び思いあった二人が出会うことが出来た。なんとも暖かく清らかな気持ちになった先生だった――。
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