蜃気楼の向こう側

貴林

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5 ナミリアの宿

忍び寄る影

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蓮華もまた、陽が落ちて闇に隠れる裏世界に来ていた。
表世界に真希乃、彩花、俊、忍。
誰一人、いなかったことが気になった蓮華は、ナミリアの宿近くまで来たところで何やら不穏なものを見つけていた。
まず、遺跡の見張り台にあった死体。
微かに遠く地響きを感じ、馬車が近いことに気づく。
慌てた蓮華は、ナミリアの元へと急いだ。
鍛冶場に一人、あと今まさに一人音を立てることなく生き絶える人が玄関先にあった。
影は二つ。他に気配はない。
鍛冶場から店に入る蓮華。

音を立てず扉を開く影。
二階の部屋を見上げる二つの影。
微かに階段がきしむ、ゆっくりと影が上っていく。
二階の廊下に出る影。
スグルの部屋 と書かれた扉の前に立つ影。ドアノブに手を伸ばす。
窓の方に気配を感じ、視線を送る影。
月明かりが差し込む窓の前に、人影が一つ。身構える二つの影。
静かに歩み寄る人影。
対して、両と手に短刀を握る影。
月明かりに浮かび上がる人影は、髪の短い少女。白いシャツに淡いベージュ色のショートパンツを履いている。
蓮華であった。
「ここは狭いから、場所を変えませんか?」
その言葉を聞くでもなく影が短刀を振りかざす。
蓮華は、半身をズラすと影の手首を取り、ねじ伏せる。倒れまいと影は宙で返り着地する。
影は、痛めた肩を回している。
もう一人の男が口を開く。
「・・蓮葉はすは・・か?」
えっと、目を見開く蓮華。
遠く馬車の音が近づく。
「ちっ、邪魔が入ったか。退くぞ」
言うと影は、蓮華の横をすり抜け窓を破って飛び出していった。
(また、何もせずに行ってしまった。いったい、何が目的なの?)
窓を見つめる蓮華。
蓮華は、こうしてはいられないと、ドアを開けると叫んだ。
「俊ちゃん、起きて。早く」
続いてナミリアの部屋へ
ドンドンとドアを叩く蓮華。
「ナミリアさん、起きて。敵が来ます」
脱いだ服を抱え、隠すべき所を隠しながら、廊下に出てくるナミリアと忍。
それを見た蓮華は、目をパチクリさせる。
慌てて目を逸らすと
「私が時間を稼ぎます。早く身支度を」
言うと、蓮華は廊下の手すりから下の酒場に飛び降りる。
着地と共に入り口から、外に躍り出る。
ザザッと、地煙を上げる蓮華。
そこへ馬車を従えて、鎧を身に付けた者たちが、やってきた。
何奴なにやつ?と、ばかりに
軽装の者たち四人が剣を抜く。
鎧の男の一人が
「構わん、斬れ」
一人が剣を振りかざし、蓮華を襲う。
剣を持つ者の、手首を取るとねじり伏せる受け身を知らないその者は、あっさりと地に伏せてしまう。捻った腕の付け根に蓮華がかかとを落とす。ゴキッと音がして、その者は肩を押さえてのたうち回る。
二人目は、蓮華を後ろから羽交い締めにすると、へへへと笑う。
蓮華は、その者の手を取ると腕の下をくぐり抜け、そのまま腕を捻り上げる。男は悲鳴を上げ、腕の捻りに合わせるように転がり頭を地面に叩きつける。捻ったその肘を蹴りへし折る蓮華。
三人目が、剣を構えるが踏み出せないでいる。
鎧の男が、前に出る。
「もう良い、下がれ」
鎧の男は、蓮華を見下ろす。
「何者だ。貴様」
蓮華は、手をパンパンとはたく。
「名乗り合うのでしたら、そちらからどうぞ」
蓮華は、構えもせず無防備に立っている。
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