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第四章 せめぎ合う光と闇
第五十話 沈みゆく太陽
どれ位の時間が経ったのだろうか。
自分は眠っていたのだろうか?
「……ここは……どこ?」
茉莉は身体に違和感を覚えて目が覚めた。
いつもと違う感触の布地が肌に触れているのを感じ、自分の格好を目で確認してみる。
上は白小袖、下は紅袴だった。いつの間にか着替えさせられていたようだ。
(何この格好!? 神社の巫女さんバイトなんかしてないわよ私!? )
背中には十字架のように交差している石のようなものがある。
それはひんやりと冷たい。
腕や足は両方ともそれに縛り付けられていて動けない。
ジャラジャラとした鉄の鎖が身体の周りにまとわりついている。
首にも鎖の重さと冷たい感触がある。
十字架に磔にされている気分だ。
「……一体何なのよこれ……」
顔を上げると、目の前に四人の人影があった。
女が二人と男が一人と少年が一人。
彼等は舐めあげるように茉莉を見ている。
自分に視線が集中しているのを感じ、どうしようもなく逃げ出したくなる衝動に駆られるが、動けない。
背中にいもむしが這いずり回っているような、嫌な感触がある。
妖艶な美女が高笑いをした。
「おーっほほほほ! やっと気が付いた。お久し振りねぇ仔猫ちゃん。気分はいかがかしら? これじゃあ憎まれ口を叩く余裕はないわねぇ」
「……ここはどこ……?」
「どこだと思う? わたくしたちの屋敷よ。人間は誰も知らない場所。誰一人聞いたことがない筈。何故か分かる?」
「……」
「足を踏み入れたが最期、誰一人生きて帰れないからよ! おーっほほほ!」
するともう一人女の声がした。やや低めの声だ。
「それはあなたの死装束よ。ふふふ。何を怯えているの? まだ吸血しないし今すぐ殺す訳じゃないから安心をし。まずはじっくりと楽しませてもらうわ」
「流石芍薬姫に選ばれた人間なだけあって、美しい娘だな」
「ウィオラ姐さんによると、どうやら彼女は今特に何も持っていないようですね。我々が近付いても特に問題なさそうで、すこぶる安心しました」
赤金色の髪を持つ少年はルチルクォーツの瞳を輝かせている。
「こうやって見ると本当に綺麗な肌をしている。これ着付けたのは私だけど、彼女見かけによらず結構良い身体をしているわよ。まだ男を知らなさそうだし、ロセウスだったら着付ける前に抱いてたかもね」
そこで茉莉は首にいつも下げていたペンダントがないことに気付いた。
一気に全身の血が引いてゆくのを感じる。
優美からもらった大切なお守り。
常に肌身離さず身に付けていた芍薬水晶を、どこかに落としてきたらしい。
身を護る術を一切持たない危機感が身体中に突き刺さってくる。
(そんな……嘘……!! )
「香ばしい香りがする。美しい生娘の生き血はさぞかし美味だろう」
ロセウスのやや角張った指先が茉莉の顎をとらえてぐいと仰のかせる。
全身を鎖で縛られている為、何も出来ない茉莉はされるがままだ。目の前の頑強な男を睨みつけることしか出来ない。
「ちょっと離しなさいよ! あんたね、私に何かしたら絶対に許さないんだから!!」
噛み付くように言い放った。声が微妙に震えている。
ロセウスは噛みつかれる前に、その手を離した。
「これはこれは。胎内に虎でも飼っているのか、中々気丈な娘だな。確かに俺の好みだ」
顎の無精ひげを撫でつつ、にやりと唇を歪める。
「そうね。でも鼻っ柱の強い小娘を手懐けるなら、セフィロスの方が適役かも。息巻くのも今の内だわ」
四人は響いてきた足音を聞き取ると、一斉に振り返った。
プラチナブロンドの髪とサファイアブルーの瞳を持つ秀麗な青年が一人入って来た。女より美しいが、周りを一瞬で氷漬けにしそうな戦慄の美貌だ。絶世の美女が彼を見たらきっと逃げ出してしまうだろう。
その男を見た瞬間、茉莉は身体に雷が落ちたような気がした。
(……まさか……夢で会った“死神”……!? )
「到頭とらえたか。ルフスが思い入れてる娘とやらを」
「逃げ出せぬようにしています。あと我々に危害を与えるようなものは何一つ持っておらぬようです」
「そうか……」
セフィロスはゆっくりと茉莉に近付く。
突き刺さるような視線が痛い。
雪のような色白で長い指先を伸ばし。
ゆっくりと顎に手を掛けた。
その冷たさにぴくりと反応する。
「先日既に一手は打ってある。この娘にあらかじめ暗示をかけておいたのだ」
(……一体何のこと……? )
「君は既に私の術中に落ちている。逃れられんぞ。不本意だろうが、我々の為に一役買ってもらう」
「……!」
「ふふふっ。セフィロスは情け容赦ないわよ。彼の手にかかって落ちなかった人間は誰一人いない。今のうち精々抗うと良いわ。どうせ無駄骨だから」
「……!!」
セフィロスは茉莉の腰を右手で優しく抱き、耳元で何か唱え始めた。自分の身体に振れる手の感触で否が応でも記憶を蘇させられる。
(この手の感触……あの時の……!? あれはただの夢じゃなかったの!? ぞくぞくして何か気持ち悪い!! )
魔の手から逃れようと身体をよじるが、鈍色の鎖にいましめられて動けない。
犯されてもおかしくない状況に背筋が凍る思いがした。
「嫌……っ!」
顔を仰のかされ、瞳を覗き込まれた。
唇同士がぎりぎり重ならない程度の距離だ。
長い睫毛の奥に、吸い込まれそうなサファイアブルーが二つ輝いている。
見たくないのに、目が惹き付けられてしまう。
青い矢車菊が光った瞬間、茉莉の瞳孔が一気に開いた。
首元にかかる吐息に身体が一瞬強張る。
しかしあっという間に弛緩した。
何とも言えない感触が足元から這い上がってくる。
身体中に電流のようなものが一気に走った。
負けたらいけないと気を張るが、その意識が脆く崩れ去ってゆく。
(駄目よ茉莉! 奴らの思う壺だわ。意地でも堪えなきゃ!! )
茉莉は意識を飛ばさぬよう歯を食いしばった。
しかし、意識は黒いものにどんどん侵食されてゆく。
――静藍……!! ――
がくりと頭が垂れ下がる。
開いたままとなった茉莉の瞳から涙が一粒、零れ落ちた。
自分は眠っていたのだろうか?
「……ここは……どこ?」
茉莉は身体に違和感を覚えて目が覚めた。
いつもと違う感触の布地が肌に触れているのを感じ、自分の格好を目で確認してみる。
上は白小袖、下は紅袴だった。いつの間にか着替えさせられていたようだ。
(何この格好!? 神社の巫女さんバイトなんかしてないわよ私!? )
背中には十字架のように交差している石のようなものがある。
それはひんやりと冷たい。
腕や足は両方ともそれに縛り付けられていて動けない。
ジャラジャラとした鉄の鎖が身体の周りにまとわりついている。
首にも鎖の重さと冷たい感触がある。
十字架に磔にされている気分だ。
「……一体何なのよこれ……」
顔を上げると、目の前に四人の人影があった。
女が二人と男が一人と少年が一人。
彼等は舐めあげるように茉莉を見ている。
自分に視線が集中しているのを感じ、どうしようもなく逃げ出したくなる衝動に駆られるが、動けない。
背中にいもむしが這いずり回っているような、嫌な感触がある。
妖艶な美女が高笑いをした。
「おーっほほほほ! やっと気が付いた。お久し振りねぇ仔猫ちゃん。気分はいかがかしら? これじゃあ憎まれ口を叩く余裕はないわねぇ」
「……ここはどこ……?」
「どこだと思う? わたくしたちの屋敷よ。人間は誰も知らない場所。誰一人聞いたことがない筈。何故か分かる?」
「……」
「足を踏み入れたが最期、誰一人生きて帰れないからよ! おーっほほほ!」
するともう一人女の声がした。やや低めの声だ。
「それはあなたの死装束よ。ふふふ。何を怯えているの? まだ吸血しないし今すぐ殺す訳じゃないから安心をし。まずはじっくりと楽しませてもらうわ」
「流石芍薬姫に選ばれた人間なだけあって、美しい娘だな」
「ウィオラ姐さんによると、どうやら彼女は今特に何も持っていないようですね。我々が近付いても特に問題なさそうで、すこぶる安心しました」
赤金色の髪を持つ少年はルチルクォーツの瞳を輝かせている。
「こうやって見ると本当に綺麗な肌をしている。これ着付けたのは私だけど、彼女見かけによらず結構良い身体をしているわよ。まだ男を知らなさそうだし、ロセウスだったら着付ける前に抱いてたかもね」
そこで茉莉は首にいつも下げていたペンダントがないことに気付いた。
一気に全身の血が引いてゆくのを感じる。
優美からもらった大切なお守り。
常に肌身離さず身に付けていた芍薬水晶を、どこかに落としてきたらしい。
身を護る術を一切持たない危機感が身体中に突き刺さってくる。
(そんな……嘘……!! )
「香ばしい香りがする。美しい生娘の生き血はさぞかし美味だろう」
ロセウスのやや角張った指先が茉莉の顎をとらえてぐいと仰のかせる。
全身を鎖で縛られている為、何も出来ない茉莉はされるがままだ。目の前の頑強な男を睨みつけることしか出来ない。
「ちょっと離しなさいよ! あんたね、私に何かしたら絶対に許さないんだから!!」
噛み付くように言い放った。声が微妙に震えている。
ロセウスは噛みつかれる前に、その手を離した。
「これはこれは。胎内に虎でも飼っているのか、中々気丈な娘だな。確かに俺の好みだ」
顎の無精ひげを撫でつつ、にやりと唇を歪める。
「そうね。でも鼻っ柱の強い小娘を手懐けるなら、セフィロスの方が適役かも。息巻くのも今の内だわ」
四人は響いてきた足音を聞き取ると、一斉に振り返った。
プラチナブロンドの髪とサファイアブルーの瞳を持つ秀麗な青年が一人入って来た。女より美しいが、周りを一瞬で氷漬けにしそうな戦慄の美貌だ。絶世の美女が彼を見たらきっと逃げ出してしまうだろう。
その男を見た瞬間、茉莉は身体に雷が落ちたような気がした。
(……まさか……夢で会った“死神”……!? )
「到頭とらえたか。ルフスが思い入れてる娘とやらを」
「逃げ出せぬようにしています。あと我々に危害を与えるようなものは何一つ持っておらぬようです」
「そうか……」
セフィロスはゆっくりと茉莉に近付く。
突き刺さるような視線が痛い。
雪のような色白で長い指先を伸ばし。
ゆっくりと顎に手を掛けた。
その冷たさにぴくりと反応する。
「先日既に一手は打ってある。この娘にあらかじめ暗示をかけておいたのだ」
(……一体何のこと……? )
「君は既に私の術中に落ちている。逃れられんぞ。不本意だろうが、我々の為に一役買ってもらう」
「……!」
「ふふふっ。セフィロスは情け容赦ないわよ。彼の手にかかって落ちなかった人間は誰一人いない。今のうち精々抗うと良いわ。どうせ無駄骨だから」
「……!!」
セフィロスは茉莉の腰を右手で優しく抱き、耳元で何か唱え始めた。自分の身体に振れる手の感触で否が応でも記憶を蘇させられる。
(この手の感触……あの時の……!? あれはただの夢じゃなかったの!? ぞくぞくして何か気持ち悪い!! )
魔の手から逃れようと身体をよじるが、鈍色の鎖にいましめられて動けない。
犯されてもおかしくない状況に背筋が凍る思いがした。
「嫌……っ!」
顔を仰のかされ、瞳を覗き込まれた。
唇同士がぎりぎり重ならない程度の距離だ。
長い睫毛の奥に、吸い込まれそうなサファイアブルーが二つ輝いている。
見たくないのに、目が惹き付けられてしまう。
青い矢車菊が光った瞬間、茉莉の瞳孔が一気に開いた。
首元にかかる吐息に身体が一瞬強張る。
しかしあっという間に弛緩した。
何とも言えない感触が足元から這い上がってくる。
身体中に電流のようなものが一気に走った。
負けたらいけないと気を張るが、その意識が脆く崩れ去ってゆく。
(駄目よ茉莉! 奴らの思う壺だわ。意地でも堪えなきゃ!! )
茉莉は意識を飛ばさぬよう歯を食いしばった。
しかし、意識は黒いものにどんどん侵食されてゆく。
――静藍……!! ――
がくりと頭が垂れ下がる。
開いたままとなった茉莉の瞳から涙が一粒、零れ落ちた。
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