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新章:
番外編:愛する人 〜ノルンSide〜
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『アンジェロ様が消えてしまった』
治癒士の言葉が今でも信じられない。だが、愛を誓い互いの左手にはめた指輪を不思議そうな顔で見つめる姿を見て、残酷な言葉の意味を理解させられた。
今、アンジェロ様の中には「オガワ・トーマ」という別人格が表に出てきている。
アンジェロ様の中にいるオガワ・トーマ様は、アンジェロ様の中に入る前は、重い病気を患っていたという。
だが、治療の結果はトーマ様の望むものではなく日に日に弱っていく体を見つめながら、健康な体が欲しいと望み深い眠りについたそうだ。
そして、目が覚めるとアンジェロ様の体の中に転生していたと言う。
トーマ様にアンジェロ様を体の中で感じないかと尋ねたが自分以外の何かを感じることはないと言われる。
主人格であるアンジェロ様は一時的に深い眠りについているのか、まさか本当に消されてしまったのか……
その答えを出すのはとても怖かった。
私はアンジェロ様が戻ってくることを信じて待ちトーマ様に仕えることにした。
トーマ様は大人な方で周囲が騒がしくても常に冷静に物事を判断している方だった。違う世界に転移した事に対しても「まぁ、今の流行りですからね~」と、そんなに驚くこともない。驚きを見せた場面といえば、魔法を使った時くらいだ。
私が見せる魔法に目をキラキラと輝かせ見つめる様子は、アンジェロ様が出会った頃にとてもよく似ていた。
無垢な笑顔で魔法と向き合う姿に懐かしさを感じ、思わず「アンジェロ様」と呼びそうになってしまう時もあった。
トーマ様はアンジェロ様と比較されることをとても嫌われている。一番の理由は、自分を否定されているように感じてしまうからだ。
一度、先王と過ごされているトーマ様の姿が、アンジェロ様そのものに見えた時があった。
先王に向ける視線の柔らかさ、話す時の口調や声量に声色、足の悪い先王の動きを邪魔しないようにしつつ転ばないように支えられる位置どりを自然とこなしていく。
私の目の前にいたのは、いつものアンジェロ様だった。
先王から離れたトーマ様に、おもわず「アンジェロ様」と声をかけた瞬間、トーマ様の表情が陰る。
そして、トーマ様は私から距離をとるようになった。
必要最低限の挨拶を交わし、背中ばかりを見つめる日々。そばに仕えさせていただくだけでも幸せなことだと言い聞かせるが、愛する人からの拒絶に似た態度には心が傷ついた……
しかし、ある日を境にトーマ様は再び私を見てくれるようになる。「仲直りですね」と言って、差し出された日を握りしめた時に見せたトーマ様の照れ笑いは、やはりアンジェロ様と同じ笑顔をしていた。
それからも、今までのアンジェロ様との思い出を巡るようなトーマ様の発言や行動が多くみられるようになった。
幸せを誓い合い互いを守ると言って作ったクリスタルリングを月夜の明かりに照らしながら「こうやって月明かりにリングを照らすと、ノルンさんの瞳の色に似ていますね」と、言っていた時のトーマ様の優しい横顔は、あの時と同じく私の心を包み込んでくれる。
私の中で自然と重なっていくトーマ様とアンジェロ様。
おかしなことを感じていると自覚はしているが……私はアンジェロ様はトーマ様なのだと感じてならないのだった。
治癒士の言葉が今でも信じられない。だが、愛を誓い互いの左手にはめた指輪を不思議そうな顔で見つめる姿を見て、残酷な言葉の意味を理解させられた。
今、アンジェロ様の中には「オガワ・トーマ」という別人格が表に出てきている。
アンジェロ様の中にいるオガワ・トーマ様は、アンジェロ様の中に入る前は、重い病気を患っていたという。
だが、治療の結果はトーマ様の望むものではなく日に日に弱っていく体を見つめながら、健康な体が欲しいと望み深い眠りについたそうだ。
そして、目が覚めるとアンジェロ様の体の中に転生していたと言う。
トーマ様にアンジェロ様を体の中で感じないかと尋ねたが自分以外の何かを感じることはないと言われる。
主人格であるアンジェロ様は一時的に深い眠りについているのか、まさか本当に消されてしまったのか……
その答えを出すのはとても怖かった。
私はアンジェロ様が戻ってくることを信じて待ちトーマ様に仕えることにした。
トーマ様は大人な方で周囲が騒がしくても常に冷静に物事を判断している方だった。違う世界に転移した事に対しても「まぁ、今の流行りですからね~」と、そんなに驚くこともない。驚きを見せた場面といえば、魔法を使った時くらいだ。
私が見せる魔法に目をキラキラと輝かせ見つめる様子は、アンジェロ様が出会った頃にとてもよく似ていた。
無垢な笑顔で魔法と向き合う姿に懐かしさを感じ、思わず「アンジェロ様」と呼びそうになってしまう時もあった。
トーマ様はアンジェロ様と比較されることをとても嫌われている。一番の理由は、自分を否定されているように感じてしまうからだ。
一度、先王と過ごされているトーマ様の姿が、アンジェロ様そのものに見えた時があった。
先王に向ける視線の柔らかさ、話す時の口調や声量に声色、足の悪い先王の動きを邪魔しないようにしつつ転ばないように支えられる位置どりを自然とこなしていく。
私の目の前にいたのは、いつものアンジェロ様だった。
先王から離れたトーマ様に、おもわず「アンジェロ様」と声をかけた瞬間、トーマ様の表情が陰る。
そして、トーマ様は私から距離をとるようになった。
必要最低限の挨拶を交わし、背中ばかりを見つめる日々。そばに仕えさせていただくだけでも幸せなことだと言い聞かせるが、愛する人からの拒絶に似た態度には心が傷ついた……
しかし、ある日を境にトーマ様は再び私を見てくれるようになる。「仲直りですね」と言って、差し出された日を握りしめた時に見せたトーマ様の照れ笑いは、やはりアンジェロ様と同じ笑顔をしていた。
それからも、今までのアンジェロ様との思い出を巡るようなトーマ様の発言や行動が多くみられるようになった。
幸せを誓い合い互いを守ると言って作ったクリスタルリングを月夜の明かりに照らしながら「こうやって月明かりにリングを照らすと、ノルンさんの瞳の色に似ていますね」と、言っていた時のトーマ様の優しい横顔は、あの時と同じく私の心を包み込んでくれる。
私の中で自然と重なっていくトーマ様とアンジェロ様。
おかしなことを感じていると自覚はしているが……私はアンジェロ様はトーマ様なのだと感じてならないのだった。
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