蜃気楼の向こう側

２ 裏世界

抜刀、納刀

「真希乃くん？」
ゆらりと、歩きながら麗美が竹藪に向かい真希乃を見る。

左手で鯉口を切り、相手に向け抜刀する、抜ける手前で鞘を後ろに引く。そこから、真一文字に払う抜き付け。刀身を左上に持っていくと右下に振り下ろし血振りをする。切先きっさきを鯉口に差し込み、刀身を鞘に納めつつ、鞘からも迎え入れ帯に差し入れた。大きく息を吐き出し残心を解く。一連の流れとなって、鮮やかだった。
「様になってるじゃない」

再び、真希乃は、刀を抜く、構える、刀をおさ・・おさ・・納める。
麗美は、指の腹を額に置く。
「すぐには、無理か」

「あ、麗美さん。刀って、深いっす」
切った指をふうふうしながら真希乃が近づく。
「そうね、抜刀したら、自身すら傷つけるかもしれないものだからね。とても、危険よ」
「ほんと、その通りですね」
「やめる？」
首を横に振る真希乃。
「いえ、やってみたいです。でも、実際に生きてるものを斬ると考えると、とても恐ろしいです」
ふっと、笑みを浮かべる麗美。
「あなたは、強くなるわ」
「だといいですけど」
「それにしても、大したものね。抜き付けして、血振りまでするなんて」
「抜き・・？血振・・？」
「居合術よ。お父さまから学んでた？」
「いえ、ああ、映画とかの真似ですよ」
麗美は、顎あごを摘つまむと考えた。
「んー、そうなると、やっぱり・・」
「ん？」
「やっぱり、良い師匠が必要ね」
「それは、そうですけど、そんな人、どこにいるんですか？」
「ちょっと、心当たりがあるの。まずは、食事ね。行きましょう」