蜃気楼の向こう側

貴林

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9 提灯洞

キスしたくなった

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座禅ばかりで体を動かしたくて仕方がない真希乃は立ち上がると彩花を見る。
「彩花、組手やらないか?」
「え?うん、いいよ」
真希乃は広間の真ん中に来ると腕を回し始める。
彩花も首を回し、手首をブラブラすると真希乃の前に立つ。
「いいよ、お待たせ」
お互い、向き合うと礼を交わす。
ゆっくりと構える二人は、対峙しあったまま動かない。
お互いが相手の構えから手の内を先読みしながら、頭の中で攻防を繰り広げていた。
真希乃は想像の中で、彩花の一撃を受けると、怯んだ顔をする。
彩花が構えたまま一歩を踏み出す。
すかさず、彩花は攻めの猛攻。
後退りする真希乃は、足を交互に入れ替える。
それを蹴りと捉えて、腕で受ける彩花は、衝撃で顔を歪ませる。
ジリジリと前に出る真希乃に対し、後退りをする彩花。
後方に迫り出した岩肌に足を取られ、よろめく彩花は、目を見開き我に帰る。
倒れる寸前の彩花を真希乃が抱えていた。
「大丈夫?」
「ええ、ありがとう。腕上げたね。真希乃」
互いの気迫がぶつかり合う戦いが終わる。
倒れかけた彩花を抱き起す真希乃は、顔が近いのに気づき、彩花の唇を見て固唾を飲む。
「他、助かったよ。真希乃」
先に離れたのは彩花だった。
「あ、いや、ごめん」
「なんで、謝るのよ」
「いやあの、き、キスしたくなった」
「え?」
「だから、ごめんて」
「・・・バカ」
彩花は、真希乃に抱きついていた。
真希乃も驚いたが、彩花はもっと驚いていた。
「あ、ご、ごめん」
慌てた彩花は、真希乃から離れる。
その手を掴む真希乃は、グイっと引き寄せた。
真希乃は、唇を重ね合っていた。
目を見開く彩花は、次第に目を閉じる。
いつのまにか、深いキスをしている真希乃と彩花。
「彩花・・・」
「な、なに?」
「あ、こんな時に言うものじゃないね」
「いいから言って」
「す、す、す・・・」
「ん?」
その先を期待する彩花の顔が赤くなる。
「す、すっかり、上達したよね、彩花」
ぷうと、頬が膨らむ彩花。
「バカ」
言うと真希乃を突き飛ばしていた。
ドスンと尻餅を着く真希乃。
「いってぇ、何すんだよ」
「知らないわよ、バカ」
やり場のないこの気持ちを、真希乃にぶつける彩花は、扉の中へと入ってしまった。
座り込んだままの真希乃も、気持ちを素直に言葉に出来ない自分に腹を立てていた。
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