蜃気楼の向こう側

貴林

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9 提灯洞

好きって言える

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「俺は、確かに蓮華のことは気になるよ。気になるけど、それは単なる憧れみたいなもので」
「憧れ?」
「なんていうかな、言い訳してるみたいで嫌なんだけど」
「でも、好きなんでしょ?」
「だから、そうじゃなくて」
「そうじゃなくて、なんなのよ」
「彩花、簡単に気持ちを伝えられるなら、俺だってこんなに悩まないさ」
「気持ちを伝えるだけなのに何を悩むのよ」
「じゃあ、彩花は言えるのかよ」
「え?」
「彩花は、自分の気持ちをすんなり相手に言えるのかって、聞いてるんだよ」
「い、言えるわよ。それくらい」
「じゃあ、言ってみろよ」
「な、何をよ?」
「お、俺のこと、どう思ってるんだよ」
「ほら、結局、そうなるんじゃん。そうやって私から先に言わせるんだもん。ずるいよ」
「え?いつ何を先に言ったって言うんだよ」
「それは・・・まだ、言ってないけど」
「ほらみろ、彩花だって言えてないじゃないか。俺ばかり責めるなよ」
「だって、真希乃。男なんだし、女としては先に言って欲しいんだもん」
「わ、わかったよ。なら言うよ」
「え?」
「いいんだな、俺の気持ちをぶちまけても」
「そうやって、すぐ脅すんだから」
「脅してなんかないよ」
「いいえ、脅かしてますぅ」
「好きだって言うのが、脅しだって言うのかよ」
「え?」
「あ!」
下を向いて、顔を赤くしている彩花。
「・・・ねえ」
「な、なんだよ」
「もう一回言って?」
「あ、いや、だから」
彩花は、真希乃に振り返ると真面目な顔をしている。
「真希乃、私ちゃんと聞くから」
「う、うん、わかったよ」
直立不動の真希乃は、ズボンで手の汗を拭う。
「し、しっかり、聞いとけよ。一回しか言わないぞ」
「うん、わかった」
ゴクリと固唾を飲む真希乃。
「あ、彩花」
「はい」
「お、俺は、お、お、お前が」
「うん」
「あ、ちょっと待って。ちゃんと言いたいから」
「うん、わかった。待つよ」
顔を真っ赤にする真希乃は、動揺して咳払いをする。
「息が出来ない」
深呼吸をする真希乃。
「よし。言うよ」
「うん」
「いいか、言うぞ」
「うん、聞いてる」
「お、俺は、お前がすぎだ」
「はい?」
「あ、あ、すき、すき」
どもらないか確かめる真希乃。
「もう一回言う?」
上目使いに、照れている彩花。
「あ、うん。出来れば」
真希乃は、言葉にしてみると、なんとなく落ち着いていた。
「彩花、俺、ずっと前から、お前のこと好きだったよ」
「過去形?」
「またぁ、意地悪言うなよ」
「あは、ごめん」
「好きって、言うと、なんだか違う気もするんだけど」
「違う?」
「うん、好きなのもそうだけど」
「そうだけど?」

「いつも、一緒にいたいんだ。彩花と」

「・・・真希乃」
顔を上げる彩花は、真希乃を見ると優しい顔で微笑んでいた。
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