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番外編
第一話 花個紋
スパパパーン!!
ポンッ!!
綾南高校二年生の神宮寺静藍が、所属する新聞部の部室のドアを開くと、華々しいクラッカーの音が鳴り響いた。カラフルなリボンとメタルテープと紙吹雪が部屋の中で舞い踊っている。
部屋の真ん中辺りの天井に括り付けられた、直径八・五センチメートルの金色のくす玉がぱっくりと二つに割れており、「祝おめでとう!!」という文字の書かれた垂れ幕がひらひらと動いている。その後を追うように、盛大な拍手が部屋中に響き渡った。
静藍と同学年である門宮茉莉、城殿優美、そして一年生である虎倉左京、鷹松右京、桜坂愛梨、そして三年生である織田純之介、明石紗英の七人による拍手だ。みんな晴れやかで穏やかな顔をしている。
それを目にした彼は目をぱちくりさせ、呆然としていた。
どう反応して良いのやら分からなくて戸惑っているようだ。
「お誕生日おめでとう!!」
茉莉と優美は空になったクラッカーを片手に拍手を送り続けている。
「何照れてるんですかぁ先輩! 今日の主役!!」
愛梨は茶髪にポニーテールをふりふりさせながら、きゃっきゃと静藍を冷やかしている。
「無事生還おめでとう! ……というところかな。君にとって、今年は特別な年になったな」
織田も優しく微笑んでいる。
「……どうもありがとうございます……」
静藍は消え入りそうな声で答えた。
今日は八月二十日。
神宮寺静藍の誕生日だ。
吸血鬼との死闘を終えた後で、部員全員との顔を合わせるのは今日で二回目となる。
三年生である織田と紗英は受験生だ。補講後に部室に来た為、白い開襟シャツに茶色のチェックのスカートと黒いスラックスと言った制服姿だったが、その他の学年は特に出校予定はなく、私服姿だった。
冷やかされたり、苛めに合うことの多かった彼は、友達に誕生日を祝ってもらうという経験がなかった。というより、集まりそのものを本質的に避けていた。どちらかといえば苦手だったのだ。
吸血鬼達によって、仲間を蘇らせる為の「器」として自分の身体を狙われた静藍は、十二歳の時に襲われて術を掛けられて以来、もう一つの「人格」を体内に宿すことになった。十七歳の誕生日を迎えるまでに、術を解くか人間の生き血を啜るかしなければ、死ぬ運命にあったのだ。
そんな事件も、茉莉を含めた新聞部メンバーの助けもあって無事に解決し、静藍は自分自身の人生を取り戻すことが出来た。視力が戻った為トレードマークになっていた黒縁眼鏡も不要となり、彼はいつも素顔を晒している。
そんな彼は今、茉莉と付き合っている。
春先まで異性とまともに付き合ったこともなかった茉莉にとって、静藍は初めて出来た彼氏であり、特別な人だ。
吸血鬼事件を経て生まれ、育まれた二人の想い。
その結果心が通じ合い、今こうして共に穏やかな時間を過ごせるようになった。今回の事件がなければ、きっと二人は出会うことすらなかっただろう。
互いに本気で死にかける思いをしたが、縁とは実に不思議なものである。
「君の好みが良く分からないし、夏休み中の部室内であまり派手なことは出来ないから、飲み物だけで悪いな」
いつの間にかテーブルの上にお茶やコカ・コーラのペットボトルだの、炭酸ジュースの缶だのが何本か置いてあった。ステイオンタブを開くとそれはプシュッと音を立て、部室内に爽やかなグレープやオレンジやらの香りを振りまいている。
右京が部員の人数分紙コップに飲み物を注ぎ分けると、その一つを静藍に手渡した。彼はお礼を言って、それを受け取る。
「いえ……とんでもないです! とても嬉しいです。それに、こちらこそ助けてくれたみんなに何かお礼をしたいし、しないといけませんから……」
「気にしないでくれ。困ったときはお互い様だからな。それじゃあ乾杯!!」
「乾杯!!」
飲み物だけで祝う会は細やかに行われた。
お茶の入った紙コップを片手に、紗英が気遣うように静藍に声をかける。
「今日は平日ですけど、会は別日に設けてますから、楽しみにしていて下さいね。前にグループラインで連絡を回していたと思いますが」
「次の日曜日でしたよね? そういうことだったのですか!! 気を遣って頂いて本当にすみません……!」
新聞部内の連絡網用に、次の日曜日は予定を空けておくようにとメッセージが送られていた。その意味を知った静藍は緊張のあまりびびり上がって声がすっかり裏返っている。
「場所は、私の彼氏から聞いたイチオシのお店ですよぉ! お昼の十二時からですからぁ。静藍先輩にご飯をもぉ~っとしっかり食べさせるのが目的なので、先輩、覚悟しておいて下さいねぇ!!」
意地悪そうな顔をして言う愛梨に一同どっと湧いた。
そんな会の主賓を後ろに、優美はスマホを弄りながら茉莉に声を掛けた。
「ところでねぇ茉莉、あんたは確か五月十九日生まれだったわよね」
「うん。……それがどうしたの?」
「あんたの花個紋は“芍薬の丸”ね」
「……へ……!?」
花個紋。
聞いたことのない新語が茉莉の頭の中を飛び交っている。
「花個紋って家紋みたいなやつですかね優美先輩。違いはなんスか!?」
話しが聞こえていた左京が割り込んでくる。優美は彼の脇腹を肘で小突きながらも、解説を始めた。
家紋は家を表す紋章であり、それぞれの家で代々伝えられてきたものだ。それに対し、花個紋は“その日”を表す紋であり、四季折々の花を「紋」にあらわしたバースデーシンボルである。
「へぇ。先輩芍薬だったんスね。やはり芍薬と縁があったんだ! 何かすっげぇ!!」
驚きで釣り上がった眼を見張る左京。ツンツン頭も更に逆立ちそうな勢いだ。優美はそのまま解説を続ける。その顔はどこかにやけている。
「因みに、八月二十日生まれである静藍君の花個紋は、“茉莉花菱”だよ」
「「え……!?」」
茉莉と静藍は同時に驚きの声を上げた。
静藍の色白の頬がほんのり赤く染まる。耳まで真赤だ。
「偶然過ぎにしては凄過ぎる!」
「びっくりぃ!! やっぱり運命だったんですねぇ~先輩!」
「おめでとう!」
耳聡く聞いていた面々に祝福され、茉莉は目が泳いでいる。そんな彼女に優美は耳元でこそっと囁いた。
「と・こ・ろ・で、あんた達、そこから先のステップは?」
「え……!? い……いきなり何を!?」
茉莉は茹で蛸のように顔を真っ赤にした。
「だって、キスはもうしたんでしょ? お味はどうだった? 」
「……!!」
口をぱくぱくさせながらも言葉が出ない茉莉に、優美は更に追い打ちをかけた。
「茉莉可愛い~。一体何を想像したの? あたし何も言ってないけど。でもそっかあ。“献血関係”のようなものだから、あんた達もっとウワテだったわね~」
先日の事件の決着の付け方を「献血」の一言で片付けられた茉莉は、恥ずかしさのあまり右手が震えている。
「優~美~……!!」
優美はケラケラ笑った。
賑やかに行われた静藍の誕生日祝い。
当日である今日は平日だった為に前祝い状態となったが、本番は当初の予定通り次の日曜日に行われることになった。
それはまた別の話しである。
――完――
※花個紋に関してはこちらのサイトを参考にしました。
「366日の花個紋」
https://www.hanakomon.jp/checkyours/
ポンッ!!
綾南高校二年生の神宮寺静藍が、所属する新聞部の部室のドアを開くと、華々しいクラッカーの音が鳴り響いた。カラフルなリボンとメタルテープと紙吹雪が部屋の中で舞い踊っている。
部屋の真ん中辺りの天井に括り付けられた、直径八・五センチメートルの金色のくす玉がぱっくりと二つに割れており、「祝おめでとう!!」という文字の書かれた垂れ幕がひらひらと動いている。その後を追うように、盛大な拍手が部屋中に響き渡った。
静藍と同学年である門宮茉莉、城殿優美、そして一年生である虎倉左京、鷹松右京、桜坂愛梨、そして三年生である織田純之介、明石紗英の七人による拍手だ。みんな晴れやかで穏やかな顔をしている。
それを目にした彼は目をぱちくりさせ、呆然としていた。
どう反応して良いのやら分からなくて戸惑っているようだ。
「お誕生日おめでとう!!」
茉莉と優美は空になったクラッカーを片手に拍手を送り続けている。
「何照れてるんですかぁ先輩! 今日の主役!!」
愛梨は茶髪にポニーテールをふりふりさせながら、きゃっきゃと静藍を冷やかしている。
「無事生還おめでとう! ……というところかな。君にとって、今年は特別な年になったな」
織田も優しく微笑んでいる。
「……どうもありがとうございます……」
静藍は消え入りそうな声で答えた。
今日は八月二十日。
神宮寺静藍の誕生日だ。
吸血鬼との死闘を終えた後で、部員全員との顔を合わせるのは今日で二回目となる。
三年生である織田と紗英は受験生だ。補講後に部室に来た為、白い開襟シャツに茶色のチェックのスカートと黒いスラックスと言った制服姿だったが、その他の学年は特に出校予定はなく、私服姿だった。
冷やかされたり、苛めに合うことの多かった彼は、友達に誕生日を祝ってもらうという経験がなかった。というより、集まりそのものを本質的に避けていた。どちらかといえば苦手だったのだ。
吸血鬼達によって、仲間を蘇らせる為の「器」として自分の身体を狙われた静藍は、十二歳の時に襲われて術を掛けられて以来、もう一つの「人格」を体内に宿すことになった。十七歳の誕生日を迎えるまでに、術を解くか人間の生き血を啜るかしなければ、死ぬ運命にあったのだ。
そんな事件も、茉莉を含めた新聞部メンバーの助けもあって無事に解決し、静藍は自分自身の人生を取り戻すことが出来た。視力が戻った為トレードマークになっていた黒縁眼鏡も不要となり、彼はいつも素顔を晒している。
そんな彼は今、茉莉と付き合っている。
春先まで異性とまともに付き合ったこともなかった茉莉にとって、静藍は初めて出来た彼氏であり、特別な人だ。
吸血鬼事件を経て生まれ、育まれた二人の想い。
その結果心が通じ合い、今こうして共に穏やかな時間を過ごせるようになった。今回の事件がなければ、きっと二人は出会うことすらなかっただろう。
互いに本気で死にかける思いをしたが、縁とは実に不思議なものである。
「君の好みが良く分からないし、夏休み中の部室内であまり派手なことは出来ないから、飲み物だけで悪いな」
いつの間にかテーブルの上にお茶やコカ・コーラのペットボトルだの、炭酸ジュースの缶だのが何本か置いてあった。ステイオンタブを開くとそれはプシュッと音を立て、部室内に爽やかなグレープやオレンジやらの香りを振りまいている。
右京が部員の人数分紙コップに飲み物を注ぎ分けると、その一つを静藍に手渡した。彼はお礼を言って、それを受け取る。
「いえ……とんでもないです! とても嬉しいです。それに、こちらこそ助けてくれたみんなに何かお礼をしたいし、しないといけませんから……」
「気にしないでくれ。困ったときはお互い様だからな。それじゃあ乾杯!!」
「乾杯!!」
飲み物だけで祝う会は細やかに行われた。
お茶の入った紙コップを片手に、紗英が気遣うように静藍に声をかける。
「今日は平日ですけど、会は別日に設けてますから、楽しみにしていて下さいね。前にグループラインで連絡を回していたと思いますが」
「次の日曜日でしたよね? そういうことだったのですか!! 気を遣って頂いて本当にすみません……!」
新聞部内の連絡網用に、次の日曜日は予定を空けておくようにとメッセージが送られていた。その意味を知った静藍は緊張のあまりびびり上がって声がすっかり裏返っている。
「場所は、私の彼氏から聞いたイチオシのお店ですよぉ! お昼の十二時からですからぁ。静藍先輩にご飯をもぉ~っとしっかり食べさせるのが目的なので、先輩、覚悟しておいて下さいねぇ!!」
意地悪そうな顔をして言う愛梨に一同どっと湧いた。
そんな会の主賓を後ろに、優美はスマホを弄りながら茉莉に声を掛けた。
「ところでねぇ茉莉、あんたは確か五月十九日生まれだったわよね」
「うん。……それがどうしたの?」
「あんたの花個紋は“芍薬の丸”ね」
「……へ……!?」
花個紋。
聞いたことのない新語が茉莉の頭の中を飛び交っている。
「花個紋って家紋みたいなやつですかね優美先輩。違いはなんスか!?」
話しが聞こえていた左京が割り込んでくる。優美は彼の脇腹を肘で小突きながらも、解説を始めた。
家紋は家を表す紋章であり、それぞれの家で代々伝えられてきたものだ。それに対し、花個紋は“その日”を表す紋であり、四季折々の花を「紋」にあらわしたバースデーシンボルである。
「へぇ。先輩芍薬だったんスね。やはり芍薬と縁があったんだ! 何かすっげぇ!!」
驚きで釣り上がった眼を見張る左京。ツンツン頭も更に逆立ちそうな勢いだ。優美はそのまま解説を続ける。その顔はどこかにやけている。
「因みに、八月二十日生まれである静藍君の花個紋は、“茉莉花菱”だよ」
「「え……!?」」
茉莉と静藍は同時に驚きの声を上げた。
静藍の色白の頬がほんのり赤く染まる。耳まで真赤だ。
「偶然過ぎにしては凄過ぎる!」
「びっくりぃ!! やっぱり運命だったんですねぇ~先輩!」
「おめでとう!」
耳聡く聞いていた面々に祝福され、茉莉は目が泳いでいる。そんな彼女に優美は耳元でこそっと囁いた。
「と・こ・ろ・で、あんた達、そこから先のステップは?」
「え……!? い……いきなり何を!?」
茉莉は茹で蛸のように顔を真っ赤にした。
「だって、キスはもうしたんでしょ? お味はどうだった? 」
「……!!」
口をぱくぱくさせながらも言葉が出ない茉莉に、優美は更に追い打ちをかけた。
「茉莉可愛い~。一体何を想像したの? あたし何も言ってないけど。でもそっかあ。“献血関係”のようなものだから、あんた達もっとウワテだったわね~」
先日の事件の決着の付け方を「献血」の一言で片付けられた茉莉は、恥ずかしさのあまり右手が震えている。
「優~美~……!!」
優美はケラケラ笑った。
賑やかに行われた静藍の誕生日祝い。
当日である今日は平日だった為に前祝い状態となったが、本番は当初の予定通り次の日曜日に行われることになった。
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2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結