蜃気楼の向こう側

貴林

文字の大きさ
36 / 96
2 裏世界

ナミリアと俊

しおりを挟む
麗美の側で、見守る俊に近づき、しゃがむと目線を俊に合わせるナミリア。
「怖い思いさせちまったな。ごめんよ、スグル」
ニコリと、ナミリアを見る俊。
「ナミリアが一緒だから怖くないよ」
ポッと、顔が赤らむナミリア。
「そ、そうか?なら、よかった」
俊の頭をクシャクシャっとすると、ガハハハと笑うナミリア。
スグルの手を取ると、それに握られているであろう物を見ながら
「お、そうだ。スグル。出来たもの、マキノに渡してくれるかい」
「うん、わかった」
真希乃たちの方に、駆けていく俊。

「へえ、あのナミリアがね」
横目でニヤニヤする麗美。
「スグルは、賢い子だよ。それに、肝っ玉も座ってるよ」
「肝っ玉?なんで?」
「あの状況で、作ったばかりの装飾品を、いつのまにか、手に持ってたんだよ」
「へえ」
「怖さで動けなくなるのが、普通なんだが」
ふっと、笑うナミリア。

真希乃には、結晶の粉が練り込まれたプラチナの腕輪を。
彩花と蓮華には、プラチナのネックレスに磨き上げた結晶石をヘッドに下げているものと、少し小さめな結晶石を施したピアスを。
俊には、プラチナに磨き上げた結晶石を施した指輪を。
それぞれに渡すとそれを身につける面々。
それと、もう一つ、真希乃と同じ腕輪を、俊はリュックにしまった。
残った結晶石のかけらは、皮の巾着に入れられ、真希乃の手に。

陽もかげりを見せ始める頃。
「さて、飯でも作るか」
「あ、手伝う」
俊が、椅子から飛び降りる。
「私も」
彩花は腕まくりをする。
わたくしも、お供致します」
蓮華は、座っていた椅子を静かにテーブルに収める。
「んじゃ、俺もーって、無理です」
真希乃は、立ち上がりかけて、また、ドカッと腰を下ろす。
ガハハハと笑うナミリア。
「いいんだよ。人には得手不得手えてふえてってのが、あるんだ。ここぞって時、腕を振るえばいいんだ」
麗美も、それには同感で
「そうよ、今、真希乃くんに必要なのは、ここでの知識を身につけること」
テーブルに地図を広げる麗美。
「まずは、全体を把握しましょ」

       ・

厨房から、お腹の虫を起こす匂いが、流れてくる。
「お待たせー」
俊とナミリアが料理を盛りつけた皿を、運んで来た。
「うほ、美味しそう」
彩花と蓮華も大皿を持って出てきた。
きのこ、豚肉、鶏肉、人参、馬鈴薯、鮎などの食材を使った様々な料理がテーブルを埋め尽くす。
皆の表情がほころんでいる。
ランプの灯りが、暖かさを増している。
ゆっくりと、流れる時間。
楽しいひと時であった。
彩花が食べ物を真希乃の頬に、なすりつける。
俊が、ナミリアの大きな口に食べ物を運ぶ。
麗美は、一人、酒を飲んでいる。
蓮華は、彩花と真希乃のやりとりを見て目を細めて笑う。

異世界での、はじめての夜であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...