~マザー·ガーディアン~

ヒムネ

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     親父になる男

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「――着きました」
 神奈川県の大磯こゆるぎの浜、ここを拠点に台風の動きを見て行動するの。この仕事していつも思う、どこでも行けるのは嬉しいんだけれどやっぱり青い空の日に自分の好きな人達と来たいな。
 三十分、一時間と経過している間、会社が用意したキャンピングカーの中で待機して夜食を取って待つ······。

 ――午後六時、
「うわっ、道長君まだ屋上に居たの」
「心拠さん」
「もう、何やってるの、未来は行っちゃったよ!」
「え、未来が?」
「神奈川県の大磯こゆるぎの浜って所に、いいの?」
「そうなのか、でも······」
「何ウジウジしてるのよ!」
 オレは自分の自信を失っていた。

 だけど三十分後――。

 扉を開いて来たのは、
「徹か?」
「守······」
 彼の後ろには心拠さんが、
「あたしじゃダメだと思って頼んでみたの」
 更に扉の近くに母さんと父さんが、日が沈む中皆顔を揃えた。

「お前らしくねえ姿だな」
「守、オレは」
「んで、何でここに居るんだよ、隅野さんが心配じゃねえのか?」

「オレじゃダメなんだ」

「はあ?」
「オレじゃ未来は止まらなかった。だから」
 守は頬を指で掻きながら、
「だからなんだよ。止まらなかったから仕方なくサポートしてやりゃ良いじゃねえか」

 オレは立ち、

「オレは怖いんだ!」
「それって――」
「未来の眠っていた姿をまた見るんじゃないかって!」
「やっぱそうか、まだビビってたのか」
「知ってたのか?」
「お前酔ってるときに言ってたからな······はぁ~」
 守は腕を組んで、
「そんなんで守れんのかよ」
「未来か?」

「家族をだよっ!」

「そ、それは」

「今隅野さんは、その家族を一人で守ろうとしてるんじゃねえかっ、妊婦さんなのに!」

 オレは? ちがう······、

「独りの辛さ、お前なら解るだろ」

「守······」

 違う! 俺達、だ、

「ううっ、未来」

「親父になるんだろ、生まれてくる子供に情けねえ姿見せたくねえだろ」

「へへ、臭セェ事言うなよ」
 涙をぬぐい、

「道長君、目覚めた?」  
「うん! そうだよな······オレ、親父になるんだもんな」

 オレと未来は家族・・になるんだ。

 オレは怖がって未来を止める事しか考えていなかった。今の未来の事も、この先生まれる子供の事も考えずに。

「皆ごめん、迷惑をかけた」
「全くだぜ!」
「良かった」

「――母さん、父さんも」
「おや、分かってたのか」
「フフッ」
 扉の近くから二人も来て、
「徹······」
「母さん」

 その時、

 「う!」

 オレの頬を叩く、

「おばさん!」
「社長!」

「何で叩かれたかわかるか?」

「うん」

「あたしは、自分の女を泣かせたり、苦しませるような男は嫌いだ」

「分かってる、今思い返しても最低だ。自分を許せなくなる」
「だが徹、まだ間に合う」
「ああ、未来をサポートしなきゃ!」
「では今から出発しよう」

「ああ、父さん。あと守」
「んあ?」
「オレのために来てくれたけど······」

「オレも聴いちまって心配だから付いていくよ」

「分かった!」
「すまないね、大地君」
「ははっ、別にいいっスよ、おばさん」

 皆で走った、未来を助けるために。そしてオレは謝りたい、未来に······。

 会社のキャンピングカーを用意して、
「じゃあ行くぞ」
 オレは目をつぶる。すると、眠っている未来が見えた。でも、またオレが助ければいい、そう思い考えていた。
「······ちょっと待って父さん」
「ん? ああ」
「持ってくるから待っててくれ」
「分かった」
「守、手伝ってくれ」
「おう」
 オフィスに待ってて貰いエレベーターに乗る。

「生月先生」
「あ、徹君、大丈夫?」
「はい、皆のおかげで」
「そう、良かったわ。それで、何しに?」
「いえ、生月先生にもこれから未来をサポートしに行くので挨拶に」
「そうだったの、じゃあ一言」
「はい」

「未来さんは、あなたが居れば大丈夫、気を付けてね」

「はい、ありがとうございます。生月先生――」
 生月先生から力強い言葉を頂いた。

「――おーい、徹、まだか?」
「ハァ、ハァ、お待たせ!」
 階段で一階に降りて守に、
「すまん、こっちだ」
 地下に行き、
「あった!」
「何だ?」
「よし、キャンピングカーに戻ろう」

「――ごめん、待たせた」

「H·T·M、徹、お前まさか」

「うん、もしかしたら未来の役にたつかもしれない」
「また記憶を失ったらどうするつもりだ」

「そしたら、そしたらまた未来に助けてもらう!」
 彼女を助けて時には助けてもらう、それが家族だから。

「······フッ」

 母さんが笑った。

「よし、発進しな創造!」
 午後七時三十五分、神奈川県に向け発つ。もう夜なので暗いのは当たり前だが雲も不気味に見えて、更に心配だ――。

 だが一時間後、
「父さん、どうしたの?」
「渋滞にハマってしまったよ」
 台風が来る影響で、東京高速道路は渋滞だったのだ。
「まいったなー」
 オレがそわそわしだす。未来が行く時付いていけば良かったと今更後悔すると、
「落ち着いて道長君······LINE電話してみたら?」
「そうか!」焦って忘れていたがすぐ連絡するが、
「······ダメだ出ない」
「どうして」
 オレだけじゃなく心拠さんのスマホでも出なかった。

「なあ母さん」
「ん、何だ焦って」
「未来に連絡したいんだけど」
「それは無理だ、会社でなけりゃ······スマホで掛けてみればいいじゃないか」
「それが、掛けても出ないんだよ」

「マザー·ガーディアンと直接繋げて連絡するにも現地に着かなきゃどうしようもない、辛抱しな」

「······うん」
 もしかしたら声すら聞きたくないのかも知れない。散々怒ったもんな~っと一人沈む。
「おい大丈夫か?」
「ああ、もうくじけないさ、守」
「その意気だ、ぜっ!」
「いた、ちょっと今のは痛かったぞ」
「へへ」キャンピングカーの中で和んでいたら、
「う~む、少し風も強くなってきたな」
「え」
 窓から覗くと木が風で揺られてきた。
「ホントね、未来、大丈夫かなー」
「心拠さん」
「ごめんね、道長君も心配なのに」
「いや、無理もないよ」
 こんな不安を煽るような所で未来は独り立ち向かっているのかと、そう思う――。
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