やさぐれモードの私はもふもふ旦那様を溺愛中

ろいず

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2章

結婚式

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 四月の春めいた木漏れ日の中で、ヴァンハロー領に馬車が数多く並び、ヴァンハロー領の人々は馬車から降りて来る貴族達に驚いたり、「お久しぶり」と声を掛けて結婚式の会場となる軍事基地へ向かう。
色とりどりのドレス姿の貴族に、「凄いねぇ」と王家とも何も関りの無い元々のヴァンハローの領民は、領主であり公爵でもあるイクシオンの結婚は意外と大規模な事になっていると、今更驚く。

 元々、軍隊がこの街にはあり、そこに配属された新しい公爵に、領民たちは期待も何もしていなかった。
なんせ、国の出入り口の街とあって、軍の人間は横暴で『守ってやっているんだぞ!』と、上から目線。ただでさえ気に入らない軍にさらに、指揮官として公爵が来るというのだから、堪ったものではない。

 しかも、やってきた公爵は十代になったばかりの若者だったのだから、これはただでさえ鼻持ちならない軍の連中が好き勝手やらかすだろうと思っていた。
しかし、田舎町のヴァンハロー領に続々と引っ越してくる住民が多く、王都からの貴族達の多さ、そして元王都の騎士団長が常に若き公爵を部下として支え、元からいた上から目線の軍部の者達を、公爵の指示で『私の領民を害するような軍の質を落とすような輩は要らない』と、命令を受けてかなりの数の軍人がヴァンハロー領から叩き出され、新しく軍に入ったのは、王都から引っ越してきた元騎士や爵位を持つ家柄の子供達だった。

 徐々に軍人たちは規律正しい軍になり、領民たちを手助けするようにもなり、公爵が王弟だと知ったのは随分後の事で、田舎への情報が来るのは遅く、その頃には『イクシオンの坊主』や『坊ちゃん』と言っていた為……『殿下』呼びになった時には、イクシオンが困った顔をしていた。
それでも十年という月日の実績の積み重なりで、領民たちとの距離を縮めてようやく、完全に受け入れられたという感じだった。

 イクシオンが不遇の王族だと知ったのも随分後の事だが、ここ二年、彼が一人の少女に幸せそうについて歩き、少女リトがこのヴァンハロー領を含め、他の領土も救うために尽力した事は記憶に新しい。
そんなリトとイクシオンが、本日目出度く結婚式を挙げるとあって、領民も少しだけ服装のいい物を着て参列する訳だが……

「なんか、俺達の場違い感が半端ない……」
「何言ってんの。こういうのは気持ちだよ!」
「そうだよ! 領民の方が数は多いんだからね!」

 領民たちはそう言いながら、貴族の集団を見て戦々恐々とする。昔から軍や貴族には下に見られがちな領民なので、苦手意識も強い。
しかし、参列する貴族は領民にも軽く会釈をしていくので、「殿下が内輪だけの式だって言ってたから、変な貴族は呼んで無いんだな」と、少しだけ胸をなでおろした。


 ◇◇◇◇◇

 白いウエディングドレスに身を包んだリトが何回目かの、深呼吸と「どうしよう~っ、緊張してきた~っ!」と、声を上げている。

「落ち着いて、リハーサルもしただろう? 心配ない」
「うん。そうなんだけど、ドキドキして口から心臓が出そう~っ!!」

 眉を下げて顔を赤くしているリトの可愛さに少しだけ、理性がグラグラと揺れる。
横でアーデルカとアンゾロが「リト様、落ち着きなさいませ」と、言っていなければ唇を貪っているところだ。

「アーデルカさん~っ、人多くないですか?」
「いえ、少ない方ですわ。日程が早まった為に参列できない方々も多くいらっしゃいますから」
「うーっ、女は度胸、女は度胸……すーはぁー……」
「イクシオン殿下、リト様、そろそろ入場を」

 リトに手を差し伸べると、手を乗せてはにかんだ笑顔を向けてくる。
本来ならば、リトには介添え人が必要だったが、異世界とこの世界の時間がズレているかどうかが、まだ判明していない為に、リトの両親は呼べず、「介添え人をお父さん以外がしたら、悲しんじゃうから」という事で、一緒に入場となった。

「イクス、やっぱり、イクスは軍服が似合うね」
「リトのドレスもよく似合ってる」

 嬉しそうに笑うリトと一緒に歩きながら入場し、祭壇になっている高台へ上る。
元王女付き親衛隊だったクリヴスという名の神父が前に立ち、祝福の言葉を口にし、それに耳を傾ける。
それなりに長い言葉なので、リハーサルで十分という感じだ。
リトは「え? 誓いの言葉とかは無いの?」と、言っていたが、この世界にはそういったものはない。
お互いに神の前で「夫とすることを誓う、妻とすることを誓う」と、リトの世界では皆の前で宣誓するのだそうだ。
確か、「幸せな時も困難な時も、富める時も貧困にあえぐ時も、病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつまで愛し、慈しみ、貞操を守り抜く事を誓う」という言葉だっただろうか?
宣言せずとも、それは当たり前のことで、リトしか自分には居ないのだから、リトだけを愛して、死ぬ時までそれは変わらないだろう。

「リト様、殿下の名を」

 リトが少し目を上に動かして「イクシオン・エディクス・セラ・ヴインダム」と口にする。
リトの右手を取り、唇を当てて「リトに永遠の愛を」と言い、右手の手袋を外して『鴨』の結婚印を参列者に見せる。

「イクシオン殿下、リト様の名を」

 リトの目を見て「カモネ・リト」と口にする。
リトがオレの左手の手袋を外して、「イクシオンに永遠の愛を」と言って、キスを手の甲にしようとして ドレスにつまづき、屈んで受け止めると、恥ずかしそうにリトが顔を上げて唇が微かに額に当たった。
リトの額が白く光り、リトの額に王家の紋章が結婚印として現れた。

「あっ!」
「あ……」

 リトがバッと額に手を当てるが、こればかりはどうしようもない。

「や、やり直しは……?」

 オレが小さく首を振ると、リトがクリヴス神父に助けを求めるように見るが、クリヴス神父も首を横に振る。
顔を真っ赤にしてリトが、自分の顔を手で覆うが、額に結婚印が出てしまっているので、拍手が起こる。
涙目で顔を赤くしているリトに「前髪で隠れる位置だから大丈夫だ」と慰めて、プルプルしているリトを連れて、退場になった。
退場中に領民たちからフラワーシャワーを掛けられ、「おめでとうございます」と言葉を貰う。

 あとは披露宴でダンスと食事を参列者たちと楽しむだけなのだが、休憩室でリトが「一生に一度なのに……失敗しちゃった……」と、涙をぽろぽろ零してしまっている。

「リト、結婚印はどこに付けても良いのだから、失敗なんてことは無い」
「でも、おでこ……目立つよ……」
「一目でリトがオレの妻だという事がわかるんだから、オレは嬉しいよ」

 リトのおでこにキスをして、「ダンスを練習したんだろ?」と言うと、リトがコクコクと首を上下に振る。
この披露宴でダンスを踊るのを楽しみに練習をしていたリトは、涙を拭いて頬を両手でパンッと叩くと、気持ちを切り替えた様だ。

「リト、一曲お相手願えるかい?」
「はい! 喜んで!」

 リトの手を引いて既に踊っている人達の中に入り曲に合わせて踊り、リトがその日一番の笑顔を見せてくれた。
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