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目撃した人
下校時刻
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三年生の峯岸ゆりがバイトからの帰宅途中で事故にあった。バイト先のカラオケ店と彼女の家の丁度中間地点の横断歩道でトラックに轢かれたのだ。
どうやら峯岸は赤信号の横断歩道に侵入したらしい。一時意識不明だったが、入院した翌日意識を取り戻した。しかしまだパニックになっているらしく、何があったのか本人からは何一つ聞けていない。
峯岸とぶつかったトラックの運転手は事故の瞬間よそ見をしていたようだ。ドライブレコーダーは付けておらず、衝突時に何があったのかはわからない。
しかし、奇妙な事が一つあった。少し離れたところで事故を目撃した人がおかしな証言をしているのだ。
この目撃者曰く、事故が起きた時峯岸の後ろには誰もいなかった。それなのに峯岸は後ろから車道に向かって誰かに突き飛ばされたように見えたそうだ。
峯岸はいい子だ。挨拶も毎朝ちゃんとしてくれるし遅刻もしない。私の体育の授業も真面目に受けている。その峯岸が事故にあった。
普段の彼女からは自らトラックに向かって飛び出すなんてとても考えられない。ご両親もあり得ないと仰っていた。そうなると、彼女を突き飛ばした犯人が絶対にいたはずだと私は考えている。
事故の目撃者は誰もいなかったと言っているが、きっと記憶違いだろう。都市伝説が現実になるなんて馬鹿な話はない。私がこの手で必ず犯人を捕まえてやる。
学校は対策として一ヶ月間毎日、先生五人体制で見回りをすることを決めた。日替わりの当番制で男の先生が見回りをして事故を防ぐのだ。もちろん生徒指導の私は毎日に見回りに参加する予定だ。
「宮田先生」
「……は、はいっ」
職員室の自分のデスクで見回りについて考えていると、教頭先生から声をかけられた。元体育教師の教頭先生は私よりも十歳以上年上だが、今も逞しい体型をしている。彫が深く貫禄のある顔をしているので普通の顔でも目が合うと緊張してしまう。
「見回りを毎日担当してくれると聞きました。本当に大丈夫ですか?」
教頭先生は心配そうな顔をしていた。
「ええ、生徒たちのためなら私は何でもやるつもりなので」
「それはとてもいい心がけだと思います。ですがくれぐれも無理はしないでください。生徒たちが大切なのと同じく、先生方も学校にとってとっても大切な存在なんですから」
教頭先生は渋い笑顔でそう言った。ポーズではなく心からそう思って言ってくれているのだろう。目を見ればそれがよくわかった。
「ありがとうございます。もちろん気をつけます」
教頭先生は私の返事を聞くと満足そうに頷き、「それではよろしくお願いします」と言って職員室を出て行った。いつか私もあんな先生になりたいと思った。
その後、特に何事もなく今日の授業が終わった。そして部活動の時間も穏やかに終わっていった。
絶対下校の時刻の五分前になり、私は門を閉めるために正門に向かった。
「さようならー」
「おう、さよなら。また明日な」
「先生疲れたー」
「早く帰ってちゃんと休めよ。あとくれぐれも歩きスマホはするなよ」
「はーい、さようならー」
下校していく生徒たちに声をかけながら見送る。無事にみんな家に帰って欲しい、そしてまた明日元気な顔を見せて欲しい。夕暮れの中帰っていく生徒たちの背中を見て心からそう思った。
下校時刻が過ぎたので門を閉めることにした。重たい門をゆっくりと引っ張って閉めようとしたその時だった。
「宮田先生は生徒思いのいい先生ですね」
突然背後から話しかけられた。
慌てて振り向くと黒いスーツを着た男性が立っていた。ちゃんと周りを確認して、もう門を通る人は誰もいないと思ったはずなのに。
私が驚いていると、白髪で背が高く六十代後半ぐらいに見えるその男性は私に優しく微笑みかけてきた。
どうやら峯岸は赤信号の横断歩道に侵入したらしい。一時意識不明だったが、入院した翌日意識を取り戻した。しかしまだパニックになっているらしく、何があったのか本人からは何一つ聞けていない。
峯岸とぶつかったトラックの運転手は事故の瞬間よそ見をしていたようだ。ドライブレコーダーは付けておらず、衝突時に何があったのかはわからない。
しかし、奇妙な事が一つあった。少し離れたところで事故を目撃した人がおかしな証言をしているのだ。
この目撃者曰く、事故が起きた時峯岸の後ろには誰もいなかった。それなのに峯岸は後ろから車道に向かって誰かに突き飛ばされたように見えたそうだ。
峯岸はいい子だ。挨拶も毎朝ちゃんとしてくれるし遅刻もしない。私の体育の授業も真面目に受けている。その峯岸が事故にあった。
普段の彼女からは自らトラックに向かって飛び出すなんてとても考えられない。ご両親もあり得ないと仰っていた。そうなると、彼女を突き飛ばした犯人が絶対にいたはずだと私は考えている。
事故の目撃者は誰もいなかったと言っているが、きっと記憶違いだろう。都市伝説が現実になるなんて馬鹿な話はない。私がこの手で必ず犯人を捕まえてやる。
学校は対策として一ヶ月間毎日、先生五人体制で見回りをすることを決めた。日替わりの当番制で男の先生が見回りをして事故を防ぐのだ。もちろん生徒指導の私は毎日に見回りに参加する予定だ。
「宮田先生」
「……は、はいっ」
職員室の自分のデスクで見回りについて考えていると、教頭先生から声をかけられた。元体育教師の教頭先生は私よりも十歳以上年上だが、今も逞しい体型をしている。彫が深く貫禄のある顔をしているので普通の顔でも目が合うと緊張してしまう。
「見回りを毎日担当してくれると聞きました。本当に大丈夫ですか?」
教頭先生は心配そうな顔をしていた。
「ええ、生徒たちのためなら私は何でもやるつもりなので」
「それはとてもいい心がけだと思います。ですがくれぐれも無理はしないでください。生徒たちが大切なのと同じく、先生方も学校にとってとっても大切な存在なんですから」
教頭先生は渋い笑顔でそう言った。ポーズではなく心からそう思って言ってくれているのだろう。目を見ればそれがよくわかった。
「ありがとうございます。もちろん気をつけます」
教頭先生は私の返事を聞くと満足そうに頷き、「それではよろしくお願いします」と言って職員室を出て行った。いつか私もあんな先生になりたいと思った。
その後、特に何事もなく今日の授業が終わった。そして部活動の時間も穏やかに終わっていった。
絶対下校の時刻の五分前になり、私は門を閉めるために正門に向かった。
「さようならー」
「おう、さよなら。また明日な」
「先生疲れたー」
「早く帰ってちゃんと休めよ。あとくれぐれも歩きスマホはするなよ」
「はーい、さようならー」
下校していく生徒たちに声をかけながら見送る。無事にみんな家に帰って欲しい、そしてまた明日元気な顔を見せて欲しい。夕暮れの中帰っていく生徒たちの背中を見て心からそう思った。
下校時刻が過ぎたので門を閉めることにした。重たい門をゆっくりと引っ張って閉めようとしたその時だった。
「宮田先生は生徒思いのいい先生ですね」
突然背後から話しかけられた。
慌てて振り向くと黒いスーツを着た男性が立っていた。ちゃんと周りを確認して、もう門を通る人は誰もいないと思ったはずなのに。
私が驚いていると、白髪で背が高く六十代後半ぐらいに見えるその男性は私に優しく微笑みかけてきた。
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