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第二章 襲い掛かる魔の手
第二十二話 揺らめく桜色の瞳
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急に意識が戻った途端、いつもの気怠さが襲ってきた。
それを身体で感じることで静藍は自分の身体に戻ってきたと認識出来る。
だが、今回はいつもと違った。
鉛より重いレベルの怠さだ。
肺が重くて呼吸をするのが若干苦しい。
(何だかいつもより怠さが酷いな。僕の中にいる“彼”が普段より“力”を使ったからだろうか?)
危うく後ろに倒れそうになる。
しかし、何とか持ちこたえた。
自分の太腿に重みを感じたからだ。
ふと目をやると、異常な光景が目に飛び込んで来た。
(茉莉……さん……?)
いつも元気な彼女が、自分の太腿を枕に横たわっているのだ。
鏡のように輝く髪を扇型に広げている。
目は閉じられたまま。
その顔色はいつもより明らかに悪い。
手にそっと触れてみると、温もりはあるが少しひんやりしている。
着衣に乱れはないが、
腹のあたりのシャツはかぎ裂き状に穴があいていた。
(一体何が起きたんだ!?)
ルフスから交代して意識を浮上させた静藍は、それまでの事情を知らない。だが目の前の光景を目にして、茉莉の身に何かがあったと言うことだけは認識出来た。
(彼女は大丈夫だろうか?)
ゆっくりだが、胸は上下している。
少し身を屈め耳をすませると、弱々しいが呼気はちゃんと聞こえてきた。
(……生きている……良かった)
安堵した静藍は恐る恐る手を伸ばし、黒髪にそっと触れてみた。
それは絹のようにさらりとしていて、きめ細やかな肌に陰影を作っている。
思ったより幼さを感じる顔は目鼻立ちが整っていて、まるで人形のようだ。
体育の時間では男子顔負けの運動能力を発揮する茉莉。
短距離走では常に断トツ一位である茉莉。
初登校日の朝、貧血で倒れた自分を学校の保健室まで運んでくれた茉莉。
そんな彼女が今、自分の太腿の上に力なく倒れている。
胸中ざわつかないほうがどうかしている。
(僕は彼女にいつも助けてもらっているばかりだ。逆に彼女を助けてあげられることはないのだろうか?)
静藍は力が入りにくい左の拳をぐぐぐ……っと握りしめた。
いくら慣れているとは言え、自分が一般女性より体力面が非常に劣る現実に苛立たない日はなかった。
静藍にも男としてのプライドがある。
でも、今はどんなに望んでも無理なものは無理なので、じっと耐えるしかない。
自分の中にいる“彼”に代わりをしてもらっているようなものだ。
(……彼女を守りたい……)
心の中で静かに生まれた思い。
それは、今の静藍にとってハードルが高過ぎる望みだ。
まずは何とかして“本当の自分”を取り戻すしか解決策はない。
“本当の自分”を永遠に失うその前に。
そんな彼をあざ笑うかのように、刻々と時間は過ぎ去ってゆく。
焦っても仕方がないが、どうにもならない現実に歯向かいたくて無償に苛々した。
(彼女を守りたい。たとえ今は無理でも、この手で。いつか必ず)
その願いが届いたのか、目の前の腕がぴくりと反応した。
上品な薄桃色の唇が若干開き、軽く咳き込んだ。
まつ毛がぴくりと動き、ゆっくりと目蓋が開かれる。
その瞬間、静藍は息を呑んだ。
(……桃色……?)
その瞳の色が、桃色だったのだ。
深い青みを含んだ清涼感のあるローズピンク色。
瞬きをした瞬間、その色は元の榛色に戻った。
(今のは一体何だろう? モルガナイトのような色に見えた気がする。僕の見間違えだろうか? いつもとは違う瞳の色だった)
風が一瞬通り過ぎ、木々の葉がざわざわと音を立てる。
静藍は暫くその場から動けなかった。
それを身体で感じることで静藍は自分の身体に戻ってきたと認識出来る。
だが、今回はいつもと違った。
鉛より重いレベルの怠さだ。
肺が重くて呼吸をするのが若干苦しい。
(何だかいつもより怠さが酷いな。僕の中にいる“彼”が普段より“力”を使ったからだろうか?)
危うく後ろに倒れそうになる。
しかし、何とか持ちこたえた。
自分の太腿に重みを感じたからだ。
ふと目をやると、異常な光景が目に飛び込んで来た。
(茉莉……さん……?)
いつも元気な彼女が、自分の太腿を枕に横たわっているのだ。
鏡のように輝く髪を扇型に広げている。
目は閉じられたまま。
その顔色はいつもより明らかに悪い。
手にそっと触れてみると、温もりはあるが少しひんやりしている。
着衣に乱れはないが、
腹のあたりのシャツはかぎ裂き状に穴があいていた。
(一体何が起きたんだ!?)
ルフスから交代して意識を浮上させた静藍は、それまでの事情を知らない。だが目の前の光景を目にして、茉莉の身に何かがあったと言うことだけは認識出来た。
(彼女は大丈夫だろうか?)
ゆっくりだが、胸は上下している。
少し身を屈め耳をすませると、弱々しいが呼気はちゃんと聞こえてきた。
(……生きている……良かった)
安堵した静藍は恐る恐る手を伸ばし、黒髪にそっと触れてみた。
それは絹のようにさらりとしていて、きめ細やかな肌に陰影を作っている。
思ったより幼さを感じる顔は目鼻立ちが整っていて、まるで人形のようだ。
体育の時間では男子顔負けの運動能力を発揮する茉莉。
短距離走では常に断トツ一位である茉莉。
初登校日の朝、貧血で倒れた自分を学校の保健室まで運んでくれた茉莉。
そんな彼女が今、自分の太腿の上に力なく倒れている。
胸中ざわつかないほうがどうかしている。
(僕は彼女にいつも助けてもらっているばかりだ。逆に彼女を助けてあげられることはないのだろうか?)
静藍は力が入りにくい左の拳をぐぐぐ……っと握りしめた。
いくら慣れているとは言え、自分が一般女性より体力面が非常に劣る現実に苛立たない日はなかった。
静藍にも男としてのプライドがある。
でも、今はどんなに望んでも無理なものは無理なので、じっと耐えるしかない。
自分の中にいる“彼”に代わりをしてもらっているようなものだ。
(……彼女を守りたい……)
心の中で静かに生まれた思い。
それは、今の静藍にとってハードルが高過ぎる望みだ。
まずは何とかして“本当の自分”を取り戻すしか解決策はない。
“本当の自分”を永遠に失うその前に。
そんな彼をあざ笑うかのように、刻々と時間は過ぎ去ってゆく。
焦っても仕方がないが、どうにもならない現実に歯向かいたくて無償に苛々した。
(彼女を守りたい。たとえ今は無理でも、この手で。いつか必ず)
その願いが届いたのか、目の前の腕がぴくりと反応した。
上品な薄桃色の唇が若干開き、軽く咳き込んだ。
まつ毛がぴくりと動き、ゆっくりと目蓋が開かれる。
その瞬間、静藍は息を呑んだ。
(……桃色……?)
その瞳の色が、桃色だったのだ。
深い青みを含んだ清涼感のあるローズピンク色。
瞬きをした瞬間、その色は元の榛色に戻った。
(今のは一体何だろう? モルガナイトのような色に見えた気がする。僕の見間違えだろうか? いつもとは違う瞳の色だった)
風が一瞬通り過ぎ、木々の葉がざわざわと音を立てる。
静藍は暫くその場から動けなかった。
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