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5章
家出と雨
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マデリーヌの誤解をほんの少しほぐし、少しだけ遅くなった昼食がテーブルに並べられる。
「私はてっきり、そこの【魔王】がこの温泉大陸とエグザドルへの定期船を使い、この街の少女達に成長促進の薬を飲ませ、子供を作りまわり魔族の者が気付いた時には子沢山の状況でも作り出すのかと思っていました」
マデリーヌが表情を変えずにしれっと言い、朱里とリロノスとありすが顔を真っ赤にしてマデリーヌを見る。
「不潔です!!薬を使うとか、どんな最低男ですか!!」
「は・・・破廉恥だ!私はそんな不純な動機で定期船を開港させたわけではない!」
「そんなのうちが許さないし!!」
3人がワーッと、口に出すもマデリーヌは相変わらず感情のない顔で自分の中の考えを口に出す。
「では、貴女は本当に成長促進の薬はされたことはないのですね?そこの獣人に脅されたり、襲われて『番』などになったわけではないと?」
「あ、当たり前じゃないですか!私の家系は胸大きい人が多いのです!背はお婆ちゃんの遺伝なだけで、でも伸びるんですからー!!ルーファスに脅されたわけじゃないです!さっきも言いましたが助けて貰ったんです!襲われたわけでは・・・あれ?・・・うーん・・・」
「おい。アカリ、そこはオレの為にもハッキリさせておいてくれ」
「だって、ルーファス・・・初めての時は・・・ね?」
「確かにそうだが・・・」
ゴニョゴニョと朱里とルーファスが小声で話を始めるが、周りは「襲ったのか・・・」という目線がルーファスに向けられる。
「とにかく、他人にとやかく言われる筋合いはないのです!!」
朱里がマデリーヌに胸を張りながら言うが、ルーファスの膝の上の時点で胸を張ったところで間抜けな感じではある。
「失礼な事とは思いますが、魔国ではこういった事が多いもので・・・」
グサグサとリロノスにダメージを与える言葉に、リロノスが胃を押さえるとありすがすかさず胃薬を取り出してリロノスに手渡す。
「マデリーヌ!いい加減にリロっちに精神攻撃するのは止めるっしょ!」
ありすが怒りながらマデリーヌを嗜めるがマデリーヌはしれっとした顔でパンをちぎって食べている。
「このパンは不思議なパンだな。ホッとする」
マデリーヌがパンを飲み込みながら薄く笑うと朱里が笑顔で頷く。
「はい。ハガネと私の愛情がたっぷり煉られてますからね!出来立てなのもありますけど、マデリーヌさんが笑ってくれてよかったです」
マデリーヌはスッと口元から笑みを消して、また無表情になる。
「私は、笑っていただろうか・・・?」
「はい。美味しい物を皆で食べると笑顔は自然と出るものでしょ?」
「マデリーヌはもっと笑えばいいっしょ!」
朱里とありすが自分達の口角を人差し指で上げてマデリーヌに向けるが、マデリーヌはぎこちない困惑の表情を上げるだけだった。
長い間、感情を顔に出さないでいた為に表情は中々に変わりそうにないが、マデリーヌはほんの少しだけ魔族の子供と女性への未来の為に希望が持てた事へ心は浮足立っているのは確かだ。
「リロっち、マデリーヌの笑顔の為にも早くエグザドルに帰って頑張るっしょ!」
「ああ、そうだな。その前にこの大雨が止まないと何処にも行けそうにないけど」
相変わらずの大雨に窓の外を見て小さなため息が誰からともなく漏れる。
食事の後、マデリーヌはテンに連れられて【刻狼亭】へ宿を取りに行き、リロノスとありすは2人で話し合いがあると言って客間に戻り、アルビーはまた自分の部屋に戻って読書をするらしい。
ハガネはマデリーヌの壊した窓を直している。
朱里の部屋でルーファスを座椅子代わりに朱里がせっせっと編み物をしている。
「それにしても、雨、止まないね。凄く寒いし、ルーファスもう少しギュッてして」
朱里の声に、ルーファスが顔を寄せながら嬉しそうに朱里を後ろから抱きしめる。
ルーファスの黒い尻尾がフサフサと左右に揺れながら喜びを表す。
「雨だとアカリがくっつけと言ってくるから嫌いじゃない」
「ルーファスの体が目当てなんです。しっかり温めてね」
ルーファスの手が朱里のカーディガンに潜り込むと、すかさず朱里がルーファスの手を抓る。
「ルーファス、メッ!さっきの事怒ってるから余計なお触りは禁止!」
「どれの事だ?」
「むっ。マデリーヌさんとの会話です!デリカシーが足りない!」
「正直に答えただけなんだが」
ぺしぺしぺしぺし。
朱里がルーファスの手を叩きながら怒るとルーファスが笑って謝る。
「悪かった。謝る。アカリは本当に可愛いな」
「それ謝ってるの?!」
「オレの番が可愛い!」
「ひゃうっ!」
カプッと首筋を噛まれて朱里が驚いた声を上げながら、ルーファスの頭をぺしぺし叩く。
首筋をルーファスの舌が舐めてゾクっとした事で朱里がこのままではいけないと声を出す。
「る、ルーファス!寒いので温かい飲み物を淹れてください!」
「仕方がないな。なら、後でオレは温かい物の中に挿れさせてもらうかな」
「ん?何か言いましたか?」
「いや、アカリの体が温まる様にジンジャーとリンゴの茶にしような」
「うん。お願いね」
ルーファスがお湯玉を作りながら壁に掛かった瓶の中から赤い茶葉と乾燥リンゴのチップが入った瓶を取り出し、お湯玉に入れていく。
朱里と一緒に冬物市場で買ったティーカップに程よく赤みが増したお湯玉のお茶を淹れてテーブルの上に置く。
「少しスパイシーな香りと甘いリンゴの香りがたまらないね」
朱里がティーカップを手に取りながら、ふふっと笑って一口飲んで息をつく。
「そういえば、その茶にキャラメルソースを少し入れると美味いと聞いたな」
「ルーファス!その情報はどこで?!」
「うちの従業員達がアカリの為に製薬室の奴等と茶葉を作る度に試飲して色々試している時に言っていたが?」
「はう~っ、私【刻狼亭】に少し帰ります!」
「駄目だ。今度キャラメルソースも持ってきてもらうから我慢しろ」
朱里が残念そうな顔をしてチビチビと飲みながら、再び編み物を再開させる。
「アカリは何を編んでいるんだ?」
「これはエグザドルに帰るありすさんの毛糸のパンツです」
「シノノメの物か。道理でやたら桃色なわけだな」
「ありすさんスカート短いから冷やしそうだからね」
「シノノメのあの恰好は女性冒険者並みに凄いものがあるからな」
「ん?スカート短いのって変なの?」
朱里が首をかしげてルーファスを見るとルーファスが頷いて見せる。
「冒険者の女性が動きやすさの為に短くしたりはあるが一般的ではないな」
「そうなの?私、来年の夏はミニスカートで過ごすつもりでしたよ?」
「却下だ!」
ルーファスの噛みつくような視線に朱里がキョトンとするとルーファスが呆れた様な顔をする。
「アカリの元の世界はもしかして短いスカートは普通だったのか?」
「はい。普通ですよ?むしろ若い時ほど足は見せてなんぼって感じかな?」
「まさかアカリも穿いてたのか?」
「穿いてたけど・・・ルーファス?大丈夫?」
顔に手を当ててルーファスが何やらブツブツ言い始めるのを見て朱里がルーファスを揺さぶると、ルーファスにガッツリ掴まれる。
「頼むからアカリは素足を晒して出歩くな」
「えーと、はい?」
「疑問形は無しだ」
「うーん。残念だけど、了解です」
「なんで残念がるのか・・・」
ルーファスが項垂れ、朱里が困った顔をしながら、異世界の違いを噛みしめる。
「でも、一度くらいなら良いかもしれない」
そんな事をどちらが言ったかは雨の中の戯言である。
「私はてっきり、そこの【魔王】がこの温泉大陸とエグザドルへの定期船を使い、この街の少女達に成長促進の薬を飲ませ、子供を作りまわり魔族の者が気付いた時には子沢山の状況でも作り出すのかと思っていました」
マデリーヌが表情を変えずにしれっと言い、朱里とリロノスとありすが顔を真っ赤にしてマデリーヌを見る。
「不潔です!!薬を使うとか、どんな最低男ですか!!」
「は・・・破廉恥だ!私はそんな不純な動機で定期船を開港させたわけではない!」
「そんなのうちが許さないし!!」
3人がワーッと、口に出すもマデリーヌは相変わらず感情のない顔で自分の中の考えを口に出す。
「では、貴女は本当に成長促進の薬はされたことはないのですね?そこの獣人に脅されたり、襲われて『番』などになったわけではないと?」
「あ、当たり前じゃないですか!私の家系は胸大きい人が多いのです!背はお婆ちゃんの遺伝なだけで、でも伸びるんですからー!!ルーファスに脅されたわけじゃないです!さっきも言いましたが助けて貰ったんです!襲われたわけでは・・・あれ?・・・うーん・・・」
「おい。アカリ、そこはオレの為にもハッキリさせておいてくれ」
「だって、ルーファス・・・初めての時は・・・ね?」
「確かにそうだが・・・」
ゴニョゴニョと朱里とルーファスが小声で話を始めるが、周りは「襲ったのか・・・」という目線がルーファスに向けられる。
「とにかく、他人にとやかく言われる筋合いはないのです!!」
朱里がマデリーヌに胸を張りながら言うが、ルーファスの膝の上の時点で胸を張ったところで間抜けな感じではある。
「失礼な事とは思いますが、魔国ではこういった事が多いもので・・・」
グサグサとリロノスにダメージを与える言葉に、リロノスが胃を押さえるとありすがすかさず胃薬を取り出してリロノスに手渡す。
「マデリーヌ!いい加減にリロっちに精神攻撃するのは止めるっしょ!」
ありすが怒りながらマデリーヌを嗜めるがマデリーヌはしれっとした顔でパンをちぎって食べている。
「このパンは不思議なパンだな。ホッとする」
マデリーヌがパンを飲み込みながら薄く笑うと朱里が笑顔で頷く。
「はい。ハガネと私の愛情がたっぷり煉られてますからね!出来立てなのもありますけど、マデリーヌさんが笑ってくれてよかったです」
マデリーヌはスッと口元から笑みを消して、また無表情になる。
「私は、笑っていただろうか・・・?」
「はい。美味しい物を皆で食べると笑顔は自然と出るものでしょ?」
「マデリーヌはもっと笑えばいいっしょ!」
朱里とありすが自分達の口角を人差し指で上げてマデリーヌに向けるが、マデリーヌはぎこちない困惑の表情を上げるだけだった。
長い間、感情を顔に出さないでいた為に表情は中々に変わりそうにないが、マデリーヌはほんの少しだけ魔族の子供と女性への未来の為に希望が持てた事へ心は浮足立っているのは確かだ。
「リロっち、マデリーヌの笑顔の為にも早くエグザドルに帰って頑張るっしょ!」
「ああ、そうだな。その前にこの大雨が止まないと何処にも行けそうにないけど」
相変わらずの大雨に窓の外を見て小さなため息が誰からともなく漏れる。
食事の後、マデリーヌはテンに連れられて【刻狼亭】へ宿を取りに行き、リロノスとありすは2人で話し合いがあると言って客間に戻り、アルビーはまた自分の部屋に戻って読書をするらしい。
ハガネはマデリーヌの壊した窓を直している。
朱里の部屋でルーファスを座椅子代わりに朱里がせっせっと編み物をしている。
「それにしても、雨、止まないね。凄く寒いし、ルーファスもう少しギュッてして」
朱里の声に、ルーファスが顔を寄せながら嬉しそうに朱里を後ろから抱きしめる。
ルーファスの黒い尻尾がフサフサと左右に揺れながら喜びを表す。
「雨だとアカリがくっつけと言ってくるから嫌いじゃない」
「ルーファスの体が目当てなんです。しっかり温めてね」
ルーファスの手が朱里のカーディガンに潜り込むと、すかさず朱里がルーファスの手を抓る。
「ルーファス、メッ!さっきの事怒ってるから余計なお触りは禁止!」
「どれの事だ?」
「むっ。マデリーヌさんとの会話です!デリカシーが足りない!」
「正直に答えただけなんだが」
ぺしぺしぺしぺし。
朱里がルーファスの手を叩きながら怒るとルーファスが笑って謝る。
「悪かった。謝る。アカリは本当に可愛いな」
「それ謝ってるの?!」
「オレの番が可愛い!」
「ひゃうっ!」
カプッと首筋を噛まれて朱里が驚いた声を上げながら、ルーファスの頭をぺしぺし叩く。
首筋をルーファスの舌が舐めてゾクっとした事で朱里がこのままではいけないと声を出す。
「る、ルーファス!寒いので温かい飲み物を淹れてください!」
「仕方がないな。なら、後でオレは温かい物の中に挿れさせてもらうかな」
「ん?何か言いましたか?」
「いや、アカリの体が温まる様にジンジャーとリンゴの茶にしような」
「うん。お願いね」
ルーファスがお湯玉を作りながら壁に掛かった瓶の中から赤い茶葉と乾燥リンゴのチップが入った瓶を取り出し、お湯玉に入れていく。
朱里と一緒に冬物市場で買ったティーカップに程よく赤みが増したお湯玉のお茶を淹れてテーブルの上に置く。
「少しスパイシーな香りと甘いリンゴの香りがたまらないね」
朱里がティーカップを手に取りながら、ふふっと笑って一口飲んで息をつく。
「そういえば、その茶にキャラメルソースを少し入れると美味いと聞いたな」
「ルーファス!その情報はどこで?!」
「うちの従業員達がアカリの為に製薬室の奴等と茶葉を作る度に試飲して色々試している時に言っていたが?」
「はう~っ、私【刻狼亭】に少し帰ります!」
「駄目だ。今度キャラメルソースも持ってきてもらうから我慢しろ」
朱里が残念そうな顔をしてチビチビと飲みながら、再び編み物を再開させる。
「アカリは何を編んでいるんだ?」
「これはエグザドルに帰るありすさんの毛糸のパンツです」
「シノノメの物か。道理でやたら桃色なわけだな」
「ありすさんスカート短いから冷やしそうだからね」
「シノノメのあの恰好は女性冒険者並みに凄いものがあるからな」
「ん?スカート短いのって変なの?」
朱里が首をかしげてルーファスを見るとルーファスが頷いて見せる。
「冒険者の女性が動きやすさの為に短くしたりはあるが一般的ではないな」
「そうなの?私、来年の夏はミニスカートで過ごすつもりでしたよ?」
「却下だ!」
ルーファスの噛みつくような視線に朱里がキョトンとするとルーファスが呆れた様な顔をする。
「アカリの元の世界はもしかして短いスカートは普通だったのか?」
「はい。普通ですよ?むしろ若い時ほど足は見せてなんぼって感じかな?」
「まさかアカリも穿いてたのか?」
「穿いてたけど・・・ルーファス?大丈夫?」
顔に手を当ててルーファスが何やらブツブツ言い始めるのを見て朱里がルーファスを揺さぶると、ルーファスにガッツリ掴まれる。
「頼むからアカリは素足を晒して出歩くな」
「えーと、はい?」
「疑問形は無しだ」
「うーん。残念だけど、了解です」
「なんで残念がるのか・・・」
ルーファスが項垂れ、朱里が困った顔をしながら、異世界の違いを噛みしめる。
「でも、一度くらいなら良いかもしれない」
そんな事をどちらが言ったかは雨の中の戯言である。
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