~マザー·ガーディアン~

ヒムネ

文字の大きさ
48 / 63

     幻でも君は君

しおりを挟む
 どうして、断ってしまったのだろう。

 でも僕と一緒になると彼女は不幸になる······そう強く感じたんだ。
 なぜかは分からないけど、なにか、気持ちの奥の方で······気づけば僕は涙を流していた······。

 次の日、まだ彼女の事を考えていた。
「昨日泣いてなあ、隅野さん······」
 断ったのに変な自分。そんな事を繰り返し考えているとお昼になったのでコンビニに買いに行く――。

 ――真っ白い空間。
「よし」
 と思ったけれど、このあとどうしていいのか分からない。気候獣なら分かるのにと考えていたら、そこにうる覚えだけど見た事のある小さな子供の姿が、
「この子はたしか······」
 すると子供は私の服を掴み、私は思う。
「あなた、徹の居場所知ってるのね」
 直感で付いていく。

 その時、

「うわっ!」
 眩しくなって······。

「ここは······」
 目を開くと、徹が前に住んでた霞さんの家だった。
「お義母さんの自宅だ······あれ?」
 小さな子の姿がない。
「また消えたのね。しょうがない子」
 その時ドアを開ける音がして、
「もしかして!」
 霞さんの家のドアに向かったら、

「徹ぅ~っ!」

「え、隅野さん······どうして······」
 私が抱きつくと、
「や、止めてください!」

「え?」

「昨日も言ったけど······隅野さんとは、付き合えません」

「はい?」
 れ~せ~に、考えてみた。そういえばこの時は私も記憶がなかったはず、つまり、
「昨日って······」
「蝶祭りの終わりだよ」
 断った?
「どうして断ったのよ」
「それは······」
「それは?」

「僕と付き合うと不幸になる、そんな気がして······」

「徹······」
 私のせいだ。私が徹に沢山心配かけてばっかりで······だから心の奥に自分への罪悪感を持たせてしまったのかもしれない、そう感じた。
「だから、ごめん隅野さん······」

 けれど、

「徹!」

「うわ!」

「思い出して徹」
「な、何を」

「たしかに最近は大変な事ばかりで、あたしも無茶ばかりしたけど、楽しい思い出だってあるじゃない!」

「隅野さん······」

「水族館で沢山なんとかって魚観たり、薬忘れて大変だったり――あとプール、ブッドレアのプールで一日泳いだり、映画も観たし、恋路ヶ浜で愛の鐘鳴らしたじゃん」

 彼の両手を握り覚えてる限りを話す。

 すると頭を抱え、
「未、来······」
「徹!」

「違······うよ······」

「なに?」
「······ハハッ、違うよ」
「な、なにがよ?」

「なんとか、じゃなくて蝶々魚でプールは二日目も行ったし、愛の鐘じゃなくて幸せの鐘だろ」

「徹、記憶が戻ったのね、良かった!」

 抱きつく、今度は『止めて』とは言わない。

「ごめんな未来、オレが助けるはずが逆に助けられちゃって」
「いいの、これで帰れるから、ね、帰ろう」

「ちょっと待って」

 え、と思いながら徹に付いていく······。

「ねえ、なんで電車に乗るの?」
「もう少し待っててよ」
 せっかく帰れるのに。電車を降りて着いた先は、
「私の自宅······もしかして」
「未来はここで待ってて······」
 徹がインターホンを鳴らす。
「は~い」
「徹です。あの~、隅野さん居ますか?」
「ちょっと待ってて、未来ィ~、徹君よ~」
 少しして階段の音が、

「道長君······」

「隅野さん······」

 私は気になってコッソリ見に行った。そこには、むむ、若い私の姿が、
「何、しに来たの······」

「あ、あの、お祭りの事だけど取り消しにして――僕と付き合ってほしい!」

「え······」

「急にでごめん、ただ、あの時······とても不安で、僕が君を不幸にしてしまうと思って、それで······」

「そんな、勝手よ、道長君、ぐすっ」
「ホントごめん······でも気が付いた時、諦めきれなくて」

「もう道長君······嬉しいのか悲しいのか分かんない」
「許して、くれるかな······」

「週に一回は必ず······デートしてくれるなら許してあげる」

「うん約束するよ」
「ホント?」
「うん······さすが未来だ······」
「え?」
「――じゃあ帰るよ、許してくれてありがとう隅野さん」
「うん、じゃあね道長君」
「またね······」

 徹が戻って来たとき私は感動で、
「うっ、うっ」
 泣いていた。
「み、未来、泣いてるの?」
「だっで、何が、感動しちゃっでよかったね私って」
「おいおい自分だぞ」
「分かってる······でもどうしてこんな事?」

「だって、例えあの未来が幻でも、未来は未来だから」

「なによっ、カッコ付けちゃってもう」
「じゃあ帰ろうか」
「うん」
「帰り方わかるの?」
「大丈夫、前と同じ」

 そう、素直になって互いを感じ合う······。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

処理中です...