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双子の一度目の人生 ③〜アルマンSide〜

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「……大きいお屋敷だね」
「そう、だね……」

僕とソフィアは目の前にある大きくて立派なお屋敷を見上げそう呟く。
こんな所に僕達の家族がいるなんて考えられなくて、シャルル様に会いに来たのに躊躇してしまい屋敷の門の前で二人して呆然としてしまう。


大きなお屋敷を前に二人で立ち尽くしていると、近くに一台の馬車が止まる。
立派な馬車から出てきたのは綺麗な格好をした一人の男性だった。
その男性は門の前で佇む僕達と視線が合うと、目が見開き不気味な笑みを浮かべて僕達の方へと近寄ってくる。

「ハハ……。まさか……そんな……」

男性は綺麗なブラウンの髪の毛を揺らしブツブツと何かを呟きながらふらふらと僕達の方へと近づいてくる。
男性がなんだか怪しくてソフィアを隠すように僕が前にでると、薄暗く濁ったアメジスト色の瞳に僕の姿が映し出される。

「シャルル兄さん……。こんなところにいたんですね…」
「えっ……!? シャルル……兄さん…?」

突然シャルル様の名前が出てきたので僕が思わず大きな声を上げると、その男性も僕の声に反応したのか不気味な雰囲気がパッと消える。

「あぁ………すみません。私とした事が……。君達は私の屋敷に何か用でも?」

男性はさっきの表情とは違い優しく微笑み僕達に視線を合わせて話しかけてくれる。
男性の表情や雰囲気が変わった事に安心した僕とソフィアはその男性にシャルル様に会いに来た事を伝える。

「そうか……。シャルル兄さんに会いに……。立ち話もなんだから中に入って話そうか。さぁおいで」

ジェイド様に手を差し伸べられた僕は言われるがままその手を取り、ソフィアと一緒に屋敷へと続く門をくぐった……。



お屋敷の中はとても広くて連れられるまま奥の方へと進んで行く。ジェイド様は終始ご機嫌で僕達に話しかけながら屋敷の中を案内してくれる。
そして奥の部屋へと案内され部屋の中へと入ると……そこは誰かの部屋のようだった。

「ここはね……シャルル兄さんの部屋なんだ」

シャルル様がこの部屋にいるのかと思い辺りを見渡すが姿は見えない。それどころか部屋の中は物も少なくて、ずっと人が使っていないようだった。

「ソフィア、アルマン。これを見て。この絵はね、シャルル兄さんのお母上の肖像画なんだよ」

ジェイド様に声をかけられ壁にかけられた大きな絵を見上げると、そこには僕達に似た女性の肖像画が掛けられていた。

「あぁ。やっぱりこうして見ると二人は似ているね……。ねぇ、君達はシャルル兄さんの隠し子か何か?」
「……違います」
「私達のお父さんは……『ライル』って人です」
「へぇ……ライル叔父さんの……。ここに来るのはお父上とお母上には伝えてきたの?」

僕は顔を横にふるふると振る。

「僕達のお母さんは死んで……お父さんはずっと誰だか分からなくて……。僕達は孤児院で育ったんです」
「お父さんを初めて見たのも少し前で……あんな人は私達のお父さんなんかじゃない」
「シスターからシャルル様が僕達の親族だって聞いて……それで一度でいいから会ってみたくて……」

僕とソフィアがここに来た理由をジェイド様は小さく頷きながら聞いてくれる。

「そっか……。シャルル兄さんに会いに来た理由は、家族を求めてか。君達には悪いけれど……シャルル兄さんは少し前に死んでしまったんだ」
「「えっ……!?」」
「流行り病でね、私が兄さんの元を訪ねた時にはもう……」
「そ、んな……」

シャルル様が死んでいた……。
その事実に僕とソフィアは肩を落とし俯く。

「会いたかったよね……。私もシャルル兄さんとは喧嘩別れしてしまってね……家に戻ってきてくれと伝えに行った時には間に合わなかったんだ……。知らされた時はもう……頭がおかしくなりそうだったよ……」

ジェイド様はそう言いながら僕達と視線を合わせかがみ込む。

「シャルル兄さんにしてあげたいことが沢山……沢山あったんだ……。私達が小さな頃にしてもらったを返したかった……」

そう言うとジェイド様は優しく僕達の頭を撫でてくれる。

「アルマンとソフィアは本当にシャルル兄さんの小さな頃にそっくりだ。少し違うのは……たまに見せる優しい笑顔かな……」
「シャルル様はあまり笑わなかったんですか?」
「そうだね、私には笑顔を見せることは少なかったかな……。見ての通り私とシャルル兄さんは似ていない。私と弟は連れ子でね……仲は良くなかったんだ……」

なんだか寂しそうに笑うジェイド様を見ていると胸が苦しくなってしまう。
シャルル様とジェイド様達の過去はあまり幸せではなかったのかもしれない……。

「ねぇアルマン、ソフィア。ここで一緒に住まないか?」
「えっ!?」
「二人がライル叔父さんの子供と分かった今、そのまま見過ごす事なんてできないからね。今日から一緒にここで住めば皆が幸せになれるよ」

ジェイド様の突然の提案に驚いた僕とソフィアはどうしよう……と、顔を見合わせる。
ジェイド様は笑っているように見えるが……その笑顔には陰りがあり、ほんの少し恐怖を感じてしまう。

「あの……僕達シスターに何も言わずにここに来たんです……。だからシスターに相談しないと」
「大丈夫だよ。それは私からシスターに伝えておこう」
「あ……えっと……荷物も……」
「新しい物を買ったらいい」
「いや……でも……」

断ろうにも断れず苦笑いしながらモジモジしていると、ジェイド様の冷めた視線がぶつけられる。

「アルマン……。シャルル兄さんはそんな媚びたような表情はしないよ?」
「え……?」

ジェイド様は豹変したように表情が変わり目つきが鋭くなる。
突然何を言い出したのか分からなかった僕は戸惑いながらジェイド様を見つめる。

「シャルル兄さんは傲慢で我儘で……自分勝手なんだ。いつも私達を蔑むように見つめてきては『卑しい奴ら』と罵声を浴びせるんだ……」

ジェイド様は生前のシャルル様がこんな人だった、自分達にこんな仕打ちをしたと打ち明ける。
僕達はその内容に耳を塞ぎたくなるが……ジェイド様の異様な雰囲気が怖くて何もできずに黙って聞く事しかできなかった。

「ねぇアルマン……ソフィア……。シャルル兄さんが見せる一番綺麗な表情が何だか分かるかい? ……それは『恐怖』だ。眉を下げ私を見つめる水色の瞳を不安定に揺らす時の顔は本当に最高なんだ……」

一体ジェイド様が何を言いたいのか分からず僕は喉をヒュッと鳴らす。
ジェイド様は怯える僕の顔を覗き込むように見つめれば満足そうに口角を上げる。
そして、冷えた指先で頬を撫でられると一気に恐怖心が湧き上がる。

「あぁ……そうだよアルマン。その表情だ……。とても上手にできているよ。これからその顔をもっと見せて欲しいんだ……シャルル兄さんの代わりに……」

恐怖で固まる僕の後ろでソフィアの泣き声が聞こえる。

逃げたい……今すぐにここから逃げだしたい……。

しかし……ジェイド様が放つ異様な雰囲気に圧倒された僕は顔を歪め涙を流す事しかできなかった。

もしかして……僕達はこのままジェイド様に………



そう思った瞬間、部屋のドアが開き誰かが入ってくる。

「ジェイド兄様。こんなところで何……を……」

部屋に入ってきた銀髪の男性はジェイド様と涙を流す僕とソフィアを見て驚いたように目を丸くした……。
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