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番外編

第二話 秋の味覚 その一

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 十一月が近付いた十月のとある日曜日。
 今日はやや肌寒いが、良く晴れた日だ。
 広い空に秋の静かな雲が斜めに流れている。
 外の道を秋風がさあっと、木の葉を掃いて行った。
 
 今上映中の映画が終わったのか、映画館のドアから少女と少年が出てきた。
 
 少女の身長は百五十八センチメートル位。
 少年は百七十五センチメートル位。
 その差はぎりぎり二十センチ未満というところだ。
 
 少女はトップスが赤のハイネック & カーディガンのアンサンブル、キルティング素材のベージュのスカート、黒のショートブーツの出で立ちだ。
 
 それに対し、少年は真っ白なロングTシャツの上にベージュのコーチジャケットを羽織り、黒のスキニーパンツ、黒のキャンパスシューズを合わせている。
 
 茉莉と静藍の二人だった。
 どうやらデートの真っ最中らしい。
 
 茉莉は背まで伸ばした、さらりと流れるような黒いロングヘアを持つ。
 二重でぱっちりとした榛色の瞳。
 色白できめ細やかな肌。
 上品な薄桃色の唇。
 思ったより幼さを感じる顔は目鼻立ちが整っていて、まるで人形のようだ。
 
 それに対し静藍は
 艷やかな漆黒の髪を持つ。
 目元はやや切れ長で二重。
 とろけるような深い青紫色の瞳。
 すっと通った鼻梁に形の整った薄い唇。
 顎のラインはシャープで美しい。
 
 彼は秀麗な容貌をしており、ただ立っているだけでも周囲の目を引いた。それは学内でも街中でも変わらない。
 これまでは黒縁眼鏡で制御されていたが、それがなくなった今、余計に目立つようになった。特徴であるタンザナイト・ブルーの瞳が光によって表情を変える為、周囲の視線を奪ってしまうのだ。
 
 白熱灯下では紫に輝き上品な表情を見せ、白色LEDの光を浴びると、驚くほど鮮やかな青へと変わる。
 正に宝石のような美しい輝きである。
 
 茉莉自身もこの瞳には何度も魅了され、見惚れている。いい加減慣れても良いだろうに、変化に富んでいる為か不思議と飽きないのだ。この瞳が彼の美貌に更なる拍車をかけている。
 ――しかし、己の持つ魅力に本人は全く気付いていない。
 
 彼と一緒に歩いていると、通り過ぎざま二度見されることが多い。
 それも、男女問わずだ。
 流石吸血鬼に魅了され、器にされかけただけのことはある。
 これからは違った意味で彼を守らねばと、茉莉は胸中で拳を握った。
 
 ふとスマホの時計を見ると、丁度三時前だ。お昼を食べたのが早目の十一時だった筈と記憶を探る。
 
 (小腹が空いたなぁ。ちょっとお茶していきたい……)
 
 そう思った茉莉は傍を歩く少年の左手を右手でぎゅっと握ると、彼は「どうしたの?」と言いたげな表情で、茉莉の顔を覗き込んできた。
 
「ねぇ静藍。ちょっと休憩していかない?」
 
「そうですね。どこかに入りましょうか」
 
 茉莉は静藍を連れていきたいお店があるので、しめたとばかりに、色々聴き出すことにする。
 
「大判焼きとか食べられる?」
 
「ええ、大丈夫ですよ」
 
 思ったより反応が良かったのを聞き、安心する。
 
「抹茶を使ったスイーツも売ってるお店で、良いところ知ってるんだけど」
 
「良いですね。そこにしましょうか」
 
「おっしゃ決まり! そのお店はね、実はすぐそこにあるんだ」
 
 彼女が指差す先にその目的地はあった。
 
「菓匠 翡翠堂」と書かれた緑色の看板のあるお店に、二人は並んで入り込んだ。
 
 ※ ※ ※
 
  戸を開けると、皮の焼ける香ばしい香りとともに、抹茶の美味しい香りが漂ってきた。
 
 店内は、白を基調としており、明るくゆったりとしている。
 ゆっくりと座れるソファー席もあり、温もりのある灯りが落ち着いた雰囲気を醸し出している。
  
「翡翠堂」はお茶の専門店だ。
 煎茶、 深むし茶、ほうじ茶といった様々な日本茶も揃えてあり、併設しているカフェも人気がある。
 一階が販売で、二階が喫茶ルームとなっており、店内は今日も抹茶好きなお客で賑わっているのだ。
 
 二人は案内された席に座りメニュー表を開いた。
 大判焼き、パフェ、ソフトクリーム、ケーキ、かき氷と種々様々なスイーツの名前が並んでいる。中でも人気のあるものは大判焼きとパフェだ。
 抹茶ラテ・ほうじ茶ラテといったお茶カフェ定番ドリンクのみならず、紅茶やコーヒーの注文も可能である。
 大判焼き一つとっても、中身が黒餡、白餡、カスタード、抹茶カスタード、ほうじ茶クリームと、種類は豊富である。お薄茶、濃茶のセットもあり、羊羹や和菓子と一緒に提供されているようだ。目移りしてしまう。
 
 今の季節限定商品は「栗あんの大判焼き」と「抹茶のモンブランケーキ」らしい。
  
 どの大判焼きを頼むか決めた静藍は顔をメニュー表から上げると、食い入るようにメニューを覗き込む茉莉の姿が目に入った。彼女はまだ決まってない様子だ。
 期間限定メニューのページに、目がすっかり張り付いている。
 彼女は限定モノに弱い。
 十月一杯という文字が更に追い打ちをかけている。
 
「どうしよう~美味しそ~う! どっちも食べた~い!! 選べな~い!!」
 
 頭を抱え、激しく悩む茉莉の傍でクスリと微笑む静藍。
 
「選べないのでしたら、両方頼みませんか?」
 
「だってお腹に入るか分からないし……」
 
 蛸のように唇を尖らせる茉莉。
 
「それでは半分こしましょうか。半分なら僕は大丈夫ですよ」
 
 いつも少食である静藍から意外な救援の申し出に、彼女は目を丸くする。
 
「あら! 頼もしくなったわね。じゃあ頼もうかな! すみませ~ん! 注文お願いしま~す!!」
 
 茉莉は満面の笑みで店員を呼んだ。
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