蜃気楼の向こう側

貴林

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9 提灯洞

重なる2人

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「真希乃・・・」
優しく微笑む真希乃を見る彩花。
「好きだ。って一言言葉にしてみると、ずいぶん簡単なんだな。何度でも言えそうだ」
「なら、もっと言ってよ。何度でも」
「そう言われると言えなくなりそう」
「じゃあ、言わない」
「空手やってる彩花を見て、格好いいって思ったのが最初だったよ」
「え?それって、いくつの時?」
「小学生の低学年の時じゃなかったかな?」
「え?」
「キレがあって、迫力があって、それでいて可愛くて、何より美しかった」
「何よ、美しいって?」
「なんだろな、あの頃、彩花が闘う女神みたいで綺麗だったの覚えてるよ」
「よく言うよ」
「本当だって、型をしてる時の彩花は少し怖くてね。近寄り難い存在だったよ。それがあの瞬間で全て変わったね」
「あの瞬間?」
「うん、彩花の優勝が決まった時だよ」
恥ずかしくなって、下を向いてしまう彩花。
「あの時、真希乃、いたんだね」
「うん、あの時の彩花の涙、可愛いかったよ。思えばあの時から好きだったんだよ、彩花のこと」
「やめてよ、自分でも思い出すとあの時は恥ずかしいから」
「何を恥ずかしいことがあるかよ」
「泣き顔を見せるなんて恥ずかしいよ」
「俺は、そうは思わないよ」
「なんで?」
「だって、泣いてる顔も笑ってる顔も感情の一つに過ぎないだろ?」
「まあ、そうだけど」
「まして、泣いてる時ほど、素直な気持ちはないと思うんだ」
「うん、確かに」
「お父さんに抱きしめられながら、嬉し泣きしてる彩花を見た時、胸が苦しくなってね」
「うん、覚えてるよ」
「気づいたら、俺も泣いてたよ」
「え?」
見上げて、真希乃を見る彩花。
「この子と一緒に、泣いたり笑ったりしていたいって思った」
「真希乃・・・」
「俺、彩花が大好きなんだよ。あの時から、ずっと」
「・・・ばか」
彩花の笑った口元を涙が通り過ぎていく。
「真希乃が好き」
それ以上言わないし、言わせないようにするかのように、彩花の唇が真希乃の唇を塞ぐ。
鼻と鼻をこすりながら、安定しない真希乃の顔を手のひらで押さえる彩花は、さらに深くキスをする。
彩花から流れ落ちる涙が、真希乃の頬に移り唇に流れ込む。
「涙が塩っぱい」
「やだ」
涙を拭おうとする彩花の手を真希乃が止める。
真希乃は、口付けで涙を受け止める。
吐息が彩花の口から漏れる。
「真希乃、キスして」
目を閉じてキスを待つ彩花。
少し照れる真希乃は、彩花の鼻に歯を立てる。
「いた、もう真希乃ったら」
胸を叩かれる真希乃は、そんな彩花が愛おしかった。
おでこを突き合わせる二人は、自然と笑みを浮かべ合う。
真希乃が唇を重ねてくる。上唇、下唇と唇でつまむ真希乃。
それに酔いしれる彩花。
彩花は、いつか道場の前で激しくキスをされたのを思い出していた。
そう、真希乃が豹変したあの時。
荒々しくも男らしかったが、あれは真希乃じゃないと思っていた。
今の優しいキスが、真希乃なんだと実感していた。
彩花の頬が紅潮し、熱い息を吐息にして吐き出す。
「真希乃、抱いて。抱きしめて」
「うん」
唇を重ね、ギュッと抱きしめる真希乃に、息が出来なくなる彩花は、めまいを起こし膝が折れる。
それをしっかり受け止めている真希乃。
それに答えるようにしがみつく彩花。
少し背の高い真希乃に深く口付けをしようと、爪先を立てる彩花を手伝うかのように真希乃も腰に回した腕で引き寄せる。
彩花が唇を離すと、照れて下を向く。
「真希乃、あ、当たってるよ」
「え?あ、うん」
真面目な顔で見つめる真希乃を見る彩花。
「・・・する?」
「え?うん、彩花が欲しい」
お互いの胸の膨張収縮が大きくなる。
「・・・いいよ、しても」
「え?」
真希乃の手を取ると、自分の寝床に招き入れる彩花。
ぺたんこ座りをする彩花に、向かい合うように膝を着く真希乃。
「いいの?彩花」
「うん・・・」
真希乃は、遠くの松明に気を発するとふっと火が消える。
薄暗くなった部屋で、真希乃が彩花に唇を重ねると体を重ね合わせ、床へと倒れ込む。
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