都市伝説ガ ウマレマシタ

鞠目

文字の大きさ
19 / 25
書いた人

流行り

しおりを挟む
 この世界はクソだ。
 どうして毎日働いているのにおれは貧乏なんだ。大学を出て地元の小さな出版会社に入社してから十年。定時で帰った事はなく、ほぼ毎日終電帰り。でも、残業代は出た事がない。
 月の給料は生活費で大半が消える。ボーナスなんて雀の涙。だから貯金も全くない。
 労基に言えばいいと大学時代の友達は言う。でも、そんな簡単な話じゃない。
 労基に言った後、おれはどうなる? 同じ会社で今まで通り働けるのか? 転職するとしてもすぐに次の場所が見つかるのか? それを考える体力も時間の余裕もなく、ただただ今は惰性で働き続けている。

 テレビをつければおれよりも若いやつらがたくさん活躍している。なんでこんな頭の悪そうなやつらがおれよりも金をもらってるんだ。無性に腹が立つ。おれだって有名になりたい。名を轟かせたい。そして楽に生活したい。贅沢したい。
 でも本当は自分でもわかってるんだ。有名になるには行動に出ないといけない事を。生活を、自分自身を変える一歩が必要な事を。



「篠山、お前怖い話って大丈夫なタイプか?」
 上司の上村さんから唐突に聞かれた。今日は珍しく仕事が早く終わったので、二人で会社前のコンビニの駐車場で煙草片手に缶ビールを飲んでいた。早く終わったと言っても二十二時を過ぎていたが。
「いきなりですね。怖い話って幽霊とか都市伝説とかのことですか?」
「そうそう、最近高校生の娘がよく言うんだよ『学校で怖い話ばっかり話題になって辛い』って」
「あー、たまに流行りますもんね」
 今の高校生が過ごす環境はおれが学生だった頃とかなり違うと思う。でもそういう流行は同じようなものみたいだ。
「そうそう。それがな、今はSNSが普及してるからどんどん新しい話が出てきてすぐに広がるんだと。娘のクラスじゃいち早く新しい怖い話を仕入れて学校で話そうと競い合ってる物好きもいるんだとか」
「へー、それは物好きですね」
 そう言いながら、もしおれが今高校生なら競い合いの中に入ってるだろうなあと思った。
「怖い話が好きなやつは楽しいだろう。でもうちの娘みたいに怖がりなやつにとっては辛い状況だろうな」
「たしかにそうですね。おれは好きなんで大丈夫ですけど、娘さんは居心地悪いでしょうね」
「そうなんだよ。それで学校でたまったストレスをおれにぶつけてくるからさ、もうたまんねえよほんと……」
「それはそれは……」
 上村さんの愚痴なんて全く興味がない。でも、怖い話がSNS経由で若い世代に流行ってるっていうのは少し気になった。その後も上村さんの娘や奥さんに対する愚痴は続いたが、おれは軽く聞き流していた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。 先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...