黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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9章

賠償交渉

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 真夜中の帰還に出迎えの準備が間に合わず、少し慌ただしいながらも無事に【刻狼亭】の従業員が戻って来た。
操舵士のキリヒリはフリウーラに「何してんだい!まったくどうしようもないね!」と怒られながらもフリウーラと娘の無事な姿に「だって、心配だったんだよぉぉお」とグスグス涙を流していた。
 抱きつかれたフリウーラが「お離し!」とキリヒリをパシパシ叩いていたが、顔は嬉しそうにしていたので見ていた周りの従業員もキリヒリ夫婦を冷やかしつつ笑っていた。

 従業員を労いながら、荷を運んでいる作業を確認していると、タマホメとメビナがボロ雑巾をルーファスの目の前に投げ込んでくる。
そのボロ雑巾の正体は【風雷商】のアシュレイである。
ルーファスが全力で殴ったのもあるが、顔の半分が腫れあがっていて女装好きの男は無残な姿になっている。

「随分と派手にやられたな」
「半分はお前が殴ったせいだけどな・・・半分は【風雷商うち】の従業員にやられた。あいつ等容赦ない・・・」
 アシュレイが息も絶え絶えに声を出し顔だけ持ち上げて喋る。

「グロリアをうちの方で預かっている。今後の賠償金の話もあるから来い」
「別れた恋人に今更どうしろと言うんだ・・・」
「その別れた恋人のせいでこちらが被害を被ったんだ。責任を取れ」
 はぁ・・・と、息をつくアシュレイにルーファスがため息を吐きたいのはこっちだと蹴りを入れながらアシュレイを引きずって連れていく。

 座敷牢に座っているのは亜人で筋肉質な少し強面の女性。
アシュレイの元・恋人であり、アシュレイの子供を4人産んだグロリア・リッチャー。
お世辞にも美人というよりは軍隊の女性兵士で屈強なアマゾネスと紹介された方が頷ける体躯の良い女性。
 ルーファスとアシュレイを目視すると綺麗な所作で頭を下げる。

「【刻狼亭】の旦那様、この度は申し訳ございませんでした。わたくしの失態でこの様な事に事になり、恥ずかしい限りでございます・・・」
 体格とは裏腹に声の可愛らしく優雅な口調のグロリアにミスマッチさを感じながらもルーファスはアシュレイを見ればアシュレイはばつが悪そうな表情でグロリアから目を逸らす。

「その事に関してはアシュレイにも責任があると思うのでな。アシュレイが君を関係ないと言うならば、温泉大陸の被害賠償はグロリア、君が支払う事にさせてもらう」

 ルーファスの言葉にグロリアが「はい。わたくしが支払いをさせていただきます」と答えればアシュレイが声を上げる。

「俺が全額支払う!こうなったのも俺がグロリアに話をしてしまったのが原因だ!」
「いいえ。わたくしの失態ですので、アシュレイ様はわたくしとはもう無関係ですから気になさらないで下さいまし」
「俺の子供の母親である以上、関係が無いわけじゃない!」
「わたくしは妻でも何でもございませんからお気になさらないで下さいまし!」
「まだそんな事に拘っているのか!」
「そんな事?アシュレイ様こそ妻を娶らない事に拘るのをどうにかなさったら?!」

 2人の言い争いにルーファスがこめかみをヒクつかせていると、お茶を淹れて朱里が座敷牢に顔を出す。

「寒いでしょうから温かいお茶を淹れてきましたよ。グロリアさん寒くは無いですか?」
「わたくしにお気遣いいただきありがとうございます。わたくしはこの通り体は丈夫ですのでお気になさらないでくださいませ」
 グロリアが朱里に頭を下げながら目を伏せて申し訳なさそうに身を縮め、朱里がルーファスとアシュレイを少し睨みつける。

「ルーファス何もこんな夜中に女性の所に押し掛けるのはどうかと思うの?グロリアさんごめんなさいね」
「いや、しかしアカリ・・・」
 朱里がニコリと微笑みながらルーファスに「何か文句でも?」と言わんばかりだった為、ルーファスが口を閉じる。

「アカリ様申し訳ありません。早いうちに物事を運ばなくてはなりませんもの。【刻狼亭】の旦那様も致し方が無いのですわ。賠償金の事に関しましてはわたくしの家名に掛けてお支払すると誓いますわ。誓約書を後程作成いたしましょう。アシュレイ様にもご迷惑をお掛けいたしました。金輪際関わり合いにはなりませんので子供の事に関しましては夫の欄に記入をしてくださいませんでしたから書類上、わたくしの子供でしかありません。アシュレイ様は子供に関しましても金輪際関わらないでくださいまし」

 バッサリとグロリアがアシュレイを言葉で切り捨てると、ルーファスが片眉を上げながらアシュレイを見れば腑抜けた顔のアシュレイが言葉を探して口をパクパクさせている。

「お前・・・子供の出生証明書の記入にすら関わらなかったのか。救いようがないな」
「アシュレイさんは母親であるグロリアさんをないがしろにする父親ですから子供達には悪影響です。関わらない方がお子さん達の為だと私も思います」
 ルーファスがため息交じりに言えば、朱里もツンっとアシュレイにバッサリと言い放つ。

「なっ・・・そんな事が許されるわけないだろう!俺は子供達の父親で子供達は俺の生き甲斐なんだ!」

たじろぐアシュレイにグロリアが冷めた目でアシュレイを見る。

「許されますわ。アシュレイ様は書類でも父親の欄に記載しておりませんもの。それに子供達に不自由な暮らしはわたくしさせませんから、ご安心くださいな。どうぞ新しい恋人でも作って新しい生き甲斐を見つけてはいかが?」
「待ってくれ!グロリア!俺にはあの子達が必要だし、グロリア程の俺好みの女性はグロリアしか居ないんだ!」
「アシュレイ様はそんなわたくしを切り捨てたのですから、今更ですわ!」

 ルーファスと朱里が目線を交わして肩をすくめる。

「オレ達はどちらが賠償金を払っても構わん。そこら辺は2人で話し合ってくれ。アシュレイも今日はココで頭を冷やせ。アカリが冷えるといけないからオレはもう行く。明日また話し合いにくる」
「グロリアさん何かあったら呼び鈴を。直ぐにうちの者が駆け付けますから」
 ルーファスと朱里が出ていくと座敷牢では2人の言い合いが外まで響いていたが、痴話喧嘩にしか聞こえず、耳の良い獣人のルーファスは早く立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。


「それにしても、アカリが人を叩くなんて驚いたな」
「子供達を危険な目に合わせられたら母親なら誰でも怒りますよ?でも、叩かれるより叩いた方が痛いって身に沁みました」
「アカリはよくあのガタイの良いグロリアを叩けたな」
「はい。正座してもらって頬を叩かせてもらいました。グロリアさん頑丈だから私の手が逆に痛くなっちゃって、シューちゃんに治してもらいましたよ」
「アカリ、無茶はしないでくれ・・・」
 ルーファスが朱里の手をにぎにぎと握りながら耳を下げると、朱里が楽しそうに笑う。

「でも、グロリアさん素敵ですよね。好きな人の為に侯爵令嬢なのに『奥様が亡くなる事を懸念されているのなら、わたくし丈夫な体になりますわ。簡単に死んだりしませんわ』って、筋肉ムキムキにしちゃうなんて、凄い愛だと思います。アシュレイさんはともかく、グロリアさんが幸せになってくれると良いなぁ」
 
 一途な愛のグロリアに臆病なアシュレイが答えられずにこじれてこうなってしまったのだから、ルーファスとしては「何をしているのだか?」と思うが、朱里は喉元を過ぎた怒りは直ぐに消化してしまったらしい。

 
 朝、座敷牢に話し合いはどうなったのか聞きに行けば、元の鞘に収まったのか2人で賠償金は支払うという事になり、1から関係をやり直す事になったらしい。
温泉街の壊された家屋や家具などに掛かる代金から品物まで【風雷商】持ちになり、朱里が賞金首の資金から住民や従業員などに支払ったものも【風雷商】から返金されることになった。

 契約書にサインを交わし合い、話し合いも終わるとようやく朱里が肩の荷が下りたのか、軽く寝込みルーファスを心配させた。
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