蜃気楼の向こう側

貴林

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5 ナミリアの宿

女 ナミリアと男 忍

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俊が、洗い場のコックをひねると、お湯が出てきた。
「出来たんだね。さすが、ナミリア」
誰に自慢しているのか、胸を張るナミリア。
「どんなもんだい、設計図通りに作っといたよ」
広げた図面を見る忍。
「ほお、ソーラーパネルを使った湯沸かし器ですな」
横目でナミリアをニヤついた顔で見る忍。
ちっと、舌打ちするナミリア。
「図面が読めても、こう上手くは作れんだろうよ」
眉をピクリとさせる忍。
「俊の才能の賜物たまものですな。これなら、作れるというもの」
「なんだと、あたいに文句でもあるのかい?」
忍の胸ぐらを掴むナミリア。
「おお怖。これでは、まるで男ですな」
「そういうお前は、まるで女だね。お前のは、こんなもんかい?」
小指を立てるナミリア。
ピクつく忍。
睨み合う二人。
「ほお、だったら女だって証明出来ますかな?」
茶化してみせる忍。
「お、面白いじゃないか。だったら女だって証明してやるよ」
ナミリアが、少し、はにかんでみせる。
「い、いいだろう。そういうなら、こっちも証拠を見せようじゃないか」
言った手前、後には引けなくなる忍。
弟子の一人が
「あ、あのお二方」
なんだ?と、男を見る二人。
「お嬢さんが・・・」
二人が、うつむいて真っ赤になる俊を見て、ハッとする。

気まずい空気が流れる。

その空気を破るかのように、扉がバタンと開かれる。
弟子の一人が駆け込んできた。
「たた、大変です。ロムル軍がっは・・・」
男は、口を開けたままパクパクと口を動かすが声にならない。
見ると喉元から剣先が突き出ている。
ドサッと、倒れる男。

鉄の鎧に身を固めた者が、ガシャリと音を立てて入ってくる。
「ここに、腕のいい鍛冶屋がいると聞いてきたんだが」
鎧から男の声。
ナミリアが立ち上がる。
「あたいだよ。なんのようだい?」
剣を肩に担ぐと
「ほお、あんたがそうかい?てっきり、男だと思っていたが・・・いいだろう。一緒に来てもらおうか?」
んっと、鎧の男の目がテーブルの上の図面に向けられる。
「これを書いたのは誰だ?」
すっと、手を上げる俊。
「お前も一緒に来い」
鎧の男は、ナミリアと俊を連れて外に出る。それと入れ替わりに軽装の者たちが三人流れ込む。
鎧の男が振り向く。
「残りは斬れ」
あっと、俊が忍に向く。
「逃げてー」
鎧の男に当身を喰らう俊。
「俊ちゃん!」
ぐったりとする俊を支えようとするナミリア。
それを、止めようする鎧の男。
ナミリアは、鎧の男に体当たりをする。
よろめき倒れる鎧の男。
それを見てか、忍も立ち上がり、目の前の軽装の者に体当たりをする。
ドアの向こうに、飛ばされる軽装の者。
「これを」
弟子の一人がメイスを忍に投げる。
掴むと軽装の者の頭を横殴りにした。
メキッと、金属がひしゃげる。
口から血を吐き出すと地面に倒れ込む。
地に伏している者の頭も、メイスが叩き潰す。
立ち上がろうとする鎧の男。ナミリアが、足で首元を踏みつけ押さえつける。
「や、やめろ。後で後悔することになるぞ」
ふっと、笑うナミリア。
「後で悔いるから、後悔ってんだよ」
グイッと、足に力を込めるナミリア。
鈍い音がして、動かなくなる鎧の男。
残るは、一人。
ひっと、悲鳴を上げる軽装の者が走り出す。
「まずい、逃げられたら応援を呼ばれちまう」
忍が、手に持ったハンマーを投げつけるが、届かなかった。
「しまった」
思った瞬間、ビュンと風を切る音。
トゥッと、手応えのある音。
走り去る軽装の者の首元のガードのない部分に矢が突き刺さる。
ナミリアと忍が振り返ると、震える手で矢を放った俊が立っていた。
ふっと気を失う俊。ザッと、滑り込む忍が受け止める。
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