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3 帰郷 旅立ちの前に
彩花と隼太
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南雲家、道場
道着姿の彩花と父の南雲隼太が、演舞をしている。
上段受け、突きの連打、横に向き下段受け、上段受け、手刀・・攻防入り交ぜってのこの演舞は、南雲家でも、もっとも難易度の高いものだった。
彩花と隼太は、寸分のズレもなく延々と続けていた。
汗が止めどなく流れ、道着の色を変えていた。
延々と続いた演舞を終わりにしたのは、隼太だった。
汗で濡れた畳で、足を滑らせたのだ。
ドタン、受け身を取って難を逃れる隼太。
彩花の勝利となった。
「はあ、はあ、や、やられたな」
息も絶え絶えに、隼太は彩花を見上げる。
肩で呼吸をする彩花。
「お、お父さん、煙草、やめてないでしょ」
驚く隼太。
「あはは、まいったな・・・」
「図星でしょ」
「か、母さんには、内緒な」
彩花も流石に、疲れたのか隼太の隣にへたり込んだ。
「母さん、知ってるよ」
「ええ!」
「スーツの、内ポケットに煙草のカスが、入ってたって。それと、臭いが、残ってたみたいよ」
隼太は、後ろ手に天井を仰ぐ。
「さすが、母さん、鼻が効くな。後で、ドヤされるな、これは」
彩花も天井を見る。
「やめるって、言って、やめないからだよ」
「仕方ないだろ?ストレスの多い仕事なんだから」
彩花が、声色を変えてゆっくりした口調で言う。
「それ、単なる言い訳ですよね?」
隼太は、驚いて身構えた。
「びっくりしたー。母さんかと思ったよ」
「ぷふっ、似てた?」
「うん、似てた。それに、怖いのは、母さん以上だからね」
「あ、ひど!」
隼太をどつく彩花。
「いた!それだよ、手と言葉が同時に襲ってくるんだよ。彩花は」
「そうさせてるのは、どこの誰ですか?」
「はーい」
隼太は、手を挙げる。
うふふふと、彩花は目を細くして笑う。
それを、見つめる隼太。
幼少の頃の彩花が、蘇っていた。
「彩花は、昔から、こうと決めたら、突っ走る子だったね」
「そうかな」
モジモジとする彩花。
「迷いは、ないみたいだね」
「え、うん」
真っ直ぐに隼太を見る彩花。
「わかった」
立ち上がり、道着をバサバサと払う隼太。
手を彩花に差し伸べる隼太。
「行っておいで。悪役は、父さんが引き受けるから」
隼太の手を取る彩花。
「ありがとう、お父さん」
隼太に引き上げられ、彩花が立ち上がる。
そのまま、隼太に抱きつく彩花。
思わぬ展開に、動揺する隼太は、手の行き場に困ってしまう。
やがて、彩花を抱きしめた。
「お土産、待ってるからね」
「旅行じゃないし」
「そか」
隼太は、彩花の頭を撫でながら笑う。
彩花もまた、隼太の胸に顔を埋めたまま笑った。
道着姿の彩花と父の南雲隼太が、演舞をしている。
上段受け、突きの連打、横に向き下段受け、上段受け、手刀・・攻防入り交ぜってのこの演舞は、南雲家でも、もっとも難易度の高いものだった。
彩花と隼太は、寸分のズレもなく延々と続けていた。
汗が止めどなく流れ、道着の色を変えていた。
延々と続いた演舞を終わりにしたのは、隼太だった。
汗で濡れた畳で、足を滑らせたのだ。
ドタン、受け身を取って難を逃れる隼太。
彩花の勝利となった。
「はあ、はあ、や、やられたな」
息も絶え絶えに、隼太は彩花を見上げる。
肩で呼吸をする彩花。
「お、お父さん、煙草、やめてないでしょ」
驚く隼太。
「あはは、まいったな・・・」
「図星でしょ」
「か、母さんには、内緒な」
彩花も流石に、疲れたのか隼太の隣にへたり込んだ。
「母さん、知ってるよ」
「ええ!」
「スーツの、内ポケットに煙草のカスが、入ってたって。それと、臭いが、残ってたみたいよ」
隼太は、後ろ手に天井を仰ぐ。
「さすが、母さん、鼻が効くな。後で、ドヤされるな、これは」
彩花も天井を見る。
「やめるって、言って、やめないからだよ」
「仕方ないだろ?ストレスの多い仕事なんだから」
彩花が、声色を変えてゆっくりした口調で言う。
「それ、単なる言い訳ですよね?」
隼太は、驚いて身構えた。
「びっくりしたー。母さんかと思ったよ」
「ぷふっ、似てた?」
「うん、似てた。それに、怖いのは、母さん以上だからね」
「あ、ひど!」
隼太をどつく彩花。
「いた!それだよ、手と言葉が同時に襲ってくるんだよ。彩花は」
「そうさせてるのは、どこの誰ですか?」
「はーい」
隼太は、手を挙げる。
うふふふと、彩花は目を細くして笑う。
それを、見つめる隼太。
幼少の頃の彩花が、蘇っていた。
「彩花は、昔から、こうと決めたら、突っ走る子だったね」
「そうかな」
モジモジとする彩花。
「迷いは、ないみたいだね」
「え、うん」
真っ直ぐに隼太を見る彩花。
「わかった」
立ち上がり、道着をバサバサと払う隼太。
手を彩花に差し伸べる隼太。
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隼太の手を取る彩花。
「ありがとう、お父さん」
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そのまま、隼太に抱きつく彩花。
思わぬ展開に、動揺する隼太は、手の行き場に困ってしまう。
やがて、彩花を抱きしめた。
「お土産、待ってるからね」
「旅行じゃないし」
「そか」
隼太は、彩花の頭を撫でながら笑う。
彩花もまた、隼太の胸に顔を埋めたまま笑った。
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