ロボット先生

ヒムネ

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楽しく、笑顔でw

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 教室は静まり三人は言葉を失った。

 卒業したばかりの時は気にしていたが、時が経つにつれ薄れていって都合よく『ロボット先生はどこかにいる』と皆思っていた。勿論九美も。処分されたかもと心配する気持ちに触れず、この5年間を過ごしてきた。
 そのことが彼等の心にナイフが刺さるような痛みと悲しみを与える。
「皆ごめんなさい、私の力が足りないばかりに」
 大井先生は頭を下げ謝罪した。
「ウウッ、ソンナ、ロボット、先生」
 机に腕を絡め顔を埋めパールは涙をこぼす。
「パール······」
 秋は彼女の両肩を優しく触れる。そして大井先生を見ると、姿勢も良く、眉が下がり目を閉じているが涙を流していない。それは5年間で悔しく悲しく泣いた結果だった。
「パールさんほら、ハンカチ」

「アリガトウ、グスッ」
 高弘はパールにハンカチを渡した。扉の壁際に先生となった九美は、
「先輩方、大井先生はこの5年間ずっと一人でこの事を抱えていたんです」
 秋は涙腺を必死にこらえながら、
「うん、わかってるわ。大井先生ありがとう。ショックだけど大井先生も苦しかったんですね」
 話が聴こえていたパールは震えた声でも笑顔で、
「大井先生、アリガトウ、ぐすっ」感謝する。         

 男一人の高弘は悲しい空気の中落ち着いて、

「大井先生、5年間耐えてくれてありがとうございました。もう一人で悲しまないでください、先生の気持ち自分達も分かりましたから」

 男らしくそれでいてロボット先生のように笑顔で大井先生の気持ちに寄り添う。
「もう、みんな大人ね」
 ニッコリとした先生。
 そしてロボット先生の最後のムービーには、

「皆さん、そう言うことなので、黙っていてすいません。でも、ロボット先生は全然寂しくありません。なぜなら、私は皆の記憶の中にずっと居るからです。ロボットなのにいるのかと言われると痛いですが、ロボットでもそう信じるんです。皆、今まで11ヵ月間ありがとうございました。ロボット先生はいつまでもあなた達のです」

 ロボット先生の短い最後の映像が終わった。
「もう、何よ、わかったようなこと言ってさ、ううっ······」

「へへっ、まったくだ。こっちは会いたいってのに」

「ロボット先生、明ルカッタ、グスッ」

「だめだわ、やっぱりこれ見ると涙が」
 そう言ってハンカチで拭く大井先生、
「先輩方、ぐすっ、これで、終わりです。私達は、このあとも他の元三年生達にこの事を話ます」
 最初に聞いたときは悲しかったけど映像でも会えて嬉しく、さらに笑顔になって涙も出る不思議な教室となった。

 全て語り終わりしばらくして涙も渇れ、
「······ようし今日はみんなで『ロボット先生ありがとうパーティー』しよう、大井先生も」

「そうね、終わったら参加しようかしら」

「アッキー二賛成ー」

「じゃあ先輩、あたしは、真紀達に連絡しますね」

「おいっ、たく~、今泣いたばかりだろ」

 5年目で真実を聞いた彼等にとってそれは悲しい話だった。けれどロボット先生が刻んでくれた記憶が、想いが、最後に彼等を笑顔にする······。

 ――帰り際、学校の入り口に出て道を歩くと何かを感じた。ふと振り向く秋、そこにはロボット先生がほうきを掃きながら笑顔で見守っている、そう感じたのだった······。
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