黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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9章

兎族の子供

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 グリムレインが留まっている為に温泉大陸付近の大陸では雪が降り積もっている。
温泉大陸はグレムレインのドームで大陸全土を覆っているので寒さはそれ程ひどくもなく、雪も少しチラつくだけで終わっている為に大橋を渡ると別世界の厳しい冬模様とは思わない。

 夕食後に兎族の子供の元へ医師が訪れ、今夜が山場だと告げる。
ハガネが傍で看病をしながら、シュトラールが回復魔法を掛けたが、栄養状態や衰弱が激しく魔法ではどうする事も出来ず、ルーファスが確かめる事があると出掛ける準備を始めた。

「おそらく、ガルドアス領のネヴァーと番セリアに話を持って行くべき案件だと思う」
 ルーファスが服を着こみながら出掛ける支度をして屋敷の窓から空模様を見る。

「あの怪我した兎族の子はアンゴラータ族の子なんですか?」
「獣化しているうえに毛がむしられていて種類は分らんが、耳の切り取られ方がセリアと同じものだった」
 朱里が眉を顰め、初めて会った時のセリアを思い出す。
まるで幽鬼の様に痩せて暗く沈んだ顔をした耳を切られた兎族の小さな少女。

「なら・・・あの怪我している子も耳がないの?」
「ああ。アカリに衝撃のあるものは今は見せない方が良いと思って見せなかった」
 ルーファスの言葉にお腹にそっと手を置き、朱里が俯き唇を噛みしめる。
獣人の子供の母親になったからこそ、この事件に関しては身につまされるものがある。
まして今3人目がお腹にいる状態で、子供が酷い目に合っているのは許せるものでは無い。

「アンゴラータ族の商品で獣人が襲われない様にしたかったのに・・・まだ続いているの?」
「それはわからん。需要が無くなったから誘拐した子供を奴隷として売りに出した事も考えられる」
「私の・・・私のせい、ごめんなさ・・・ごめんなさい」
 自分が余計な事をして子供を奴隷に落とし死ぬ目に合わせていると朱里が自分を責めて声を震わせる。 

「アカリのせいじゃない。まだそんな事は机上の空論でしかない。泣くな」
 ルーファスの腕の中で朱里が泣き始めると、少し言葉選びが不味かったとルーファスが反省をしながらも、兎族の子供の命の時間が無い事もあり息子達に助けを求める。

 「ウォン!」

ルーファスの一声にリュエールとシュトラールが直ぐに部屋に顔をのぞかせる。
最近の稽古で即時集合の合図を決めている為に2人の反応の速さに稽古の成果はまずまずだという感じだ。
泣いている朱里を見て2人はすぐさま朱里に駆け寄る。

「母上、どうしたの?」
「母上、どこか痛いの?」
「お前達、オレが出掛けている間に母上の事を頼んでも良いか?」
「任せてよ。父上」
「気を付けてね行ってね。父上」
 リュエールとシュトラールの頭を撫でて、朱里に「行ってくる」と言っておでこにキスをして部屋を出ていくと、部屋の外でグリムレインがルーファスを待っていた。

「我が背に乗せてやろう。ガルドアス領なら飛べば20分もかからん」
「悪いな。頼む」
 ルーファスがグリムレインの背に乗り温泉大陸を飛び立つと吹雪で視界は直ぐに見えなくなるが、グリムレインの一息で吹雪は止み、月の綺麗な夜空が広がる。
白く吐く息と肌を切る様な冷たさに温泉大陸がどれだけグリムレインの力で寒さを半減させていたかを痛感する。

「グリムレイン、お前は何だかんだでお人好しなドラゴンだな」
「我は我の好きなように生きているだけだ。今は嫁中心の中で生きている。婿もそうであろう?」
「まぁ、確かにアカリ中心の世界だな。だからこそアカリが望むように動いてしまうな」
「うむ。我も婿も嫁の言い成りだからな」
 朱里の憂いを払う、その一払いになれば良いがと思うが、今回は無理かもしれないとも思う。
せめて少しでも兎族の子供の親がアンゴラータ族に居れば看取ってもらい安らかに眠ってもらう事で朱里の心が救われればと思う。

 ガルドアス領に着くと、門番に【刻狼亭】が来た事を領主ネヴァー・ガルドアスに会いに来たことを伝え、領の内部に入ると、以前の様な閑散とした陰鬱な街並みからほんの少し活気づいた街並みには酒場の灯や住宅から光が漏れている。

 ネヴァーの屋敷に着くと以前は2人くらいしか居なかった使用人が5人ほどになり、ネヴァーと番のセリアが玄関ホールに訪れ、ルーファスの訪問に少し驚いた表情をする。

「夜分遅くに約束も無しに訪れてすまない。火急の用で話をしに来た」
 グリムレインがドラゴンから人型を取りルーファスの横に立つと、それも2人と使用人を驚かせた。
ドラゴンは希少で珍しい種族な事もある上に、氷竜グリムレインは冬代表のドラゴン。
普通に恐ろしいドラゴンなのだが、朱里やルーファスはドラゴンに慣れすぎていてその辺の感覚には疎い。

「とりあえず、応接間にどうぞ・・・」
「あまり時間が無いので出来れば、ここで話をさせてくれ」
 不躾にはならないだろうかとルーファスとグリムレインを目で見ながらネヴァーが頷くと、ルーファスは早速本題に入る。

「実はセリア嬢と同じように耳を切られ全身の毛を剥がされた兎族の子供を保護した。奴隷にされていたようなんだが、アンゴラータ族の子供かはわからないんだが、心当たりのある子供は居ないだろうか?」
 ネヴァーがセリアを見るとセリアは小さく震えながら両手をルーファスにすがる様に伸ばす。
「その子は、男の子ですか?」
「ああ。男の子だ。喋る事も出来ない状態で今夜が峠だと診断されている」
「どんな子ですか?髪の色や目の色は?」

 ルーファスの腕輪が振動し、朱里が魔法通信を掛けてくる。
「セリア嬢すまない、通信が来たので少し待ってくれ。・・・アカリ、どうした?」
『兎族の子の名前が判ったんです。名前はイヴリンです』
「そうか。こちらでも心当たりがないか聞いてみる。まだイヴリンは持ちそうか?」
『頑張ってみます』
「アカリ・・・無茶な事をしていないか?アカリは今一人の体じゃない事を忘れるな」
『わかってます。でも、出来る事をやってみる』
 ブツリと通信が切れ、ルーファスが小さくため息をつく。
朱里の事だから何かしら無茶をしてそうで不安ではある。これは早めに帰宅した方が良いかもしれないと眉間にしわを寄せていると、セリアがすがる様な目でルーファスを見上げている。

「名前がわかった。イヴリンというらしい。心当たりはあるだろうか?」
「はい、あります。私の友人の弟です!」
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