~マザー·ガーディアン~

ヒムネ

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       “深心域”

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 それで、
「ねえ徹、この人分かる?」
「え······いえ、すいません」
「まあ当然よね、未来や家族の事も覚えてないんじゃさ」
「そうよね~」
 しょうがないと思いつつ昼食を終えた。

「ちょっと未来」
「ん?」
「私思ったんだけど、チャイルドに訊いてみたら?」
「チャイルドにか~······うん、訊いてみるわ」
 愛のアドバイスを言われ、徹を保健室に送ってトレーニング室に向かう時に訓練はダメよと生月先生に注意され、やりませんよと言って向かう······。

「それでさー、徹の記憶どうすれば戻るかわからない? チャイルド」
「現状は、わかりません」
「やっぱりぃ~、どうしよ·····」
 チャイルドでも分からないーー私は徹のように機械を作る事もできないし、いったいどうすればと思っていると、

「ですが、救いだす可能性があるとすれば」

「えっ、あるの?」
「可能性です」
「なになに?」

「徹さんは未来さんにH·T·Mを使って記憶を失いました。ならば、未来さんが徹さんにH·T·Mを使えば可能かもしれません」

 ならすぐお義母さんに訊かなくちゃと霞さんに話に行った。

「――なにっ! 記憶が戻るっ?」
「チャイルドが言うんです。間違いないです」
 そしてトレーニング室に······。

「チャイルド、未来に言った事は本当か?」
「はい、本当です」
「根拠は?」

「未来さんが、妊婦さんだからです」

「えっ、どういうこと?」
「未来さんは融合気候獣と同調したために“心域の奥”」

「“心域の奥”じゃなく名が必要だ、“深心域しんしんいき”とでも呼ぶか」

「“深心域”······」
「その“深心域”に未来さんは入ってしまい、長期眠ってしまいました。そこから救い出すために、徹さん、社長、創造さんでH·T·M完成させ、徹さんが使いました」
「ああそうだ。だからどうするんだ」
「未来さんにH·T·Mを使うには徹さんしかいません」
「つまり、その逆をするには」

「未来さんが徹さんの中に入れば、おそらく」

「そうなのねっ、じゃあ早速」
 でも霞さんは動かない。

「だがその話は、全てH·T·Mが正常に作動していた場合だろ」

「はい、もし徹さんの記憶喪失がH·T·Mの副作用による物だとしたら、記憶が戻るかはわかりません」

「えっ······そんな」

「それだけでなく、未来さんがH·T·Mを使って記憶を無くさないとも言えません」
「ええ!」
 霞さんは壁に寄りかかり、やっぱりかとつぶやきそのあと何も話さずトレーニング室を出て行ってしまった。
「いけると思ったのに······」
 それと私は聞き逃さなかったの。霞さんが『未来』と言ったことを·····。
 保健室に戻ると、遅かったね未来君と、創造さん声を掛けてきたので部屋から出てさっき話した事を伝える。
「――という訳で······」
「なるほど、『H·T·Mを未来君が』か」
「はい」
「H·T·Mは完成したばかりでテストも何もせず試した結果、徹が記憶を失ってしまった······確かに難しい事だ」
「創造さん」
「いや、研究者としてはテストせずに試す事は······いやいや」
 創造さんも困ってる感じだった。
「あの······」
「よし、私はこれから霞に会ってくる」
「え?」
「大切な話だ。一人で悩ますのも悪い、未来君は徹を看てなさい。きっと元気になるよ」
 そう言って向かった。私は悩みながら徹を看ていると、
「どうかしたの未来さん?」
「あ、いえ――徹何してるの?」
「色々手伝ってくれてるのよ」

「はい、寝てばかりも悪いので」

「そうなんだ」
 彼は彼なりに現実と向き合ってるんだ。

「それにね、フフッ、彼は『未来さんの力に少しでもなりたい』ですって。ごちそうさま」

「先生、恥ずかしいですよ」
「徹······」

 そう言われた瞬間、無性にもとの彼に会いたくなった。我慢出来ないくらいに。だから、

「うわっ、未来さん」

 彼を抱きしめる。

「やっぱり······やっぱり、記憶なくしても徹は徹なんだね」

「み、未来さん」

「どうしても前のあなたに会いたい······ぐすっ」

「未来さん、泣いてるんですか?」

「うん、ちょっとね」
 自分の気持ちがわかって、
「私、ちょっと社長室に行ってきます」
「え、なにしに······」
「すぐ分かることだから――行ってくる!」
「あっ、未来さんちょっとっ。心配ね~」

「未来さん······」

 ――H·T·Mを使わして貰おうと二十五階の社長室の扉まで来ると、
「あんたもわかってるだろ。徹がH·T·Mで記憶を失った以上、あれを使うのは危険なんだ」

「しかし······」
「あんたまさか、あの子に使わせようなんて事じゃないだろうな」

「······正直それも考えている。あの子達を見ていると、なにかしなくてはならない気がするのも事実だ」
「――だが、そろそろあいつは」

「社長っ、お願いがっ!」
 思いきって扉を開けた。
「はぁ~、やっぱり、で、なんだ?」

「え? その~、あの機械を」
「『H·T·Mを使わせろ』だろ」

 霞さんに読まれていた。それに唖然として言葉が消えかかる。
「えーッと、その機械を使わせて貰えますか?」
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