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8話:ご飯を一緒に!

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 アランはその後、何事もなかったように僕に接してくれる。
 どんな時も優しいアラン。
 その優しさに応えるには僕は一体何ができるんだろうか?
 アランと出会ってから答えの出ない難題を常備菜を作りながら考える。

 日常生活のことは一通り説明し終え、アランも問題なく生活できている。
 もちろん勉強なんて教えられることなどない。
 僕とアランの頭じゃすでに雲泥の差だ。
 他には何かないかなぁぁぁ……

 パックに常備菜を詰め込み、いくつかは冷凍保存用の袋に入れていく。
 冷蔵庫の中に常備菜を全て入れ終えると、冷蔵庫内のスペースを半分使う。
 みっちりと入り込んだ左半分の冷蔵庫。
 その反対の右側はいつもガランとしている。
 右側はアランのスペースとして開けているのだが、使われているのは飲み物を入れるスペースくらい。
 ペットボトルの蓋にはアランの『A』の文字が書かれている。

 アランと生活しだしてから、十日ほど経つがアランが食事しているところも、食事を作っているところも今まで見たことがない。
 きっとアランは食事は寮の一階にある食堂で済ませているのだろう。
 各寮には食堂があり、お金を払えば食堂で済ませることができる。
 だいたい一食450円。
 三食とも食堂になると1350円だが、そこは各自のお財布と相談になる。
 たまになら食堂でもいいかもしれないけれど、お金のことを考えて僕は自炊をしている。
 今まで、仕事で忙しい両親の代わりに食事を作るのは当たり前だったし、食費を抑えながら美味しいものを作るのはとても楽しかった。
 弟や妹の「美味しい」という言葉と、笑顔が合わされば尚更やる楽しみが増える。
 今は一人分しか作らなくていいのだけれど、習慣というものは恐ろしく気がつけば一人分以上を作っている。
 夕飯時になり、夕食を作り終えご飯を食べようと思っているとドアの鍵が開く音がした。
 アランが帰宅したんだと思い、僕は玄関までお出迎えに行く。

「アラン、おかえり」
「ただいま。ご飯作ってたの?」

 アランは僕のエプロン姿を見て問いかけてくる。

「うん、夕飯作ってた。アランはご飯食べてきたの?」
「ううん。今から食べるところ」

 そう言ってアランは手に持っていたビニール袋を掲げる。
 中身はコンビニで買ったパンだった。

「今日は食堂じゃないの?」
「食堂? あ~……ここの食堂にオレが行くと周りの人が気を使っちゃうと思って使ってないんだ。第一寮の食堂も使っていいよと言われてるけど遠いしね」
「じゃあ、ご飯はいつもコンビニで済ませてたの?」
「うん、そうだよ」
 
 そう言って自分の部屋に行こうとするアランを僕は思わず呼び止める。

「ねぇ、アラン。よければなんだけど……僕の作ったご飯食べ、ない?」
「え?」
「む、無理にじゃなくていいんだ。僕の料理は田舎くさいし大したものは出せないし、アランの口に合うか分からないけど、いつもの感じで沢山作っちゃって……」

 もじもじと手をこすり合わせながら、僕は下手くそにアランを夕食に誘う。 
 
ーー断られたらどうしよう……

 そう考えると少し気まずかったけれど、言ってしまったのだから仕方ないと気を持ち直してアランを見つめる。
 アランは僕の申し出に少し間を空けて答えてくれる。

「オレも一緒に食べていいの?」
「うん! むしろ食べてもらいたい!」
「ハハ、嬉しいな。じゃあ、いただこうかな」

 アランの答えが嬉しくて満面の笑みを浮かべながらダイニングのテーブルへとご案内する。
 ランチマットをひいて今日作った肉じゃが、味噌汁、ほうれん草のおひたしと炊きたてご飯を並べる。
 和食のラインナップだけれど、アランの好みにあうだろうかと心配になりながらアランの顔を覗き込む。
 アランは僕のご飯を瞳をキラキラさせて見つめ、嬉しそうに微笑みかけてくる。

「すごく美味しそうだね!」
「ほんと? そう言ってもらえると嬉しい」

 アランの言葉に気をよくした僕は、さぁさぁと食事をすすめる。
 二人でいただきますと両手を合わせ、アランは上手に箸を使い肉じゃがをつまみ、口に入れると目を細める。

「美味しい」

 久しぶりに聞いたその一言に僕の顔もだらしなく緩む。
 その日の夕食は二人でニコニコしながら食べ、楽しい時間が過ごせた。
 夕食が終わるとアランも後片付けを手伝ってくれる。

「ありがとうアラン」
「感謝されることじゃないよ。美味しいご飯を作ってもらったんだから、これくらいしないと」

 アランが皿洗いをしてくれている間に、僕はコンロ周りを掃除していく。
 二人で後片付けすればあっという間に終わり、エプロンを外し終えるとアランがコーヒーまで淹れてくれる。
 ソファーに腰掛け、コーヒーを受け取ると香ばしい大人な香りがかおる。
 淹れたてのコーヒーを口を尖らせ冷ましていると、いつものように眼鏡がくもる。
 そんな僕を見て、アランはクスリと笑い僕の隣に腰掛けてくる。

「ケイ」

 名を呼ばれ顔をアランの方へと見上げると、ズルリと落ちるビン底眼鏡。
 コーヒーの湯気で眼鏡が曇り限られた視界。
 裸眼で見える範囲は、乱視でぼやけている。
 ぼやけた世界だけれど、アランが目の前にいることは分かっているのだが……何故だろう。どんどんアランの顔が近くなる。
 目と鼻の先までアランの顔が近づけば、灰色の瞳と視線が合う。
 僕を見るアランの瞳が弧を描くと、瞳は僕の視界から消え去り……額に柔らかな感触を感じた。





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