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9 提灯洞
真希乃と毛大 そのニ
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対峙し合う真希乃と毛大。
真希乃の後ろに、しゃがみこんだまま回復を待つ彩花は、精神統一のため、その場に正座をすると目を閉じた。
また、毛大の背後にも、もう一つの影が現れる。蝶華である。
「珍爺、まだ済んでおらんのかえ?早よ、アヤカを助け出さぬか」
「おお、美か。これがなかなか、マキノが手強くての?」
毛大は、視線は真希乃を捉えたまま蝶華に弾んだ声で答える。
「ふん、よく言うわい。妾には楽しんでおるようにしか見えんぞよ」
蝶華には、この時の毛大がおもちゃを与えられた子供のように見えたのであろう。
呆れながらも毛大のその後ろ姿に、若き頃の男の背中を見た蝶華は、心なしか胸を踊らせていた。
「まったく、男というのは、いつまで経っても子供でいかんわい」
ポツリと言った蝶華の言葉が聞こえたのか、毛大がそれに反応する。
「仕方ないじゃろ。楽しいものは楽しいんじゃ」
「はいはい、そうかえ。勝手にするが良いぞよ」
毛大を本気にさせる真希乃の力量が気になるのは、蝶華も同じであった。
獣のように殺気立つ真希乃の中に、冷たく落ち着いた何かを感じ取っていた。ゆらゆらと揺れる真希乃に隙がなかった。
「ほお、これは確かに楽しそうじゃわい」
笑みを浮かべる蝶華は、毛大に視線を移した時、真希乃が動いたのを見た。
真希乃の牽制の連撃が繰り出される。
両手両足を使った真希乃の攻撃に、全身で応える毛大は、それら全てを受け、又は受け流している。
「ほお、これは先が楽しみじゃの」
老いた毛大、その瞳に輝きが蘇っていく。
「忘れておったの、この感覚。いいのぉ。実にいい」
夢中になりすぎて、自然に繰り出される本気の拳が、真希乃の頬をかすめていく。
痛みに顔を歪める真希乃は、思わず後退りをする。
「つ、なかなかやるじゃねえか。爺さん」
真希乃は頬の傷から滲み出る血を拭うでもなく、前に出る。
更に激化する真希乃の攻撃に対し、少しずつ殻を破るように力を放出していく毛大。速さと重さが増していく。
それに圧倒され始める真希乃は、彩花に気を取られる余裕がなくなっていた。徐々に引き離され奥の壁へと追いやられる真希乃。
「美よ、アヤカを」
毛大が声をかけた時には、蝶華はすでに隙を伺い、彩花に寄り添っていた。
蝶華が彩花を抱えると、毛大の後ろに回り込み、上空の出口に向かって飛んだ。一人での跳躍ですらこうはいかないであろう。ましてや人を抱えての跳躍となれば。
「珍よ、あまり無理するでないぞよ」
「わかっておる。まだまだ、負けはせんでの」
その言葉に鼻で笑う蝶華。
「ならば良い。心置きなくマキノと向き合うが良いぞよ」
穴の上から覗き込む蝶華を見上げる真希乃は舌打ちする。
「婆さん、すぐ行くから待ってろ」
見上げる真希乃の前に立ち塞がる毛大。
「どこを見ておる」
「邪魔だ。しじい」
真希乃の正拳を避け、大きく後退する毛大は深くため息をつき肩を落とすと、目を閉じて深く息を吸い込みそして吐いた。
「はあ、やはりあれをやるしかないかの」
「やる?面白え。奥の手があるようだな。やれるものならやってみろ。ジジイ」
やれやれと、襟足をかく毛大は、ゆっくりと構える。
「その性根を叩き直す以外ないようじゃの」
「面白い。来い、老いぼれ」
真希乃は、毛大の懐に飛び込むと凄まじいばかりの連続技の猛攻。結晶を持っていないが、何故か速い。姿を消しながら四方八方から襲いかかる。
真希乃の繰り出す拳は、予想以上に速く、しかも重い。
が、難なく受け止める毛大が感心している。
「ほお、余裕をかますだけのことはあるの。これほどとは、なるほどの、蛇の力、侮れんの」
「ごちゃごちゃと口が減らねえな」
クルリと体を捻る真希乃は、大きく足を振りかぶり踵落としを毛大に放つ。
毛大は、あえてこれを両腕で受け止める。あまりの衝撃に、踏ん張る足元の小石が跳ね上がる。
ガクッと膝を折る毛大は、危うく膝を着きそうになる。
「・・・くっ、危ないの。予想以上じゃ」
毛大は受けた腕で真希乃の足を弾きあげると、そのまま真希乃の懐に飛び込むと金的に正拳を叩き込んだ。
たまらず真希乃は体をくの字にして吹き飛ばされ、股間を押さえながらうずくまる。その顔は痛みで歪んでいる。
それを見た毛大は、口角を持ち上げて嬉しそうに鼻で笑う。
「芝居は良い。はよ、立たんか。マキノ。手応えでわかるわい」
身構える毛大は、手招きをしている。明らかに誘っている。
「だろうな」
真希乃は何事もなかったように立ち上がると、毛大から正拳突きを受けて赤く腫れた右手の甲をブラブラさせる。
「いいパンチだったぜ、爺さん」
「ふっ、貴様如きに褒められても、嬉しゅうはないの。遊びは良い。かかってくるが良いの」
「そう急かすなよ。早くケリ付けてえのは、わかるけどよ。もっと、楽しもうぜ」
顔を上げ見下すように毛大を見る真希乃は、唇を舐めている。
「ほお、年老いた我が身を案じてくれるのかの?じゃが、そんな悠長なことでいいのかの?大事な獲物が遠のいていくぞ」
洞窟の入り口を見上げる毛大。
「獲物?ああ、女の事か、そんなものより。もっと美味しいもの見つけちまったからな。今となったら、どうでもいい」
「女か・・・彩花のことをそのように・・・こうなると、個に対する認識がなくなるようじゃの」
(目の前のこやつは、マキノであって、そうではないと言うことかの。恐らく、この事は覚えておらぬ記憶となろうの)
毛大は、大きく肩を落としてため息をつくと、呼吸法の型を始める。
それを見た真希乃が構えを解くと毛大のすることを見定めようとする。
「へえ、面白そうだな。次は何が出るのかな?」
毛大は両腕を腰に引き寄せると、大きく胸を膨らませ息を吸い込んだ。
真希乃は腰に手を当て余裕そうにしていたが、身構えた。
「行くぞ、ジジイ」
真希乃は毛大に向かって踏み込むと、フッと消えた。
カッと目を見開く毛大は、何もない後方に向き直ると両手を突き出し気合の一撃を放つ。
ドン 衝撃波が扇状に空間を歪める。
その空間に真希乃が現れ、その衝撃をまともに受けていた。
「なに?」
腕でそれを遮ろうとするが、全身を襲う衝撃は抑えられない。
勢いよく後方へ吹き飛ばされる真希乃は、石の壁に叩きつけられる。
「ぐわっ」
吐血する真希乃は、その場に崩れ落ちる。
白目を向く真希乃は地面に伏したまま動かなくなった。腕や足が変な形で折れ曲がっている。全身の骨が複雑に折れているようだ。
毛大もまた、力付き、ガックリと膝を着くとたまらず地に向かって吐血する。
「はあ、はあ、やはり歳かの」
蝶華が降りてきて、肩で呼吸を繰り返す毛大に駆け寄る。
「珍、まさかあの技を」
「こうするのが効果的じゃでの」
「そうは、言うてものぉ」
蝶華の支えで立ち上がる毛大は、自分の力では立ち上がることすら出来ないほど精魂使い果たしていた。
「今、無名がこちらに向かっておる」
「そうか。アヤカは、どうしておるかの?」
「妾の里で、休んでおるぞよ。チヨリに預けてある」
「チヨリか。確かに面倒見は良い子じゃが・・・そうか、すまんの。美よ」
「今更、かしこまらんでも良いわ」
蝶華を見つめる毛大。
「美よ。何やら、今日はやけに綺麗に見えるが何かあったかの?」
その言葉に頬をほんのりと赤らめる蝶華。
「な、何を申すかえ?妾はいつもと変わらんぞよ」
「そうかの?気のせいのかの?いつになく乙女に見えるが」
先程の毛大に男を感じていた蝶華は、心の内を見透かされたような思いであった。毛大を支えていた腕を咄嗟に引き抜いてしまう蝶華。床に落ちる毛大。
「あいたた。何をするのじゃ、蝶華」
「お、お主が要らぬことを申すからぞよ」
慌てて立ち上がる蝶華は、顔を見られまいと背を向けてしまう。
「何を照れておる?」
「て、照れてなどおらぬわ。バカか、珍爺は。そ、それよりもどうするのじゃ」
蝶華は、言うとはぐらかすように視線を真希乃に向けた。
「ふむ、それなんじゃが」
「何か当てがあるのかえ?」
毛大は遠く彼方を見つめる。
「ここはやはり、あいつに委ねるしか、ないと思うのじゃがの」
蝶華が驚いて、毛大を覗き込む。
「あいつ?まさか、あいつのことかえ?」
毛大は、口元の血を手で拭う。
「危険じゃが、あいつしか真希乃を抑えられんでの」
「しかしのぉ、珍よ。妾の元を去ってから、どこにいるかもわからんのじゃぞ?」
「恐らく、まだあそこじゃろ」
「あそこにおったにせよ。妾は賛成しかねる」
「あやつしかマキノの豹変を抑えられんのは、美もわかっておるじゃろ?」
「そうは言うてもの、あやつの力は・・・」
蝶華が何かを言おうとするのを遮るように蝶華の肩を掴む毛大は、優しく微笑む。
「大丈夫じゃ。なんとかなるじゃろ」
「そうかえ?じゃが、妾は共に行けぬ。まさか、珍一人で行く気かえ?」
「いや、わし一人じゃ無理じゃろ」
「他に誰かおるかえ?」
「ここは、やはり、チヨリしかおらんじゃろ?お供には」
「チヨリ?あれは、単に男好きなだけじゃぞよ?」
「だから、あやつにはいいんじゃよ。対反する性格のチヨリがの」
「そんなもんかえ?」
「そんなもんじゃ」
空を仰ぎ見る蝶華は、大きくため息をついた。
「一波乱あるぞよ、これは」
真希乃の後ろに、しゃがみこんだまま回復を待つ彩花は、精神統一のため、その場に正座をすると目を閉じた。
また、毛大の背後にも、もう一つの影が現れる。蝶華である。
「珍爺、まだ済んでおらんのかえ?早よ、アヤカを助け出さぬか」
「おお、美か。これがなかなか、マキノが手強くての?」
毛大は、視線は真希乃を捉えたまま蝶華に弾んだ声で答える。
「ふん、よく言うわい。妾には楽しんでおるようにしか見えんぞよ」
蝶華には、この時の毛大がおもちゃを与えられた子供のように見えたのであろう。
呆れながらも毛大のその後ろ姿に、若き頃の男の背中を見た蝶華は、心なしか胸を踊らせていた。
「まったく、男というのは、いつまで経っても子供でいかんわい」
ポツリと言った蝶華の言葉が聞こえたのか、毛大がそれに反応する。
「仕方ないじゃろ。楽しいものは楽しいんじゃ」
「はいはい、そうかえ。勝手にするが良いぞよ」
毛大を本気にさせる真希乃の力量が気になるのは、蝶華も同じであった。
獣のように殺気立つ真希乃の中に、冷たく落ち着いた何かを感じ取っていた。ゆらゆらと揺れる真希乃に隙がなかった。
「ほお、これは確かに楽しそうじゃわい」
笑みを浮かべる蝶華は、毛大に視線を移した時、真希乃が動いたのを見た。
真希乃の牽制の連撃が繰り出される。
両手両足を使った真希乃の攻撃に、全身で応える毛大は、それら全てを受け、又は受け流している。
「ほお、これは先が楽しみじゃの」
老いた毛大、その瞳に輝きが蘇っていく。
「忘れておったの、この感覚。いいのぉ。実にいい」
夢中になりすぎて、自然に繰り出される本気の拳が、真希乃の頬をかすめていく。
痛みに顔を歪める真希乃は、思わず後退りをする。
「つ、なかなかやるじゃねえか。爺さん」
真希乃は頬の傷から滲み出る血を拭うでもなく、前に出る。
更に激化する真希乃の攻撃に対し、少しずつ殻を破るように力を放出していく毛大。速さと重さが増していく。
それに圧倒され始める真希乃は、彩花に気を取られる余裕がなくなっていた。徐々に引き離され奥の壁へと追いやられる真希乃。
「美よ、アヤカを」
毛大が声をかけた時には、蝶華はすでに隙を伺い、彩花に寄り添っていた。
蝶華が彩花を抱えると、毛大の後ろに回り込み、上空の出口に向かって飛んだ。一人での跳躍ですらこうはいかないであろう。ましてや人を抱えての跳躍となれば。
「珍よ、あまり無理するでないぞよ」
「わかっておる。まだまだ、負けはせんでの」
その言葉に鼻で笑う蝶華。
「ならば良い。心置きなくマキノと向き合うが良いぞよ」
穴の上から覗き込む蝶華を見上げる真希乃は舌打ちする。
「婆さん、すぐ行くから待ってろ」
見上げる真希乃の前に立ち塞がる毛大。
「どこを見ておる」
「邪魔だ。しじい」
真希乃の正拳を避け、大きく後退する毛大は深くため息をつき肩を落とすと、目を閉じて深く息を吸い込みそして吐いた。
「はあ、やはりあれをやるしかないかの」
「やる?面白え。奥の手があるようだな。やれるものならやってみろ。ジジイ」
やれやれと、襟足をかく毛大は、ゆっくりと構える。
「その性根を叩き直す以外ないようじゃの」
「面白い。来い、老いぼれ」
真希乃は、毛大の懐に飛び込むと凄まじいばかりの連続技の猛攻。結晶を持っていないが、何故か速い。姿を消しながら四方八方から襲いかかる。
真希乃の繰り出す拳は、予想以上に速く、しかも重い。
が、難なく受け止める毛大が感心している。
「ほお、余裕をかますだけのことはあるの。これほどとは、なるほどの、蛇の力、侮れんの」
「ごちゃごちゃと口が減らねえな」
クルリと体を捻る真希乃は、大きく足を振りかぶり踵落としを毛大に放つ。
毛大は、あえてこれを両腕で受け止める。あまりの衝撃に、踏ん張る足元の小石が跳ね上がる。
ガクッと膝を折る毛大は、危うく膝を着きそうになる。
「・・・くっ、危ないの。予想以上じゃ」
毛大は受けた腕で真希乃の足を弾きあげると、そのまま真希乃の懐に飛び込むと金的に正拳を叩き込んだ。
たまらず真希乃は体をくの字にして吹き飛ばされ、股間を押さえながらうずくまる。その顔は痛みで歪んでいる。
それを見た毛大は、口角を持ち上げて嬉しそうに鼻で笑う。
「芝居は良い。はよ、立たんか。マキノ。手応えでわかるわい」
身構える毛大は、手招きをしている。明らかに誘っている。
「だろうな」
真希乃は何事もなかったように立ち上がると、毛大から正拳突きを受けて赤く腫れた右手の甲をブラブラさせる。
「いいパンチだったぜ、爺さん」
「ふっ、貴様如きに褒められても、嬉しゅうはないの。遊びは良い。かかってくるが良いの」
「そう急かすなよ。早くケリ付けてえのは、わかるけどよ。もっと、楽しもうぜ」
顔を上げ見下すように毛大を見る真希乃は、唇を舐めている。
「ほお、年老いた我が身を案じてくれるのかの?じゃが、そんな悠長なことでいいのかの?大事な獲物が遠のいていくぞ」
洞窟の入り口を見上げる毛大。
「獲物?ああ、女の事か、そんなものより。もっと美味しいもの見つけちまったからな。今となったら、どうでもいい」
「女か・・・彩花のことをそのように・・・こうなると、個に対する認識がなくなるようじゃの」
(目の前のこやつは、マキノであって、そうではないと言うことかの。恐らく、この事は覚えておらぬ記憶となろうの)
毛大は、大きく肩を落としてため息をつくと、呼吸法の型を始める。
それを見た真希乃が構えを解くと毛大のすることを見定めようとする。
「へえ、面白そうだな。次は何が出るのかな?」
毛大は両腕を腰に引き寄せると、大きく胸を膨らませ息を吸い込んだ。
真希乃は腰に手を当て余裕そうにしていたが、身構えた。
「行くぞ、ジジイ」
真希乃は毛大に向かって踏み込むと、フッと消えた。
カッと目を見開く毛大は、何もない後方に向き直ると両手を突き出し気合の一撃を放つ。
ドン 衝撃波が扇状に空間を歪める。
その空間に真希乃が現れ、その衝撃をまともに受けていた。
「なに?」
腕でそれを遮ろうとするが、全身を襲う衝撃は抑えられない。
勢いよく後方へ吹き飛ばされる真希乃は、石の壁に叩きつけられる。
「ぐわっ」
吐血する真希乃は、その場に崩れ落ちる。
白目を向く真希乃は地面に伏したまま動かなくなった。腕や足が変な形で折れ曲がっている。全身の骨が複雑に折れているようだ。
毛大もまた、力付き、ガックリと膝を着くとたまらず地に向かって吐血する。
「はあ、はあ、やはり歳かの」
蝶華が降りてきて、肩で呼吸を繰り返す毛大に駆け寄る。
「珍、まさかあの技を」
「こうするのが効果的じゃでの」
「そうは、言うてものぉ」
蝶華の支えで立ち上がる毛大は、自分の力では立ち上がることすら出来ないほど精魂使い果たしていた。
「今、無名がこちらに向かっておる」
「そうか。アヤカは、どうしておるかの?」
「妾の里で、休んでおるぞよ。チヨリに預けてある」
「チヨリか。確かに面倒見は良い子じゃが・・・そうか、すまんの。美よ」
「今更、かしこまらんでも良いわ」
蝶華を見つめる毛大。
「美よ。何やら、今日はやけに綺麗に見えるが何かあったかの?」
その言葉に頬をほんのりと赤らめる蝶華。
「な、何を申すかえ?妾はいつもと変わらんぞよ」
「そうかの?気のせいのかの?いつになく乙女に見えるが」
先程の毛大に男を感じていた蝶華は、心の内を見透かされたような思いであった。毛大を支えていた腕を咄嗟に引き抜いてしまう蝶華。床に落ちる毛大。
「あいたた。何をするのじゃ、蝶華」
「お、お主が要らぬことを申すからぞよ」
慌てて立ち上がる蝶華は、顔を見られまいと背を向けてしまう。
「何を照れておる?」
「て、照れてなどおらぬわ。バカか、珍爺は。そ、それよりもどうするのじゃ」
蝶華は、言うとはぐらかすように視線を真希乃に向けた。
「ふむ、それなんじゃが」
「何か当てがあるのかえ?」
毛大は遠く彼方を見つめる。
「ここはやはり、あいつに委ねるしか、ないと思うのじゃがの」
蝶華が驚いて、毛大を覗き込む。
「あいつ?まさか、あいつのことかえ?」
毛大は、口元の血を手で拭う。
「危険じゃが、あいつしか真希乃を抑えられんでの」
「しかしのぉ、珍よ。妾の元を去ってから、どこにいるかもわからんのじゃぞ?」
「恐らく、まだあそこじゃろ」
「あそこにおったにせよ。妾は賛成しかねる」
「あやつしかマキノの豹変を抑えられんのは、美もわかっておるじゃろ?」
「そうは言うてもの、あやつの力は・・・」
蝶華が何かを言おうとするのを遮るように蝶華の肩を掴む毛大は、優しく微笑む。
「大丈夫じゃ。なんとかなるじゃろ」
「そうかえ?じゃが、妾は共に行けぬ。まさか、珍一人で行く気かえ?」
「いや、わし一人じゃ無理じゃろ」
「他に誰かおるかえ?」
「ここは、やはり、チヨリしかおらんじゃろ?お供には」
「チヨリ?あれは、単に男好きなだけじゃぞよ?」
「だから、あやつにはいいんじゃよ。対反する性格のチヨリがの」
「そんなもんかえ?」
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