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『人型』自律兵器1
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あっけなく、歯車とバネをまき散らしながら、少女の形をしたものは床に転がる。
無造作に使用人型の下半身の車輪を前肢の一撃でなぎ倒したのは、硬質な緑の金属で形を成した獅子だった。頭部から尾てい骨で揺れる尾まで、錬成された金属で構築されたそれをムジカは知っていた。
獅子型の頭部に収まる眼球型の視覚センサは緑色。にもかかわらず、ムジカに無機質な敵意を向けている。
つまり、ムジカが歌う前に指揮者が登録されている機体だった。
当たり前だ、たとえ橙色だろうとこいつにムジカの声は届かない。
即座に身を翻したムジカは、無駄だとわかっていても恐怖を紛らわせるために叫んだ。
「自律兵器まで現れるなんざ、ツイてないなんてもんじゃないだろ!?」
それは黄金期の大戦を制した、戦うためだけに作られた奇械、自律兵器だった。
作り物の体でありながら自立思考を有し破壊に特化したそれは、たった一機で街を一つ壊滅させると評判だ。
各国では発掘競争が巻き起こっているらしいし公認探掘隊の目的もそれらしいが、今のムジカには関係ない。
自律兵器にはムジカの声は届かない。当たり前だ、奇械への干渉もごく一時的なものなのだ。
そもそもムジカ自身にも、自分がなぜ奇械へ干渉できるかわかっていない。
奇械よりも高度に保護術式が編み込まれている自律兵器なのだから、干渉できないのも当然と言えた。
だからこそ見つかったら最後、逃げ切れないことも知っていた。
逃げ出しながらも覚悟していたムジカだが、自律兵器はすぐに追ってこない。
高圧洗浄機の噴射される音。
振り返ったムジカは目をむいた。
「使用人型!?」
立ちふさがっていたのは、ムジカが一時的に指揮者登録をした使用人型の奇械だった。獅子型に比べれば頼りない少女の姿をまねた奇械は、しかし一歩も引かず高圧洗浄機を構えていた。
確かに、奇械には基礎概念として指揮者となった人間を最優先で守るようすり込まれている。奇械にとっては当然の行動だ。
「っ……!」
雑務用の奇械と自律兵器では性能に天と地ほども差がある。
だが、好機だ。
こみ上げてくる衝動をムジカは足に込め全速力でその場を離れた。すぐ先にあった分岐をめちゃくちゃに曲がりながら、自動拳銃を取り出す。
感傷に浸っている場合じゃない。
生きろ、生きろ、走れ!!
いくらもせず、通路に金属が切り裂かれる耳障りな音が響き、ムジカは奥歯をかみしめた。時間は稼げた、それでも圧倒的に足りない。
いつの間にか、自生するエーテル結晶が少ない区域に入っていたが気にする余裕もなかった。
ムジカは暗い中を飛ぶように走りながら思考する。
「獅子型はなんだったか。思い出せ、主要武器は水銀。射程範囲は最大20ヤード。触れたものをばらばらに切り裂く流動金属! ちくしょう、人間相手に使っていい装備じゃねえぞっ」
思考が声に漏れてしまうのは、恐怖を紛らわすためだと自覚していた。
機械仕掛けの四肢が躍動する音が聞こえてくる。自律兵器は総じて耳がいい。どうせ無言でいたって足音をたどって追いかけてこられる。
振り返る暇はない。しかしすでに分岐はなく、隠れる場所も見つからない。
焦燥に身を焦がしながらも、通路の先に冴えた光を見いだしたムジカは、全力でそこへ飛び込んだ。
無造作に使用人型の下半身の車輪を前肢の一撃でなぎ倒したのは、硬質な緑の金属で形を成した獅子だった。頭部から尾てい骨で揺れる尾まで、錬成された金属で構築されたそれをムジカは知っていた。
獅子型の頭部に収まる眼球型の視覚センサは緑色。にもかかわらず、ムジカに無機質な敵意を向けている。
つまり、ムジカが歌う前に指揮者が登録されている機体だった。
当たり前だ、たとえ橙色だろうとこいつにムジカの声は届かない。
即座に身を翻したムジカは、無駄だとわかっていても恐怖を紛らわせるために叫んだ。
「自律兵器まで現れるなんざ、ツイてないなんてもんじゃないだろ!?」
それは黄金期の大戦を制した、戦うためだけに作られた奇械、自律兵器だった。
作り物の体でありながら自立思考を有し破壊に特化したそれは、たった一機で街を一つ壊滅させると評判だ。
各国では発掘競争が巻き起こっているらしいし公認探掘隊の目的もそれらしいが、今のムジカには関係ない。
自律兵器にはムジカの声は届かない。当たり前だ、奇械への干渉もごく一時的なものなのだ。
そもそもムジカ自身にも、自分がなぜ奇械へ干渉できるかわかっていない。
奇械よりも高度に保護術式が編み込まれている自律兵器なのだから、干渉できないのも当然と言えた。
だからこそ見つかったら最後、逃げ切れないことも知っていた。
逃げ出しながらも覚悟していたムジカだが、自律兵器はすぐに追ってこない。
高圧洗浄機の噴射される音。
振り返ったムジカは目をむいた。
「使用人型!?」
立ちふさがっていたのは、ムジカが一時的に指揮者登録をした使用人型の奇械だった。獅子型に比べれば頼りない少女の姿をまねた奇械は、しかし一歩も引かず高圧洗浄機を構えていた。
確かに、奇械には基礎概念として指揮者となった人間を最優先で守るようすり込まれている。奇械にとっては当然の行動だ。
「っ……!」
雑務用の奇械と自律兵器では性能に天と地ほども差がある。
だが、好機だ。
こみ上げてくる衝動をムジカは足に込め全速力でその場を離れた。すぐ先にあった分岐をめちゃくちゃに曲がりながら、自動拳銃を取り出す。
感傷に浸っている場合じゃない。
生きろ、生きろ、走れ!!
いくらもせず、通路に金属が切り裂かれる耳障りな音が響き、ムジカは奥歯をかみしめた。時間は稼げた、それでも圧倒的に足りない。
いつの間にか、自生するエーテル結晶が少ない区域に入っていたが気にする余裕もなかった。
ムジカは暗い中を飛ぶように走りながら思考する。
「獅子型はなんだったか。思い出せ、主要武器は水銀。射程範囲は最大20ヤード。触れたものをばらばらに切り裂く流動金属! ちくしょう、人間相手に使っていい装備じゃねえぞっ」
思考が声に漏れてしまうのは、恐怖を紛らわすためだと自覚していた。
機械仕掛けの四肢が躍動する音が聞こえてくる。自律兵器は総じて耳がいい。どうせ無言でいたって足音をたどって追いかけてこられる。
振り返る暇はない。しかしすでに分岐はなく、隠れる場所も見つからない。
焦燥に身を焦がしながらも、通路の先に冴えた光を見いだしたムジカは、全力でそこへ飛び込んだ。
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