炎のトワイライト・アイ〜二つの人格を持つ少年~

蒼河颯人

文字の大きさ
78 / 78
番外編

第八話 文化祭の出し物 その三

しおりを挟む
 背中までの長さの艷やかな黒いロングヘアーに、白のフリルのカチューシャ。
 長袖に、スカート丈がひざ下まである黒のワンピース。
 長めのスカート丈が、百七十センチメートル台である〝彼女〟のスラリとした身長に良く映えている。
 スカートの裾からは黒タイツの足が覗いている。
 真っ白な袖元。
 その上から大きなフリルのウエストに大きなリボンが結ばれた真っ白なエプロン。
  真っ白の衿を飾る胸元の黒のリボンが特徴で、正統派かつエレガントな雰囲気のメイド服。
 色白肌に夕暮れ時の空を映し出したような青紫色の瞳。
 まつげが長く、切れ長の二重の目元はどこか哀愁をたたえているところが、どこか危なっかしい雰囲気を生み出している。
 その美女の正体は、言うまでもなかった。

「……静藍……」
「……ま……茉莉さん……」

 茉莉を見つけた静藍は頬どころか耳まで赤らめている。その恥じらうさまは、天女が霞むレベルの美しさだ。清楚で禁欲的な色気に初々しさが入り混じり、見ているこちらの方が逆に恥ずかしくなってくる。

「おねーさんとっても綺麗だよ!! こっち向いて! 恥ずかしがらずにほらぁにっこり笑って!!」
「『お帰りなさいませ、御主人様』って言って欲しいな~」

 しかも引く手あまたである。今日の彼は男女問わず大人気のようだ。優美の読みは大当たりである。

「きゃ~!! 静藍せんぱぁ~い!! 綺麗~めっちゃ可愛い!! 握手して下さぁい!! あ! あ! 一緒に写真もぉ!!」
「やべぇ……先輩……マジっすか……!? 破壊力半端ねぇっすけど!!」
「あり得ない……女子がメイドコスするより美人度高いだなんて……」

 スマホ片手に甘ったるい黄色い声を上げて駆け寄って来たのは、新聞部後輩の一年生である桜坂愛梨だった。両耳に小さなピアスを付けた茶髪のゆるふわロングヘアの彼女は、大きな目をきらきら輝かせている。その背後にいる彼女のクラスメイト兼同じ部員である虎倉左京と鷹松右京は顔を真っ赤にしていた。二人は正視出来ず、目を左右に泳がせている。

「あ~茉莉先輩もみぃつけた!! 先輩も一緒に一緒に!! 茉莉先輩も超カッコイイ!! お二人のコーディネートは優美先輩でしょぉ? 超お似合いのメイドと執事!! ツーショット写真も撮らせて下さぁい!!」
「あ……愛梨ちゃん落ち着いて……!! 私達逃げないから……」
「これが落ち着いていられますか!! この喫茶大行列の大人気で、三十分待ちで今やっと入れたんですから!! 」

 (マジか――――っっっ!? )

 愛梨は茉莉に抱きついて狂喜乱舞状態だ。興奮しすぎて鼻血を出されないかが大変心配である。彼女はそう簡単に解放してくれなさそうだ。高校生がする模擬店で三十分待ちって一体……と、つい白目を剥きたくなった。

「……取り敢えず、交代時間まで頑張りましょうか、茉莉さん」
「……そ……そうね」
「茉莉さんの執事服も素敵でとっても格好いいですよ。大変良く似合っていると、僕も思います」

 百六十センチメートルに少し届かない自分が、百七十センチメートル超えの長身美人から見下されるような姿勢で言われるには、違和感あり過ぎなセリフだ。

「……ありがと。静藍も、凄く綺麗だよ」

 何か言うこと言われることあべこべな気がするが、新鮮だからたまには良いかと割り切った。

 ※ ※ ※
 
 午後担当のクラスメイト達と交代引き継ぎが終わり、茉莉達は揉みくちゃにされそうな中、何とか教室から這い出るように出て、急いで空いている隣の教室へと飛び込んだ。そこは偶然無人だったので、二人はようやく胸をなでおろした。

「ひ~っ一体何なのよぉ。たかだか生徒のやるお遊びじゃない。それなのにこの熱気は異常すぎる!!」
「お祭りだから皆さんどこかネジが飛んでいってるのかもしれませんね。午後は少しは落ち着くと良いですけど」

 と、大反響の大元である静藍はやれやれとハンカチで額の汗を軽く押さえるように拭っていた。

「このままあちこち回るのも面白いかなと一瞬思ったのですが、文字通り身動き出来なさそうですね。着替えますか」
「……うん、そうね」
「念のためと思って、これを持って来て正解でしたよ。今日の午後は〝昔の僕〟に戻っておきます」

 そう言った彼は、ポケットから黒縁眼鏡を取り出した。十二歳の時からずっと使っていて、彼のトレードマークとも言えるものだった。かつて吸血鬼達によって、仲間を蘇らせる為の「器」として自分の身体を狙われた静藍は、十二歳の時に襲われて術を掛けられて以来、もう一つの「人格」を体内に宿すことになった。十七歳の誕生日を迎えるまでに、術を解くか人間の生き血を啜るかしなければ、死ぬ運命にあったのだ。
 そんな事件も、茉莉を含めた新聞部メンバーの助けもあって八月頭で無事に解決し、静藍は自分自身の人生を取り戻すことが出来た。視力が戻りすっかり不要となったため、眼鏡自体を見るのは本当に久し振りである。

「え? メイクは落とすし、いつもの格好であれば良いだけじゃない?」
「例えウィッグをとっても顔はそのままですからね。校内とは言え、優美さんがせっかくお膳立てしてくれた茉莉さんとの時間を、誰にも邪魔されたくないですから」
「……静藍ったら……」
「因みにこれ伊達眼鏡なので、今の僕が掛けても差し支えないから大丈夫ですよ」

 さらりと流れ出た静藍の本音に茉莉は何だかくすぐったくて、くしゃみが出そうになった。しかしそこで茉莉はふと我に返った。ただでさえ静藍の瞳は周囲を奪うほどの美しい輝きを持っている。彼と一緒に歩いていると、男女問わず通り過ぎざま二度見されることが多い。彼自身が自衛のために眼鏡を掛けておく方が正解だと思った。

「僕はメイクを落とさないといけないので少し時間がかかるだろうから、少しお待たせするかもしれません」

 あれこれ思考していた茉莉は更に現実に引き戻された。彼は普段メイクとは無縁の男子だ。茉莉から借りたクレンジングがあるとは言え、洋服的にも色々時間がかかるだろう。

「慌てなくても別に大丈夫だよ。待ってるから」
「そろそろお昼ご飯の時間ですし、最初は縁日メニューをやってるクラスの方に行きましょうか。何を食べたいか、考えてて下さい」

 そう言った彼は、着替えスペースになっているパーテーションの奥へと姿を消した。

 その教室からそっと抜け出した茉莉は制服が入った紙袋を片手に一旦新聞部の部室へと向かうことにした。急いで着替えてすぐ戻るつもりだが、何かあったらLINEに連絡を寄越すよう言ってるから大丈夫だろう。

 (あと四時間あるな。どこを回ろうかな……確かフランクフルトやってところあったよね)

 季節は十月になったばかり。静藍とのやり取りは八月過ぎてからと、まだまだ始まって間もない。
 二人で色んなことをして、出来るだけ一緒の時を過ごしたい――彼も同じ気持ちのようで、胸の温まる想いがした茉莉だった。

――完――
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

春日あざみ
2024.03.03 春日あざみ
ネタバレ含む
2024.03.03 蒼河颯人

春日あざみさん
コメントどうもありがとうございます
最初の部分は少しサスペンス調にしたかったので
恐怖心を煽り立てるような表現を使ってみました
お褒め頂き大変嬉しいです
どうもありがとうございます

解除
はーこ
2023.03.15 はーこ

吸血鬼たちが暗躍する現代。本作のヒーロー枠であろう静藍くんが普段は頼りない一方で、ルフスという粗暴な吸血鬼の別人格を持つというギャップのおかげか、キャラが立っていますね。ヒロインの茉莉ちゃんが倒れていた静藍くんを助けているエピソードで、ボーイミーツガール的な展開に期待が持てる点もGoodです。

ちなみに、序盤で静藍くんが倒れていた理由を貧血と言っていたところが、職業柄とても気になりました。もちろん吸血鬼だからというのはわかっているんですけど、周囲に「持病」と濁していたその「持病」ってなんなの!? と。高校生年代の若い男の子で貧血はとても珍しいです。女子と違って月経がないので鉄欠乏性貧血にはなりにくいですから、誤魔化す理由にするとしたら遺伝性の溶血性貧血か!? とかとか(貧血にもたくさん種類があります) 男性でも中年世代になると消化器系の病期で消化管出血を起こして貧血を引き起こすことが多くなってくるんですけどね……と、勝手にはしゃいだ医療従事者による豆知識でした。へー、くらいに聞き流してくださいm(_ _)m

余計なことを書きましたが! 茉莉ちゃんや静藍くんを始め、キャラがそれぞれ立っていてテンポよく進むので、ワクワク、ハラハラしながら読ませていただきました!

解除

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン
ファンタジー
 世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。  大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。  GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。  ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。  そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。  探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。  そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。  たまに有り得ない方向に話が飛びます。    一話短めです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。