黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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9章

夜中の帰還

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 夜中の3時を回っても温泉大陸は火を焚きながら、大陸側に作ったドーム状の雪を警戒しつつも復興作業に精を出していた。
夏に使った提灯を温泉街に付け、明るく灯して夜道でも人々が行き来出来るようにしつつ、夏祭りの屋台を路地に出し、無料で温かい夜食と飲み物を提供して声を掛け合いながら、少し笑い声も混じった小さなお祭りの様になっていた。

 大陸側のドーム型の雪は『かまくら』である。
明日の(すでに今日ではある)昼までギルドの人間が来ないので襲撃犯を捕縛しなければいけないが、温泉大陸に入れるのは反対意見が多かったので、大陸側に降り積もった雪を利用して、襲撃犯を縄で縛り15人ずつ入れた『かまくら』を作り、空気穴を竹筒でつくり、入り口も雪で閉じた。
 これならば、襲撃犯が逃げたとしても雪の入り口が開いているかどうかで見張りも直ぐに気付けるので、即席の監房にしては良い出来だと言わざるを得ない。

 深夜なのでほとんど住民やお客は寝ているが、それでもこうして復興作業は進んでいる。
ルーファス達ミシリマーフ国へ行った従業員達に何事もなかったように出迎えてあげたかったのもあるが、それはもうルーファスにバレてしまって無理なので出来るだけ修復したいという所だ。

 あとの理由はもう正月が直ぐそこまで来ていて、正月に家が無いまま年を越させるなんて可哀想だというのもあるし、今年の嫌な出来事は今年のうちに片を付けよう!と、いう事になったからだ。

「女将さん、休んだ方が良いんじゃないかい?」
「平気です!あと少しで主人も帰ってきますから出迎えてあげたいんです」
 朱里に茶屋の婦人が声を掛け一緒に夜食を配る。
夜食を受け取る人達は「冷えるね」と声を掛けながら「夜中の寒さは辛いね」と声を返していく。

「はぁ・・・吐く息が白い」
 妊娠中で体温が上がっているせいか着込んだ分少し汗ばむが、その汗が外の冷気で冷たくなって逆に冷えている感じもする。
『祝福』を貰ってなかったら流産の危険からこんな真似はしないが、ドラゴン達の愛情をたっぷり受け取ったので多少の無茶もやってのけている。

「アカリ、こっちは何とか家の骨組みは建て終わったぞ」
「凄い!早かったね!」
「ドワーフのオッサン達のおかげだ」
 ハガネの足元を見れば朱里よりほんの少し背丈は小さいがガタイの良いドワーフのヒゲもじゃの老人たちが笑って立っている。
老人会の年末温泉旅行がこの温泉大陸だったらしい。
手先の器用なドワーフ達に掛かれば家の1軒や2軒建てるのは造作もない事らしく、同時に5軒分を進めてもらっている。

「皆さん、ありがとうございます!温かい夜食用意してますから、食べていってください!これが終わったら是非【刻狼亭】の旅館でお部屋をご用意していますから、温泉と料理を楽しんで行ってくださいね!」
 朱里の労いの言葉にドワーフの老人たちが笑顔で「高級旅館じゃー!」「露天風呂じゃー!」と、賑やかに騒ぎ笑い合うと、ドワーフの老人たちは腰にぶら下げたお酒を朱里の前に差し出す。

「ドワーフの【火酒】じゃ。嬢ちゃんも寒かろう?飲むか?」
「ありがとうございます。でも、私お腹に赤ちゃんが居るのでお酒は飲めないんです」
 朱里がまだ小さなお腹を撫でながら笑うとドワーフの老人たちが「なんと!」と驚いた声を上げる。

「なら、嬢ちゃんにはこっちをやろう」
「これは、何ですか?キラキラして綺麗ですね」
 ドワーフの老人が銀細工に赤石入ったアミュレットを朱里に渡してくる。
「これは火の魔石じゃよ。これ1つで体がポカポカじゃぞい」
「ええ、でもお爺ちゃん寒くないですか?」
「その為の【火酒】よ!ガハハハハ」
「ありがとうございます。有り難く頂きます」
 ドワーフの老人たちに生姜と大根と人参と里芋とコンニャクにプリプリのモツが入ったもつ煮を渡し、ニラがたっぷり入った生姜入りの焼き餃子をご飯代わりに渡していく。
ハガネが七味唐辛子をバサバサと掛けながら、赤いもつ煮をハフハフと言いながら食べて「~っ辛ぇうめぇ~」と白い歯を見せて笑いながらドワーフの老人たちと話をして和気あいあいとしている。

 貰ったアミュレットを服のポケットに入れればポカポカと温かく、ホゥッと息をついて腰をトントンと叩いていると、耳がピクッと動く。

「あっ・・・帰って来たのかな?」
 バサバサと小さいけれど羽音がする。
これは赤ん坊と感覚を共有している時の現象だと朱里が気付き空を見上げる。

 澄んだ寒空にくっきりと見える半月は綺麗だった。
その中を金色の星が4つ近付いてきている。
よくよく見れば、グリムレインの瞳とルーファスの瞳が光って近付いてきている。

 屋台の中から出て路地に出ると、真っ直ぐ朱里の所へグリムレインが降り立ち、朱里の手前ギリギリに止まる。

「おかえりなさい!2人共!」

 笑顔で出迎えるとグリムレインの背中からルーファスが飛び降りて、朱里を抱きしめてくる。
ギュウギュウに抱きつかれて朱里がポンポンとルーファスの腰を叩く。

「ルーファス、強いです。落ち着いて?」
「アカリ、アカリ!大丈夫か?何ともないか?」
「はい。大丈夫ですよ。ルーファスこそ大丈夫でしたか?」
 ルーファスがほんの少し力を緩めて朱里を下から上まで見て、無事を確かめてホッと肩を落とす。

「嫁、帰って来たぞ。ただいまだ」
「はい。おかえりなさいグリムレイン」
 朱里とルーファスの間に首を割り入れて、朱里の頬にスリつきグリムレインが凍ったアイスを朱里に差し出す。
「嫁に土産だ。アイスなのによく伸びるぞ」
「わぁ。これ知ってます。トルなんとかアイス・・・名前忘れちゃったけど、1回食べてみたかったの」
「まだあるが、リューとシューの土産用に凍らせておく」
「ふふ。あの子達喜ぶと思う。ありがとうね」
 満足そうにグリムレインが頷くと、ルーファスが手に青筋を立てながらグリムレインを朱里から引き離す。

「アカリ、オレの土産は2日後に船で届くからな。とりあえず、ただいま」
「はい。おかえりなさい」
 
 ルーファスが朱里の頬を包み込みながらキスをすると、周りにいたドワーフの老人たちから、口笛と笑い声が飛んできて、朱里がいつもの癖で対応してしまった事に耳まで赤くしながら、アミュレットよりこっちの効果の方が顔が熱い~っと心の中で騒ぐのだった。
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