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目撃した人
黒いスーツの男性
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「これはすみません。気づかずに門を閉めてしまうところでした」
私が頭をかきながら言うと男性は優しい笑顔で首を振った。
「お気になさらないでください。たった今出てきたところですので。それにしても宮田先生は生徒思いなんですね。生徒たちを送り出すあなたを校舎から見て私は感動したんです。あなたは先生の鏡だ」
突然褒められた私は驚いて少し戸惑ってしまった。
「いやいやそんな、お恥ずかしい。私なんてまだまだですよ」
「そうでしょうか? 私はそうは思いませんが」
男性はそう言うと少し眉間に皺を寄せて首を傾げた。しかしそれも束の間、すぐにまた優しい笑顔で話し始めた。
「それにしても子どもたちの成長を見るのはいいものですね。人間はいくつになっても成長ができるとはいえ、子どもたちの成長スピードには敵いません。見ていて驚かされることばかりです」
この男性も教育関係者なのだろうか。どこかの学校の先生かもしれない。楽しそうに話す姿を見てそう思った。
「おっしゃる通りです。私は毎日彼女たちが成長する姿を見るのが楽しみなんですよ」
「ふふふ、きっとそうなんだろうなと思いました。やはりあなたはいい先生だ。ああ、すみませんお仕事の最中だというのに」
「いえ、とんでもない」
「お仕事頑張ってくださいね。それでは私はこれで」
男性はそう言って軽く会釈をすると颯爽と去っていった。
とても感じのいい男性だった。話していて気持ちがいい紳士的な男性。でも何故か少し引っかかった。
常に優しい笑顔で話してくれた。でも、目だけは一度も笑っていなかったように見えたのだ。気のせいかもしれない。でも、本心で話しているのかどうかがわからなかった。
それに初対面にも関わらずあの男性は私の名前を知っていた。後ろからは胸に下げた名札は見えないはずだ。生徒たちの話し声を聞いていたのかもしれないが、なんだかそれも引っかかった。
「宮田先生、そろそろ行きませんか?」
スーツの男性が歩いて行った方向を眺めていると後ろから声をかけられた。振り返ると同じ体育教師の鈴木先生だった。鈴木先生は私の八つ年下の男の先生だ。イケメンで生徒たちの間で人気なのが少し羨ましい。いや、本当はすごく羨ましい。
「すまん、今帰っていった人が誰か気になって」
「今帰ったって、誰かいましたか?」
「ついさっき黒いスーツの男性が帰ったんだ」
「そんな人いましたか? 校舎で門を閉めようとしている宮田先生を見て声をかけにきたんですが、そんな人見えませんでしたよ?」
宮田先生は不思議そうな顔で私を見る。
「え? いやいや確かにいたんだ。ほらあそこに……あれ?」
私はスーツの男性が歩いて行った方向を指さしたが、もうそこには誰もいなかった。
「しっかりしてくださいよー。これから毎日見回りするって自分から手を挙げた人がそんなんでどうするんですか。もしかして疲れてます?」
「いや、そんなことはないんだが……確かにいたんだ、スーツを着た白髪の男性が」
「え、本当ですか? じゃあ私の見間違いかな……すみません」
「いや、気にしないでくれ。暗くて見えなかったんだろう。さあ行こう」
私は少し強引に話を終わらせた。
暗いと言うほどまだ暗くなっておらず、校舎や門の周りにも電灯がある。暗くて見間違えることなんてまずあり得ない。
しかしここであれこれ考えても仕方がない。私はスーツの男性の事を気にしないことにした。
私たちは見回りの準備をするために職員室に向かった。
私が頭をかきながら言うと男性は優しい笑顔で首を振った。
「お気になさらないでください。たった今出てきたところですので。それにしても宮田先生は生徒思いなんですね。生徒たちを送り出すあなたを校舎から見て私は感動したんです。あなたは先生の鏡だ」
突然褒められた私は驚いて少し戸惑ってしまった。
「いやいやそんな、お恥ずかしい。私なんてまだまだですよ」
「そうでしょうか? 私はそうは思いませんが」
男性はそう言うと少し眉間に皺を寄せて首を傾げた。しかしそれも束の間、すぐにまた優しい笑顔で話し始めた。
「それにしても子どもたちの成長を見るのはいいものですね。人間はいくつになっても成長ができるとはいえ、子どもたちの成長スピードには敵いません。見ていて驚かされることばかりです」
この男性も教育関係者なのだろうか。どこかの学校の先生かもしれない。楽しそうに話す姿を見てそう思った。
「おっしゃる通りです。私は毎日彼女たちが成長する姿を見るのが楽しみなんですよ」
「ふふふ、きっとそうなんだろうなと思いました。やはりあなたはいい先生だ。ああ、すみませんお仕事の最中だというのに」
「いえ、とんでもない」
「お仕事頑張ってくださいね。それでは私はこれで」
男性はそう言って軽く会釈をすると颯爽と去っていった。
とても感じのいい男性だった。話していて気持ちがいい紳士的な男性。でも何故か少し引っかかった。
常に優しい笑顔で話してくれた。でも、目だけは一度も笑っていなかったように見えたのだ。気のせいかもしれない。でも、本心で話しているのかどうかがわからなかった。
それに初対面にも関わらずあの男性は私の名前を知っていた。後ろからは胸に下げた名札は見えないはずだ。生徒たちの話し声を聞いていたのかもしれないが、なんだかそれも引っかかった。
「宮田先生、そろそろ行きませんか?」
スーツの男性が歩いて行った方向を眺めていると後ろから声をかけられた。振り返ると同じ体育教師の鈴木先生だった。鈴木先生は私の八つ年下の男の先生だ。イケメンで生徒たちの間で人気なのが少し羨ましい。いや、本当はすごく羨ましい。
「すまん、今帰っていった人が誰か気になって」
「今帰ったって、誰かいましたか?」
「ついさっき黒いスーツの男性が帰ったんだ」
「そんな人いましたか? 校舎で門を閉めようとしている宮田先生を見て声をかけにきたんですが、そんな人見えませんでしたよ?」
宮田先生は不思議そうな顔で私を見る。
「え? いやいや確かにいたんだ。ほらあそこに……あれ?」
私はスーツの男性が歩いて行った方向を指さしたが、もうそこには誰もいなかった。
「しっかりしてくださいよー。これから毎日見回りするって自分から手を挙げた人がそんなんでどうするんですか。もしかして疲れてます?」
「いや、そんなことはないんだが……確かにいたんだ、スーツを着た白髪の男性が」
「え、本当ですか? じゃあ私の見間違いかな……すみません」
「いや、気にしないでくれ。暗くて見えなかったんだろう。さあ行こう」
私は少し強引に話を終わらせた。
暗いと言うほどまだ暗くなっておらず、校舎や門の周りにも電灯がある。暗くて見間違えることなんてまずあり得ない。
しかしここであれこれ考えても仕方がない。私はスーツの男性の事を気にしないことにした。
私たちは見回りの準備をするために職員室に向かった。
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