蜃気楼の向こう側

貴林

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11 真希乃と彩花とチヨリと

彩花の部屋にて

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真希乃を肩に担いだままのチヨリは、天蓋のある白い絹の間仕切りが掛かる寝台に眠る彩花を見る。
辺りを見回すと寝台は一つしかなかった。
困り果てるチヨリは、丸い食卓に真希乃を寝かせると、予備の布団を抱えてくると、彩花の寝台からは離れた場所にある人が寝るには困らないほどの長椅子の上に布団を広げた。
そこに真希乃を寝かすと、掛け布団を掛けた。
しばらく、真希乃を見下ろしていたチヨリだったが、何を思ったのか真希乃の布団に潜り始めたではないか。
眠りこける真希乃の腕を横に伸ばすとそれを枕にするチヨリ。
真希乃に擦り寄るチヨリは、嬉しそうに目を閉じた。
「あったけえなぁ。おら、ここ好きだぎゃ」
あまりの気持ちの良さに、ホッとしたのか、瞼が重くなり始めるチヨリは、いつしか眠りについてしまう。


       ・・

「ままま、真希乃!」
ウトウトしながら目を覚ますチヨリは、すぐ横で寝ていた真希乃が彩花に胸ぐらを掴まれてグラグラと揺すられているのを見た。
「な、何がどげんしたっしょ?」
さすがの真希乃も、こうも頭を揺すられては、ウカウカ寝てもいられず目を覚ましている。
「ど、あ、ちょ、ま、あ」
激しく彩花に体を揺すられているため、まともに言葉に出来ないでいる真希乃。
チヨリもさすがに事態を飲み込んだのか、慌てて起き上がると、彩花の腕を掴むと捻り伏せていた。
「いた!何するの?」
「アヤカこそ、何するっしょ?あたいのマキノが壊れるに」
「な、あたいの マキノ?」
その言葉に手を止める彩花。咳き込む真希乃をかばうように、胸の中に抱きしめるチヨリ。
ふくよかな胸に沈み込む真希乃の顔。
「いじめたら、めっしょ?」
更にぎゅうと抱きしめるチヨリ。
更に胸に沈み込む真希乃。
彩花は、見るからに年下の割に自分よりも豊かな胸に沈む真希乃に嫉妬した。
真希乃も、酔いしれたようにとろけそうな表情である。
「こら、真希乃を離せ」
チヨリの腕を掴もうとする彩花だが、真希乃を抱えたままのチヨリは、膝立ちのまま軽やかに背を向ける。
更にチヨリを捕まえようとする彩花だが、スルリと膝歩きで体を回し避けてしまうチヨリ。
自分よりも明らかに大きな体の真希乃を抱えたままである。
彩花は、只者ではないのがわかると、下段蹴りでチヨリの膝を払おうとするが、ヒョイと飛んで避けてしまうチヨリ。
それも真希乃を抱えたまま食卓の上に降り立ったのである。
すごい跳躍力である。これには、彩花も流石に驚いている。
「あ、あなたは何者?」
「あたいは、チヨリだ。アヤカ」
「え?私を知ってるの?」
「当たり前っしょ。看病したの誰だと思ったか」
彩花は、これまで昏睡していてようやく目を覚ましたばかりであった。
「看病って」
状況を理解した彩花は、その場に膝をつき崩れた。
すると、チヨリは抱えていた真希乃を放り投げると、彩花に駆け寄った。
「アヤカ、まだ痛むのか?」
「え?」
どうやったのか、彩花はチヨリにお姫様抱っこされていた。
軽々と抱き抱えると彩花の寝ていた寝台に彩花を横にさせた。
「え?ちょっと」
「まだ、起きたら、ダメずらよ」
「ずら?」
そんなやりとりを、放り投げられて立ち上がろうしている真希乃が見ている。
「誰だよ、その子は?彩花」
声をかけたその時、チヨリが何を思ったのか、彩花のシャツの前ボタンをものすごい速さで外すと大きく広げた。
ブラをしていない彩花の胸は、露出することになる。
一瞬、何が起きたのか分からない彩花は、隠すことすら思いつかない。
こうなると、露わになった彩花の乳房を思い切り拝むことになる真希乃。
「ぶわっひゃ」
吹き出す声と驚く声が混じった変な声を発する真希乃。
「え・・・」
当然、彩花も急に胸の辺りが風通しが良くなったので、まさかと思った。
恐る恐る下を見る彩花は、露出した自分の乳房を見た。そして、それを見ている真希乃を見た。
目の前では、ニコニコしながらチヨリが言う。
「目が覚めたんなら、お着替えするっしょ?」
「あひ・・・」
変な声を出したのは、彩花も同じであった。
「きゃああああ、バカー」
バシン
彩花は立ち上がると真希乃に駆け寄った。思い切りビンタを喰らう真希乃であった。
「なんで、俺なのぉ?」
それが、真希乃の断末魔の叫びとなった。
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