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2章
実験
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実験とは、失敗を重ねて成功するものである……と、私は思う。
私は黄金色の本を手に、本日何回目かの悲鳴を上げていた。そして、何度目かのイクシオンの腕の中に落ちていた。
「~っっ、怖っ!!」
「次は屋敷の中にしてみるか?」
「屋根の上に落ちたら死ぬっ! 無理ぃぃ~っ!!」
「いや、思っていたんだが、リトが知っている場所の近くだと落ちる場所は低かった」
「本当?」
「ああ」
イクシオンが白く濁った玉を持って、私を地面に下ろし、おでこにキスをしてから獣騎でお屋敷の方へ戻っていった。
私とイクシオンは今現在、『移転の書』を使って、実験をしている。
本で行ける場所は一度訪れた場所にしか行けないけど、帰還するには玉の場所に出るわけで、毎回、空から落ちるのは何故なのか?
そんな疑問からの実験である。
イクシオンがランダムで色んな場所に獣騎を走らせてヴァンハロー領の色々な場所に行き、私が落ちてくるのを受け止める為に待っているのだけど、確かに、私が知らない場所だと、結構上から落ちていたけど、ヴァンハローの私が足を運んだことがある場所は、そんなに落ちなかったかも?
それを思えば、帰ってきた時のやたらと長い落下も、私が知らない場所で、イクシオンも移動していたから……かもしれない?
「イクシオンがあの時獣騎を停めてくれなかったら……想像しただけで怖い」
獣騎に踏みつぶされていたかもしれないと思うと、アレは本当に停めてくれて助かった。
実験はしっかりやって、検証していかなくてはいけない!
私の今後の為にも!
「ハァー……お屋敷、帰りたくないなぁ……」
お屋敷から逃げ回る為に、こうしていると言っても過言ではない。
傍から見たら、私達は相当変な事をしているように見えると思う。
でも、そうじゃないんだよ。お屋敷に居たら、メイドさん達に無理やり服を引っぺがされて、お風呂で磨かれ、ドレスがキツくなった為に新しい物を買う様に言われて、ドレス屋がお屋敷に来て「もう、どれでも良いよ……」とカッサカサになるまで、選ばされるんだよ……「これでいい」と言っても「これを少し手直しして」とメイドさん達が横から口を挟み、ドレス一着に何時間もかかるのを繰り返されるんだよ……
理由を付けて、抜け出すしか無かったんだよ!!
うちのメイドさん達メッチャ怖いっ!
幸せな花嫁どころか、脅える花嫁だよ!
私はなるべく森の小屋でのんびり暮らしたいから、ドレスは必要ないんだよね。
森から直ぐにお屋敷に戻れる様に『移転の書』を上手く使えないかを実験しているのもあって、何度も繰り返しているわけですよ。
そこら辺のアトラクションより、何が起きるか分からないスリルがあるよ。
大抵、落下するだけだけど。
「そろそろ良いかな? リ・テラビーナ!」
トンッと足がつくと、見慣れたお屋敷の書斎の中だった。
おお、本当に落下が足が着地の時に着くだけだった。少し身構えていた分、足がガクッとなりそうだったけど、後ろから、イクシオンが支えてくれて、転ばずに済んだ。
「これで、実証出来たな」
「そうだね。私が知っている場所なら落下しないみたい。これならどこに行っても、ここに玉を置いておけば帰ってこれるね!」
「じゃあ、次は一緒に移動出来るか、玉をここに置いて、実験してみるかい?」
「じゃあ、一緒にもう一度出掛けよう~」
イクシオンに腰に手を回されて書斎を出ると、書斎の外の扉にはメイドさん達が居て「あら? こんな所にいらっしゃったんですね。さあさあ、今日もお勉強ですよ!」と、イクシオンから引き剥がされて連行されていく。
「イクス~っ! たーすーけーてぇー!」
「イクシオン殿下、メイド長より『殿下はリト様に必要以上に近付かないように』との、伝言ですわ」
「いや、しかし、まだリトと調べごとが……」
「イクシオン殿下の部下の方々が、そろそろ戻って来るようですので、リト様の荷物とご自分の荷物、あと、お仕事がおありでしょうから、イクシオン殿下はそちらを優先なさってくださいませ」
ニッコリ笑顔のメイドさんの言葉にイクシオンも言い返せず、少し耳を下げて私を見て「また日を改めて実験しよう」と、私を見送る。
うわぁーん。裏切者―!
ここは救い出してー助けてー!
「さあ、リト様には招待客への宛名書きを書きながら、招待客がどのような方かを覚えていただきます」
「無理~っ! 普通、招待客なんてイクス関係の人達なんだから、イクスが覚えてればいいと思うの~っ!」
「それはいけませんわ。公爵夫人がそんな事では」
「私は、公爵夫人になりたいわけじゃないのー! いーやぁー」
イクシオンだって『名ばかりの公爵だ』みたいなスタンスで、ほとんど軍の仕事ばかりなのに、たった一度の結婚式の為だけに、人を覚えるって意味が無いと思うの!
絶対、式以外ではほぼ、関わり合いにならない人達だから!
ドナドナと連れていかれれる子牛のように、メイドさんに連れられて自分の部屋で、招待者リストの上から名前とかどういう人かを説明され、イクシオンを連れて賢者の森に引き籠ってしまおうかとすら思っている。
私の森でののんびり暮らしカムバーク!!
私は黄金色の本を手に、本日何回目かの悲鳴を上げていた。そして、何度目かのイクシオンの腕の中に落ちていた。
「~っっ、怖っ!!」
「次は屋敷の中にしてみるか?」
「屋根の上に落ちたら死ぬっ! 無理ぃぃ~っ!!」
「いや、思っていたんだが、リトが知っている場所の近くだと落ちる場所は低かった」
「本当?」
「ああ」
イクシオンが白く濁った玉を持って、私を地面に下ろし、おでこにキスをしてから獣騎でお屋敷の方へ戻っていった。
私とイクシオンは今現在、『移転の書』を使って、実験をしている。
本で行ける場所は一度訪れた場所にしか行けないけど、帰還するには玉の場所に出るわけで、毎回、空から落ちるのは何故なのか?
そんな疑問からの実験である。
イクシオンがランダムで色んな場所に獣騎を走らせてヴァンハロー領の色々な場所に行き、私が落ちてくるのを受け止める為に待っているのだけど、確かに、私が知らない場所だと、結構上から落ちていたけど、ヴァンハローの私が足を運んだことがある場所は、そんなに落ちなかったかも?
それを思えば、帰ってきた時のやたらと長い落下も、私が知らない場所で、イクシオンも移動していたから……かもしれない?
「イクシオンがあの時獣騎を停めてくれなかったら……想像しただけで怖い」
獣騎に踏みつぶされていたかもしれないと思うと、アレは本当に停めてくれて助かった。
実験はしっかりやって、検証していかなくてはいけない!
私の今後の為にも!
「ハァー……お屋敷、帰りたくないなぁ……」
お屋敷から逃げ回る為に、こうしていると言っても過言ではない。
傍から見たら、私達は相当変な事をしているように見えると思う。
でも、そうじゃないんだよ。お屋敷に居たら、メイドさん達に無理やり服を引っぺがされて、お風呂で磨かれ、ドレスがキツくなった為に新しい物を買う様に言われて、ドレス屋がお屋敷に来て「もう、どれでも良いよ……」とカッサカサになるまで、選ばされるんだよ……「これでいい」と言っても「これを少し手直しして」とメイドさん達が横から口を挟み、ドレス一着に何時間もかかるのを繰り返されるんだよ……
理由を付けて、抜け出すしか無かったんだよ!!
うちのメイドさん達メッチャ怖いっ!
幸せな花嫁どころか、脅える花嫁だよ!
私はなるべく森の小屋でのんびり暮らしたいから、ドレスは必要ないんだよね。
森から直ぐにお屋敷に戻れる様に『移転の書』を上手く使えないかを実験しているのもあって、何度も繰り返しているわけですよ。
そこら辺のアトラクションより、何が起きるか分からないスリルがあるよ。
大抵、落下するだけだけど。
「そろそろ良いかな? リ・テラビーナ!」
トンッと足がつくと、見慣れたお屋敷の書斎の中だった。
おお、本当に落下が足が着地の時に着くだけだった。少し身構えていた分、足がガクッとなりそうだったけど、後ろから、イクシオンが支えてくれて、転ばずに済んだ。
「これで、実証出来たな」
「そうだね。私が知っている場所なら落下しないみたい。これならどこに行っても、ここに玉を置いておけば帰ってこれるね!」
「じゃあ、次は一緒に移動出来るか、玉をここに置いて、実験してみるかい?」
「じゃあ、一緒にもう一度出掛けよう~」
イクシオンに腰に手を回されて書斎を出ると、書斎の外の扉にはメイドさん達が居て「あら? こんな所にいらっしゃったんですね。さあさあ、今日もお勉強ですよ!」と、イクシオンから引き剥がされて連行されていく。
「イクス~っ! たーすーけーてぇー!」
「イクシオン殿下、メイド長より『殿下はリト様に必要以上に近付かないように』との、伝言ですわ」
「いや、しかし、まだリトと調べごとが……」
「イクシオン殿下の部下の方々が、そろそろ戻って来るようですので、リト様の荷物とご自分の荷物、あと、お仕事がおありでしょうから、イクシオン殿下はそちらを優先なさってくださいませ」
ニッコリ笑顔のメイドさんの言葉にイクシオンも言い返せず、少し耳を下げて私を見て「また日を改めて実験しよう」と、私を見送る。
うわぁーん。裏切者―!
ここは救い出してー助けてー!
「さあ、リト様には招待客への宛名書きを書きながら、招待客がどのような方かを覚えていただきます」
「無理~っ! 普通、招待客なんてイクス関係の人達なんだから、イクスが覚えてればいいと思うの~っ!」
「それはいけませんわ。公爵夫人がそんな事では」
「私は、公爵夫人になりたいわけじゃないのー! いーやぁー」
イクシオンだって『名ばかりの公爵だ』みたいなスタンスで、ほとんど軍の仕事ばかりなのに、たった一度の結婚式の為だけに、人を覚えるって意味が無いと思うの!
絶対、式以外ではほぼ、関わり合いにならない人達だから!
ドナドナと連れていかれれる子牛のように、メイドさんに連れられて自分の部屋で、招待者リストの上から名前とかどういう人かを説明され、イクシオンを連れて賢者の森に引き籠ってしまおうかとすら思っている。
私の森でののんびり暮らしカムバーク!!
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