朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

文字の大きさ
80 / 214
第五章

80

しおりを挟む

「一服するかね? バナナの葉だ」
「すいやせん。いただきます」

 一眠りしたアドラーは、取り調べを受けていた。
 リザード族の差し出したパイプを貰う。

「アドラーさん、困るんだよね、実際。例年と違うことが起きて、ピリピリしてるんですよ」

「本当にすいません」
 アドラーは平謝り。

 取り調べに来た若いリザード族は、とてもまともだった。
 冒険者のガイドをしたことがあるらしく、共通語を話せて開明的。

 遅れた野蛮人扱いされるリザード族の面影はない。

 若者の名前はハプシェ。
 アドラーから事情を聞きながら、何かとアドバイスまでしてくれる。
 彼らも、こんな事を問題にしたくないのだ。

「魔物の大集団が東へ走り去った。何十体かが村に目を付けたが 、何とか退けた。その前から、この一帯には病気が流行っていて、村の長老達はたたりだと恐れている。そんなとこに、あんたらが現れたんだ……」

 ハプシェの説明を聞いてアドラーは感謝する。
 その場で叩き殺されなかったのは、若いリザード達が押さえてくれたからだ。

「それでな、長老やシャーマン達は騒ぐんだ」
「なんて?」

 ハプシェは、ちらりとエスネを見ていった。

「生贄を差し出すべきだと、ね」

 アドラーもちらりとエスネを見て答えた。

「若くて金髪の女を?」
「リザード族は、髪の毛がないからな」

 アドラーとハプシェは、声を揃えて笑ってしまった。
 古代より、神への生贄と言えばヒトかエルフの娘と決まっている。
 何故だが知らぬがそうなのだ。

「ア、アドラー、私はこの身を犠牲に戦う覚悟はあるが、いけにえはちょっと……」

 自分の話だと理解したエスネも混ざってくる。
 ハプシェは、理知的な光のある瞳をエスネに向けた。

「我々も困るんです、今どき生贄なんて。そこで、シャーマンや長老とも話しました。神に捧げて、応えが無ければ解放すると言うことで、決着が付いたのですが、ご協力頂けませんか?」

 ハプシェは裏取引を求めてくる。

「神の応答とは?」
 アドラーが聞く。

 焼けた釘を押し付けて火傷にならない、縛って水に沈めて浮かんでこなければなど、野蛮な地球のような風習は受け入れられない。

「祭壇の上に捧げます。それで神が反応しなければ解放と。あれを、見てもらえますか?」

 ハプシェは、小屋の窓から見える湖を指さす。
 湖水の中央に、遥か古代の塔状の遺跡が見えた。

「あれが神の家に続く橋と呼ばれているものです。我らの神はあそこに降臨する、との言い伝えです。ただまあ、一万二千周期の間、何も起きてない傾いた塔ですけどね……」

 アドラーとエスネは、一度相談した。
 そして、祭壇に登って何の反応も無ければ四人を開放するとの条件で合意した。

 出来レースである。
 これで村のシャーマンの面目も立ち、一滴の血も流さずに解決するはず。
 アドラーとハプシェは、がっちりと握手した。

「ふっ……このエスネ、大役を見事努めて見せよう!」
 委員長もノリノリだった。

 日が沈んでから、儀式が始まった。

 食事まで出してくれ、エスネは身を清める為にリザード族の女どもにつれて行かれた。

 ハボットは小屋の中だが、アドラーは同席を認められた。
 もちろん縄や枷もなしで。

 多くの松明と太鼓に笛、男と女がリズムに合わせて踊り、村はお祭り騒ぎ。

「いやー、最近は暗い出来事ばかりで。これどうぞ、木の実を潰したお酒です。人族の口に合うか分かりませんが」

 ハプシェが杯を勧めて、アドラーは受け取って飲んだ。
 梅酒のような味だった。

『病気も流行ってると言ってたな……。解放されたら、リューを連れて正式に訪れようか』
 アドラーは先の事を考えるくらい余裕だった。

 いよいよ、祭りの主演が登場する。

「ま、待て! 待つが良い! こ、この格好で出るのか!!?」
 エスネの声がして、本日の生贄役が出てきた。

 全身を色鮮やかな花や果実で飾り、塗料で肌に模様を描かれたエスネは、全裸だった。
 リザード族の男どもが歓声を上げ、つられてアドラーもガッツポーズをする。

 アドラーを叱るクォーターエルフの姉妹はいない。
 山頂と腰回りだけは絶妙に装飾で隠されているが、この姿を映像に収めて売りさばけば大富豪間違いなし。

 ライデン市で一番人気の女冒険者の裸体がそこにはあった。

「いやー、冒険って本当にいいものですなあ!」
 思わぬ役得に、アドラーの酒も進む。

 ニヤつくアドラーを女騎士がきつく睨んだが、直ぐに頬を赤く染めてうつむいた。
 祭りは、最高潮であった。

 諦めたエスネは祭壇を大人しく登る。
 エスネが遠くにそびえる古代遺跡の塔と正対して座り、シャーマンが長い儀式を始めた。

 当たり前だが、何も起こらない。
 この辺りには、死んでるダンジョンしかなく、神が住む建物などなくなっている。

「かつては居たにしても、とっくに何処かへ移住してるよなあ」

 アドラーはバスティを思い出していた。
 神さまだって、人やそれぞれの種族に混ざって暮らす方が良いのだ。

 一時間ほどの儀式が終わる。

 エスネにとっては屈辱の時間だったろうが、成し遂げた彼女は今回の主役。
 この後は、丁寧にお風呂で磨かれて好きなだけ食事をもらい、この村で一番良い水鳥の羽毛のベッドで眠るだけ……だったが。

 突然、湖の塔が生き返った。
 石組みに沿って青い光が走り、頂上で集約すると天に向って光線を放つ。

「なんだっ!?」
「なぜ今になって!?」
「ま、まさか!」
 今さら神が応えるとは思っていなかった、リザード族の方が慌てていた。

 アドラーは、真っ先に祭壇の上にいた。

「あ、あれは……?」
 エスネの青い瞳が、塔から登る青い光を見つめていた。

「……エスネさん、ひょっとして聖女の子孫かなにかで?」
 青のエスネがふるふると首を横に振る。

「このままだと、本当に生贄ですよっと」
 アドラーは、小脇に裸身の上に花と果実を付けたエスネを抱える。

 シャーマンの周囲に、リザード族の男達が集まり始めていた……。


 ――古代遺跡が蘇る数時間前。

 ミュスレアの指揮の下、残りの面々は崩れかけの神殿に居た。
 周囲と建物の内部を探り、マレフィカが結界をかけ、焚き火を起こし食事にする。

 太陽と鷲の面々も、シロナの団員も落ち着いていた。
 団長と副団長のことを信頼していたし、ミュスレアはエスネと並び称される冒険者で、指揮下に収まるのに誰も文句はない。

 安全になった廃神殿の奥を、キャルルが探検していた。
 他の皆の注意は外にある、万が一の敵襲に備えて。

「ブランカ、バスティ、こっちきて!」

 キャルルが、子供なら潜れる隙間を見つけて、白竜と黒猫を呼んだ。

「入ってみよう!」と、キャルルは主張する。

「やめとくにゃー」
 バスティは反対したが、ブランカは乗っかった。

 子供はとても好奇心旺盛で、ブランカには怖いと思うことがない。
 唯一恐れるのは、リューリアに叱られてのご飯抜きくらい。

「仕方ないにゃあ」
 バスティも、二人に続いて隙間に潜り込む。

 大人たちは忙しく、結界の中で子供たちが勝手に冒険を始めても、誰も気付いていなかった。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...