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2章
鴨根家と旦那様
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私がグスグス泣いてイクシオンの胸に顔を埋めてしまうと、お祖父ちゃんとお父さんも気まずかったのか「悪かった」とだけ口にした。
そんな私達の微妙な雰囲気を壊したのは、誰あろうお母さんである。
「それにしても、イクシオン君? イクス君で良いの? 俳優さんみたいで格好いいわねぇ~」
イクシオンから私をグイーッと手で引き離して、キャッキャッと 燥ぐお母さん。
お母さんはテレビドラマとか映画とか大好きで、とってもイケメンが大好きなのである。
なんでそんな人が、無表情の表情筋が死んでいる様なお父さんと結婚したか? お母さんの好きな外国映画の悪役のクールガイがお父さんと似ていたから。
まぁ、あっちの俳優さんは映画以外では笑顔なんだけどね。
「どちらで呼ばれても構いません。リトのお母上なのですから、私にとっても義母上です」
「まぁまぁ~。お母さんあと十年若かったらヤバかったわー。じゃあシオン君って、呼ばせてもらうわね」
「ちょっ! お母さん! イクスは私の旦那様なのー!」
「いいじゃない。李都は毎日見てるんでしょう? お母さんは義息子に初めて会ったのよ? じっくり仲良くなりたいわ」
イクシオンが少し眉を下げて、私とお母さんに挟まれて困った顔で微笑む。
お母さんは、犬の面倒を見ていたはずなのに、姫ちゃん達はどうしたのかと思えば、メイドさん達が「キャー、子犬ですわ」とキャッキャッとあちらもはしゃいでいる。
獣人さん達は普通の動物が珍しいから、姫ちゃんは人気の様だ。
ボン助がメイドさんのスカートを引っ張って、姫ちゃんを返せと騒いでいる。
どこもかしこも引っ張り合いという感じである。
「絵李果、やめなさい」
「もぉー、日都留さんったら妬き持ち? こんなキラキラの貴公子っぽい子が義息子だなんて、ちょっと自慢しちゃいたいわ。シオン君を連れ歩きたいッ!」
お母さんのはしゃぎっぷりに、お父さんの眉間にしわが寄っている。
愛妻家だからね、一応。
仕方がない……私は、このやり取りを静かに静観していたアンゾロさんの所に行き、持って来て欲しい物をアンゾロさんに頼んで、アンゾロさんが少し不思議そうな顔をしながら部屋から出ていった。
「シオン君は、公爵様で、実は王様なのよね? 複雑だけど……お兄さんを打ち負かしてお城を取り戻したくはないの? こう正当な王家の血筋を自分の手に返せ! みたいな、血肉脇躍る様なドラマ的展開は無いのかしら?」
「私は……こうして、この領で穏やかに、リトと一緒に生きていきたいので、それ以外の望みはありません。国王が替わったところで、国民の生活が変わらないのであれば、無理に国を混乱させるわけにはいきませんからね」
お母さんが残念そうな顔をして小さく口を尖らせているけど、お祖父ちゃんはうんうんと頷いているし、お父さんも小さく口の端が上がっているから、イクシオンの誠実さは通じただろうか?
アンゾロさんが私が頼んだ物を持って食堂室に戻って来て、お父さんの前に頼んだ物を置く。
イクシオンが私を見て、少し困惑した顔をするけど、私は笑ってみせてお父さんに「手作りなの。食べて」とお父さんに勧める。
お父さんの前には手作りプリン。
スプーンでゆっくりと口に運んで食べながら、お父さんの目尻が下がって口元が緩む。
おおっ、今まで見た中で一番のプリンへの笑顔!!
「美味いな」
「それはそうだよ。それ、イクスが私の為に作ったプリンだもの」
お父さんが私に視線を移した後でイクシオンを見て、それから黙々とプリンを食べる。
紅茶を一口飲んだ後で、少し口元をほころばせる。
「李都」
「はい。なんでしょう?」
「お前が大事にされているなら、それでいい」
おおっ、プリンの力は偉大である。
お父さんの心をプリンの甘さが蕩けさせた!!
「うん。お父さんもお祖父ちゃんも変に心配しないで。私が神子でも、イクスは私を利用しようとしているわけは無いんだから。ちゃんと、私が好きで、私を守ろうとしてくれてるの」
「祖父ちゃんもそういう事なら、なにも言わないが、しかし、王家の直系に神子が嫁いだことがバレた場合は、利用されないとも限らない。いざとなれば、ワシは戦うぞ」
お祖父ちゃんはシャツをまくり上げて、老人らしからぬ二頭筋をモキッと見せる。
相変わらずの力こぶで、少しこのお祖父ちゃんは血の気が多いのではないかと思ってしまうが、私も割りと血の気が多いから、お祖父ちゃんの孫なんだよね。血は争えない。
「心配には及びません。リトは、私が命を懸けて守ると誓いましょう」
私の肩を抱いて、お祖父ちゃんにそう言いながらも、目線は私にきて……目を細める。
はわわっ、イクシオンのキラキラスマイルッ!
鼻血が出たら、どうしてくれるのか!? 私の旦那様が王子様~ッ!!
って、私も、お母さんの事が言えないイケメン好きだなぁ、もう。
でも、私までメロメロに蕩けさせるとか、イクシオンにプリンと笑顔と誠実さで、鴨根家が駄目にされてゆく~。
そんな私達の微妙な雰囲気を壊したのは、誰あろうお母さんである。
「それにしても、イクシオン君? イクス君で良いの? 俳優さんみたいで格好いいわねぇ~」
イクシオンから私をグイーッと手で引き離して、キャッキャッと 燥ぐお母さん。
お母さんはテレビドラマとか映画とか大好きで、とってもイケメンが大好きなのである。
なんでそんな人が、無表情の表情筋が死んでいる様なお父さんと結婚したか? お母さんの好きな外国映画の悪役のクールガイがお父さんと似ていたから。
まぁ、あっちの俳優さんは映画以外では笑顔なんだけどね。
「どちらで呼ばれても構いません。リトのお母上なのですから、私にとっても義母上です」
「まぁまぁ~。お母さんあと十年若かったらヤバかったわー。じゃあシオン君って、呼ばせてもらうわね」
「ちょっ! お母さん! イクスは私の旦那様なのー!」
「いいじゃない。李都は毎日見てるんでしょう? お母さんは義息子に初めて会ったのよ? じっくり仲良くなりたいわ」
イクシオンが少し眉を下げて、私とお母さんに挟まれて困った顔で微笑む。
お母さんは、犬の面倒を見ていたはずなのに、姫ちゃん達はどうしたのかと思えば、メイドさん達が「キャー、子犬ですわ」とキャッキャッとあちらもはしゃいでいる。
獣人さん達は普通の動物が珍しいから、姫ちゃんは人気の様だ。
ボン助がメイドさんのスカートを引っ張って、姫ちゃんを返せと騒いでいる。
どこもかしこも引っ張り合いという感じである。
「絵李果、やめなさい」
「もぉー、日都留さんったら妬き持ち? こんなキラキラの貴公子っぽい子が義息子だなんて、ちょっと自慢しちゃいたいわ。シオン君を連れ歩きたいッ!」
お母さんのはしゃぎっぷりに、お父さんの眉間にしわが寄っている。
愛妻家だからね、一応。
仕方がない……私は、このやり取りを静かに静観していたアンゾロさんの所に行き、持って来て欲しい物をアンゾロさんに頼んで、アンゾロさんが少し不思議そうな顔をしながら部屋から出ていった。
「シオン君は、公爵様で、実は王様なのよね? 複雑だけど……お兄さんを打ち負かしてお城を取り戻したくはないの? こう正当な王家の血筋を自分の手に返せ! みたいな、血肉脇躍る様なドラマ的展開は無いのかしら?」
「私は……こうして、この領で穏やかに、リトと一緒に生きていきたいので、それ以外の望みはありません。国王が替わったところで、国民の生活が変わらないのであれば、無理に国を混乱させるわけにはいきませんからね」
お母さんが残念そうな顔をして小さく口を尖らせているけど、お祖父ちゃんはうんうんと頷いているし、お父さんも小さく口の端が上がっているから、イクシオンの誠実さは通じただろうか?
アンゾロさんが私が頼んだ物を持って食堂室に戻って来て、お父さんの前に頼んだ物を置く。
イクシオンが私を見て、少し困惑した顔をするけど、私は笑ってみせてお父さんに「手作りなの。食べて」とお父さんに勧める。
お父さんの前には手作りプリン。
スプーンでゆっくりと口に運んで食べながら、お父さんの目尻が下がって口元が緩む。
おおっ、今まで見た中で一番のプリンへの笑顔!!
「美味いな」
「それはそうだよ。それ、イクスが私の為に作ったプリンだもの」
お父さんが私に視線を移した後でイクシオンを見て、それから黙々とプリンを食べる。
紅茶を一口飲んだ後で、少し口元をほころばせる。
「李都」
「はい。なんでしょう?」
「お前が大事にされているなら、それでいい」
おおっ、プリンの力は偉大である。
お父さんの心をプリンの甘さが蕩けさせた!!
「うん。お父さんもお祖父ちゃんも変に心配しないで。私が神子でも、イクスは私を利用しようとしているわけは無いんだから。ちゃんと、私が好きで、私を守ろうとしてくれてるの」
「祖父ちゃんもそういう事なら、なにも言わないが、しかし、王家の直系に神子が嫁いだことがバレた場合は、利用されないとも限らない。いざとなれば、ワシは戦うぞ」
お祖父ちゃんはシャツをまくり上げて、老人らしからぬ二頭筋をモキッと見せる。
相変わらずの力こぶで、少しこのお祖父ちゃんは血の気が多いのではないかと思ってしまうが、私も割りと血の気が多いから、お祖父ちゃんの孫なんだよね。血は争えない。
「心配には及びません。リトは、私が命を懸けて守ると誓いましょう」
私の肩を抱いて、お祖父ちゃんにそう言いながらも、目線は私にきて……目を細める。
はわわっ、イクシオンのキラキラスマイルッ!
鼻血が出たら、どうしてくれるのか!? 私の旦那様が王子様~ッ!!
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