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繭の恋
祭りのような祝言を
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年末の忙しい時期に、ひときわ賑やかな町中をあげての祝言が行われた。
花婿は言わずと知れた強面の乕松。
そして花嫁は繭だった。
あれよあれよという間に、とんとん拍子で話は進み、正月前の目出度い祝い事となった。
「父ちゃん! 早くしてよ!」
「わかってるよ! まったく、せわしねぇなぁ」
茶屋の佐平は久々に黒い羽織袴を身に着け、羽織の襟をただす。
店の外に出ると、神社通りは町の人々が花婿と花嫁を見ようと表に待ち構えていた。
先頭を白い馬の背には繭が乗り、馬の朱色の手綱を引くのは乕松だ。
その後ろを小さな禿のような子供が二人前を歩き、その横には若い男女が祝いの品と一緒に銭を和紙にくるんでばら撒く。
見物人達はそれを拾って騒ぎ、佐平は「うへぇ」と舌を出した。
「随分と羽振りよくやってるみてぇだな」
「そりゃそうでしょ。【久世楼】の跡取り夫婦になるんだもの」
小梅の前では言えないが、佐平はまるで花魁道中に、家や店が出来た時の挨拶祝いが混ざったような感じだと思った。
厳かな祝いというより、派手に騒いで主役の二人が霞んでしまいそうだ。
乕松の狙いはそれなのかもしれないが、馬の上から花が綻ぶような笑顔の繭を見つめる乕松は、いい笑顔をしてた。
「佐平さん。あんた、【久世楼】の祝い席に呼ばれたんだって?」
「ああ。そうなんだよ。理由はこいつさぁ」
昔馴染みのフキに声を掛けられ、佐平は風呂敷に包んだ三色団子をフキに見せる。
佐平の茶屋の三色団子はとんとん拍子に話が進む。
そんな験担ぎで佐平の三色団子が祝言の席にも出される事になったというわけだ。
繭に小梅と小松も呼ばれ、二人も昨日から化粧だ髪結いだと大騒ぎする始末で、小松は先に神社で神前式を見に行き、小梅と佐平は三色団子に今まで掛かっていた為に、こうして式が終わり、【久世楼】へ向かう二人の後を追って祝いの席に向かうのである。
「佐平さん、次は小梅ちゃんの番だねぇ」
「あー、そりゃあ、そのうちだな」
千吉と小梅の子供のような喧嘩を目の前で見たばかりの佐平としては、こればかりは当分は無理かもしれないと、心の中でくだをまく。
三色団子の入った風呂敷を持ち、佐平は祝い品に群がる町人を避けて歩く。
目の前をすいすいと歩く小梅は、銭の包まれた和紙を空中で手に掴んでは、素知らぬ顔で歩いてゆくのだから、佐平は自分の娘は案外、肝っ玉のすわった女かもしれないと、これは千吉は尻に敷かれちまうなぁと、ほくそ笑む。
【久世楼】に付くと、廊下は朱色の反物が敷かれ、正月よりも派手な祝い飾りが目白押しだった。
佐平は三色団子をお勝手処に持ち込むと、女中達が漆塗りの器に盛り付けて運んでゆく。
「佐平さん、今日はよく来てくれたねぇ」
「久世楼の女将さん、ご無沙汰しています」
「堅苦しいのは無しだよ。さぁ、うちの娘の婚礼祝いだ。楽しんでおくれ!」
ほほほと女将が笑い、佐平の背を叩く。
佐平も笑顔で進められる席へと座り、上座に座る乕松と繭を見る。
乕松は懐に手を入れるものの、煙管は女将に取り上げられているために、大人しく手を膝の上に置き、そわそわと落ち着かず、繭に笑われて眉を下げていた。
「若様、煙管要りますか?」
「あ、いや、平気だ。それより、繭、若様はやめてくれ。夫婦になるんだからな」
「そうですね。なら、旦那様……では、旦那様と区別できませんから、乕松さんで」
「別にさん付けしなくてもいいだろうに……」
「ふふふ。だって、様付けで、今まで呼んでいたものですから」
目を細める繭に乕松は、少し肩をすくめる。
そして、繭の耳へ手を当てて、こそりと耳打ちした。
「で、本当の名前は。今更隠すことないだろう?」
「あら、まだ気にしていたんですか? 仕方がないですねぇ……」
繭が乕松を手招いて耳うちする。
「忘れてしまいました」
そう言った繭に、乕松は「なら、繭は、繭だな」と頷き、繭も大きく頷く。
賑やかな祝いの宴は深夜まで続き、佐平が家に帰る頃には雪が降り始めていた。
今年ももうすぐ終わるのかと、雪を見て思い、今年最後の目出度い事だったと、気分良く寝床に入った。
目出度い事は、まるで伝染するように、佐平の茶屋が忙しくなるのは数日後のことだ。
佐平の茶屋の三色団子で、恋が叶う! と、若い娘達を中心に話が広がり、年末年始と佐平の茶屋は大忙しになる。
嬉しい悲鳴ではあるものの、いつの間にやら若人の間では『恋茶屋』などと呼ばれるようになってしまったのは、佐平としては「どういうこった?」ではある。
店の宣伝の為にと、小梅も春に千吉の元へと嫁ぎ、三色団子で恋を実らせた! と、吹聴して回ったぐらいだ。
小松が微妙な顔はしていたものの、小松も常連客に声を掛けられて、嫁ぎ先が決まり、佐平だけは「納得いかねぇなぁ」と、ぼやく。
「三色団子くださいな」
客の声に、佐平は今日も「はいよー」と声をあげ、茶屋を切り盛りしていくのだった。
___完____
花婿は言わずと知れた強面の乕松。
そして花嫁は繭だった。
あれよあれよという間に、とんとん拍子で話は進み、正月前の目出度い祝い事となった。
「父ちゃん! 早くしてよ!」
「わかってるよ! まったく、せわしねぇなぁ」
茶屋の佐平は久々に黒い羽織袴を身に着け、羽織の襟をただす。
店の外に出ると、神社通りは町の人々が花婿と花嫁を見ようと表に待ち構えていた。
先頭を白い馬の背には繭が乗り、馬の朱色の手綱を引くのは乕松だ。
その後ろを小さな禿のような子供が二人前を歩き、その横には若い男女が祝いの品と一緒に銭を和紙にくるんでばら撒く。
見物人達はそれを拾って騒ぎ、佐平は「うへぇ」と舌を出した。
「随分と羽振りよくやってるみてぇだな」
「そりゃそうでしょ。【久世楼】の跡取り夫婦になるんだもの」
小梅の前では言えないが、佐平はまるで花魁道中に、家や店が出来た時の挨拶祝いが混ざったような感じだと思った。
厳かな祝いというより、派手に騒いで主役の二人が霞んでしまいそうだ。
乕松の狙いはそれなのかもしれないが、馬の上から花が綻ぶような笑顔の繭を見つめる乕松は、いい笑顔をしてた。
「佐平さん。あんた、【久世楼】の祝い席に呼ばれたんだって?」
「ああ。そうなんだよ。理由はこいつさぁ」
昔馴染みのフキに声を掛けられ、佐平は風呂敷に包んだ三色団子をフキに見せる。
佐平の茶屋の三色団子はとんとん拍子に話が進む。
そんな験担ぎで佐平の三色団子が祝言の席にも出される事になったというわけだ。
繭に小梅と小松も呼ばれ、二人も昨日から化粧だ髪結いだと大騒ぎする始末で、小松は先に神社で神前式を見に行き、小梅と佐平は三色団子に今まで掛かっていた為に、こうして式が終わり、【久世楼】へ向かう二人の後を追って祝いの席に向かうのである。
「佐平さん、次は小梅ちゃんの番だねぇ」
「あー、そりゃあ、そのうちだな」
千吉と小梅の子供のような喧嘩を目の前で見たばかりの佐平としては、こればかりは当分は無理かもしれないと、心の中でくだをまく。
三色団子の入った風呂敷を持ち、佐平は祝い品に群がる町人を避けて歩く。
目の前をすいすいと歩く小梅は、銭の包まれた和紙を空中で手に掴んでは、素知らぬ顔で歩いてゆくのだから、佐平は自分の娘は案外、肝っ玉のすわった女かもしれないと、これは千吉は尻に敷かれちまうなぁと、ほくそ笑む。
【久世楼】に付くと、廊下は朱色の反物が敷かれ、正月よりも派手な祝い飾りが目白押しだった。
佐平は三色団子をお勝手処に持ち込むと、女中達が漆塗りの器に盛り付けて運んでゆく。
「佐平さん、今日はよく来てくれたねぇ」
「久世楼の女将さん、ご無沙汰しています」
「堅苦しいのは無しだよ。さぁ、うちの娘の婚礼祝いだ。楽しんでおくれ!」
ほほほと女将が笑い、佐平の背を叩く。
佐平も笑顔で進められる席へと座り、上座に座る乕松と繭を見る。
乕松は懐に手を入れるものの、煙管は女将に取り上げられているために、大人しく手を膝の上に置き、そわそわと落ち着かず、繭に笑われて眉を下げていた。
「若様、煙管要りますか?」
「あ、いや、平気だ。それより、繭、若様はやめてくれ。夫婦になるんだからな」
「そうですね。なら、旦那様……では、旦那様と区別できませんから、乕松さんで」
「別にさん付けしなくてもいいだろうに……」
「ふふふ。だって、様付けで、今まで呼んでいたものですから」
目を細める繭に乕松は、少し肩をすくめる。
そして、繭の耳へ手を当てて、こそりと耳打ちした。
「で、本当の名前は。今更隠すことないだろう?」
「あら、まだ気にしていたんですか? 仕方がないですねぇ……」
繭が乕松を手招いて耳うちする。
「忘れてしまいました」
そう言った繭に、乕松は「なら、繭は、繭だな」と頷き、繭も大きく頷く。
賑やかな祝いの宴は深夜まで続き、佐平が家に帰る頃には雪が降り始めていた。
今年ももうすぐ終わるのかと、雪を見て思い、今年最後の目出度い事だったと、気分良く寝床に入った。
目出度い事は、まるで伝染するように、佐平の茶屋が忙しくなるのは数日後のことだ。
佐平の茶屋の三色団子で、恋が叶う! と、若い娘達を中心に話が広がり、年末年始と佐平の茶屋は大忙しになる。
嬉しい悲鳴ではあるものの、いつの間にやら若人の間では『恋茶屋』などと呼ばれるようになってしまったのは、佐平としては「どういうこった?」ではある。
店の宣伝の為にと、小梅も春に千吉の元へと嫁ぎ、三色団子で恋を実らせた! と、吹聴して回ったぐらいだ。
小松が微妙な顔はしていたものの、小松も常連客に声を掛けられて、嫁ぎ先が決まり、佐平だけは「納得いかねぇなぁ」と、ぼやく。
「三色団子くださいな」
客の声に、佐平は今日も「はいよー」と声をあげ、茶屋を切り盛りしていくのだった。
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